出逢い

出逢い


 相も変わらず騒がしいシャボンディ諸島の隅にある何処か怪しげな雰囲気を漂わせる人間屋。伽藍堂になった檻の中に一人、後ろ手に海楼石の手錠を掛けられた銀髪の男は静かに目を伏せていた。その体は痛めつけられているが、そんなことを意にも介していないように静かに座り込んでいる。−−−男は人間屋に急に乗り込み、一頻り暴れ回って奴隷達を解放したあと何を思ったのか取り押さえに掛かる人間屋のボディーガード達に両手を上げてみせ降参したのだ。勿論そんなものを信じるほどお人好しではないボディーガード達によって弱るまで痛めつけられたのだが、反撃一つ返さずジッと耐えこうして檻の中に入れられている。それが酷く不気味に思えた人間屋のオーナーからは早く売り捌いちまえ、と吐き捨てられたが如何せん傷が目立つ体では売りものとしては出せず怪我が治るまで放置されることになった。……奇しくもそれが男の運命を変えることになるとは誰も思っていなかったが。

 コツコツ、と複数人の足音を耳に捉えた男は伏せていたその緑の瞳を檻が置かれた部屋の入口に向ける。そこには複数人の天竜人。ああ、あれが天竜人かと無感動に見つめたその男は最後に入ってきた天竜人に目を奪われる。

 居心地悪そうにしつつも表面上は穏やかな笑みを浮かべたその天竜人の名はホーミング聖。天竜人らしからぬその心のうちを見聞色の覇気で感じ取った男、否。女は口を開いた。

「ねえ、最後に入ってきた天におわします天上の人。わたしを買っていただけますか?」

 周りの天竜人が不敬だなんだと騒ぐ中、ホーミング聖と奴隷−−−タンチョウは視線を合わせた。


 曰く。東の海には古くから伝わるこんな諺があるという。『恋はいつでもハリケーン♡』この話はタンチョウが恋に落ちたことで始まった。

Report Page