出会い その4
窓辺から外を眺めるユッキーを見つめていた。不安そうに揺らいでいた瞳は日光を浴びて少し輝きを取り戻している。どうやらそこが気に入ったようなので、ユッキーの定位置はきっとそこになるだろう。
「ねぇユッキー、お願いがあるんだけどさ」
俺はその背中に向かって言う。きっと彼は振り返らないから、自分もベッドサイドに腰掛けて、日光と目を合わせているお花の隣を陣取った。
「毎朝起こして欲しいんだ、学校いく前に」
すると変わらずこちらに視線は向けずに、「わかった」と小さく言うのだった。やはりお花だから光合成が必要なんだろう。
俺もユッキーと同じように日光を浴びていたら、あんまり心地が良くて瞼が重くなるのだった。
「どうやって起こしたらいいんですか」
イントネーションに抑揚がなく、一瞬自分に対して質問されたのだと気づかなかった。
確かに、サボテンのようにトゲでもあれば痛みで目も覚めるだろうが、ユッキーの柔らかな声で起きることができるほど自分の朝の弱さはダテじゃない。毎朝あんなにうるさい目覚まし時計でも二度寝三度寝をかます俺である、自慢ではないが。
「あ、あるじゃん」
俺はユッキーの顔を見て言った。そしてその頬にゆっくりと手を伸ばす。
すると驚かせてしまったようで肩が弾かれたように揺れた。しかし、輪郭に触れた俺の手が何もしないのをわかったのか強張りが次第に抜けていく。
「歯ァ、あんじゃん。毎朝噛んでよユッキー」
きょと、とした目が俺の視線と合う。あ、わかってないな、と思ったので実際に噛ませてみることにした。
そっと唇に人差し指を這わせる。それから上唇の裏を押し割るようにして指先を進めて、完全に口内へ到達した時、その口は反射的に開かれた。
それから無気力に俺の指を食った、というか噛んだ。痛くはないが、この慣れない感覚はこれなら目覚まし時計よりも不快にならないで目覚めることができそうだ。
指を引き抜くと、銀の糸がつう、と一本垂れてどちらともなく落ちた。
「じゃあ毎朝頼んだよユッキー」
まだこのお花はきょとんとした目をしているのだった。