凶兆
「はぁはぁはぁ‥‥」
息を切らしながら砂漠を走る。止まってはならない。
全身が痛い、それでも
これは絶対に届けなければならない情報だ。
――朝
目が覚める。何やら外が騒がしい。
アビドスへの潜入からはや2週間。
狂ったアビドス生を相手に多くの仲間を失いながらなんとか潜伏を続けている。―
残った仲間の疲労も濃い。
だがこの生活も後3日で終わりを迎える。
3大校によるアビドス制圧作戦。私達は作戦に乗じてアビドスを離れる予定だ。
3日後を夢見つつ外に出る。
今日は外部に情報を渡す日だ。
「なにもわかりませんでした」はできるかぎり避けたい。
アビドス生の話を聞くとなにやら「温泉開発部」が砂漠でなにかを掘り当てたらしい。私は仲間達と現場に向かった。
―砂漠― 発掘現場
゛それ゛は青く、光輝いていた。
゛それ゛は今までの砂糖を絶する甘いニオイを放っていた。
薬物中毒の生徒達は表情を崩しニヤついてしている。
゛それ゛を一目見た私はなりふり構わずその場を後にした。一緒に来ていた仲間を気にする余裕などなかった。
私は仲間を追いて逃げ出した。
特別、勘がいい方ではない。
だがこれ以上そこにいることで取り返しのつかない状態になることだけは本能的に理解していたらしい。
゛あれ゛はマズい。言語化できない何かを゛あれ゛は内封している。アレと比べれば、アビドスの麻薬など可愛らしく思えた。
すぐに情報を伝えなければと仲間に連絡を取ろうとする。しかし、誰とも繋がらない。
最悪の想定が頭によぎる。
もう一度確かめに行くべきだろう。しかし、足が動かない。
゛あれ゛にもう一度近づく勇気が私にはなかった。
――夜
゛あれ゛を観測してから私は準備をして夜を待った。
最近のアビドスはセキュリティの強化によってデジタルで情報を送ることが困難になっている。そのため物理的な方法で情報のやり取りしている。
アビドスの砂漠にはかなり離れた位置ではあるが私達が設営した外とも情報を中継する拠点が存在する。
そこへ向かい一刻も早く゛あれ゛の存在を伝えるのだ。もう3大校の制圧作戦まで時間がない。
意を決して外に出る。
アビドスは中に入ることこそ簡単だがアビドスの外に出ることは困難を極める。今まで多数の潜入員が入ってきたが脱出できたものはほとんどいない。
日に日に増えるアビドス生。ちゃくちゃくと増える「アビドスの魔女」の手駒達。彼女達によってほとんどの潜入員は狩られてしまった。最近はまともな情報を送れていないのが現状だ。
なんとか警備の目を掻い潜って砂漠まで来た。バックから偽装用の品を用意し、砂漠を進む。
ゆっくり‥ゆっくり進む。決して気取られぬように‥
――時間後
中継拠点が見えて来た。
あと少しだ‥とはやる気持ちを抑えつつ進む。
数分後中継拠点の目の前に来た。中から人の気配を感じる。
人がいることに安堵を覚えたその時だった。目の前の拠点が爆散した。
爆風をもろに受けた私は砂漠に叩きつけられる。
全身が悲鳴を上げるがなんとか立ち上がることができた。不幸中の幸い、周囲は煙など視界が悪い。私は体にムチを打ってその場を後にした。
――?分後
走る。中継拠点が潰された以上、もう直接情報を伝える他ない。体は悲鳴を上げ続ける。それでも走る。
使命感だけが私を突き動かしていた。
次の瞬間、私の頭に衝撃が走る。
私は体勢崩し、転ぶ。なんとか体を起こそうとするも体に力が入らない。すでに私の体は限界を迎えていたのだ。
体をもぞもぞさせている私に誰かが近づいて来る。
「こちらRABBIT2対象を発見した」
「了解です。RABBIT1確保します」
2人の女生徒が私を背負う。
私はこの生徒を知っている。特にRABBIT1と名乗ったこの生徒。コイツはアビドスの中でも異質だ。皆がアビドスで砂糖をキメているなかコイツだけはキメていない。
それにも関わらずコイツはアビドス側、あの魔女の下で働いている。
許せない。この地獄を見ながらなぜシラフで奴らの手を貸しているコイツは絶対に許せない。
何よりコイツはあの場にいた。青ざめた顔で゛あれ゛を見ていたはずだ。なぜ‥なぜ
私は最後の力を振り絞って声を出す。
「なぜ‥なぜ‥゛あれ゛を見てまだそっち側に加担できるっ!私はあの場でお前がいたことも知っているぞ!」
゛あれ゛は爆弾だ。アビドスにとっても、3大校にとっても、あるいは‥
「‥‥」
私を背負う彼女は喋らない。ただ彼女の肩が震えていることはわかった。
怒りがさらにこみ上げる。だがもう声をあげることも簡単ではなかった。
「卑怯者‥卑怯者」
小さく声を漏らし私の意識は途絶えた。
その日アビドスで見つかった゛それ゛をまだ3大校は知らない。