凪蜂

凪蜂

別室です。カメラで一部始終は生放送されてますが蜂楽は考えないようにしています。

「ん」

そう言って差し出された腕の意図が分からず、蜂楽は首を傾げた。

「え?何?」

「え?」凪はさも当然だ、と言わんばかりの無表情で答える。「何って、脱がせて欲しいんだけど」

「あー!」なるほど合点。「甘えんぼってことね」

「は?甘えんぼじゃないし」

蜂楽の言葉に凪の眉間に少しだけシワが寄った。「いつも玲王はやってくれる。國神もさっきしてくれたよ」

ん。もう一度腕が差し出される。蜂楽は二パッと笑顔を作った。

「流石にそれは甘えんぼさんっしょ♪」

もぉーしょうがないなぁー。なんて言いながら凪の服を脱がすと、スウェット1枚と猫背の中に埋もれていた筋肉質の身体が顕になった。

「うわ〜すご!」思わずぺたぺたと触ってしまう。さすが蜂楽よりも身長が10センチ以上デカいだけある。蜂楽の身体では乗り切らない筋肉の重みがしっとりと手に伝わってくる。以前__ライバルリーよりも前の頃は、着痩せだとしてももっとひょろ長い感じだった……と若干の懐古モードに入りかけたところで、

「……ねぇ、寒いし邪魔なんだけど。」

頭上から降ってきた凪の声ではたと我に返った。そうだった、こんなことをしてる場合じゃなかった。

「にゃは、つい見蕩れちゃった」

「……」凪は蜂楽のちゃらけにも特に反応を示さないでスウェットのズボンを下ろした。どうやら下は自分で脱げるらしい。「早く着替えて終わらせよ」

「…はーい」どうもやりずらいな。とは、口に出さない。言わなくてもいいことだ。

いつものナマケモノみたいな鈍い動き、それからさっきの子供みたいな態度とは全く人が変わったようにテキパキと制服を身につけていく凪に倣って、蜂楽も制服を着る。超久しぶりに腕を通したそれは、少しばかりキツい気がする。成長したのかな。少し嬉しくなった。


「飲む?」声に、そちらを見ると、小さいテーブルに精力剤と思しき瓶が並んでいた。凪はその内の2瓶を手に取って、1本に口をつけ1本をこちらに差し出している。

「ありがとー」丁度、というかずっとヘトヘトな蜂楽はありがたく受け取った。精力剤のラベルにはブルーロックの五角形が印刷してある。こんなものまでオリジナルなのか。驚きを通り越して呆れを覚える。まぁ、別に関係ないことだけど。

小瓶を喉に流し込む。ちょっと苦い。あんまり、いや、全然美味しくない。

「うげぇ〜……まず」

口内がこれ以上進めるのを拒否して、だらだらと口端から温い液体が垂れる。今は非常事態だからともかく、日常生活でこんなものを飲む人間の気が知れない。

半分くらいは吐き出した気がするが、飲み終わる頃には身体、特に腰のコリが気にならなくなった。

「腰が軽い!」

「おじいちゃん?」

「おじいちゃんの気持ち分かったかも」

「ふうん」特に興味のなさそうな、早く先を促すような相槌は下から聞こえた。既に凪はズボンをそこら辺に放って大の字で床に寝転がっていたのだ。

「……」蜂楽はそれを見て顔を引き攣らせる。

湯呑みの中で微塵も波立たない茶に1本立つ茶柱のように、凪の重心のそれが凛々しく屹立していたからである。

デカい。めちゃくちゃデカい。うん。さっきの國神もかなり立派だったけど、それよりも一回りくらい大きいように見える。数時間前にこれを咥えた二子の苦労を思うと涙が出そうになる。

「……うわー」少しでも身体の強ばりを解すため、それから何か生物として負けたような僅かな落胆を和らげるために蜂楽は声を出した。「エゴいね」

「エゴい?」凪は意味を捉えられないようだった。それでいい。状況を茶化すために言っただけだし。

「なんでもなーい♪」

蜂楽はパツパツでキツいスラックスを放り出して、凪の上に跨った。少し怖いが、あれだけ無理だと思った國神のが入った穴だ、案外何とか入りはするだろう。あんまりビビってても意味はない。そう、ビビらない、ビビらない__


ピンチはビビるところじゃない。


蜂楽は口の中で魔法の言葉を唱える。ワクワクするとこ!とまでは、言えないけど。心の中を落ち着かせるには十分。

こんな時まで理性的な汗腺が、背中にひんやりと警告したが、そんなん知らない。

だって、

「…ヤらないとここから出られないもんね」

数十分前も口にした、半分希望のような言い訳を凪の耳へ落とす。

「…うん」

凪がいつものような生返事を返した。

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