冷凍生首

冷凍生首


「か、カキツバタ!? し……死んでっ……わ"あ"あっ!?」


カキツバタには確かに欠点と呼べる部分も多い。が、文字通り首を取られるまでのことをしただろうか?

この空間が夢で、何者かに殺されたカキツバタが自身の遺体の場所を知らせている?

混乱するスグリの平常心の糸口となったのは、以外にもカキツバタの首そのものだった。

よくよく耳を立てると、微かに呼吸音が聞こえる。肺となる部分は見当たらないのに。

カキツバタのだらんと垂れた前髪が死んでいるように見える要因だったのだろうか。

ともかく、生きてはいる。今は眠っているだけ。と結論づけ、スグリはカキツバタの首の他に何か入っていないだろうかと思い、再度箱の中を覗いてみると、彼の首の周りに白い何かが円を描くように立っているのが見え、箱の形状からそれが何であるか──嫌な予感がしつつも箱の側面を引っ張ると、あっさりと開いてしまい、カキツバタの首から下があらわになる。

これが何気ない日常で見れるものだったら、大体の人間は喜ぶものだったはず。

彼の首の下は白く大きな円柱型をしており、円を描くように立っていたそれは想像通りのものだった。

自由に飾り付けをして下さいと言わんばかりのシンプルな白いホールケーキ。

それを見たスグリはなぜ自分がここに来たのかを少し思い出した。

ポーラエリアで起きる雪の事故。それ自体は珍しくないことだが、今回は違った。

本来なら事故に対処するのはポーラエリアを担当するカキツバタの仕事であるが、本人が事故に巻き込まれたらしく行方不明になっており、カキツバタを探すべくスグリも呼びつけられたのだ。

そしてセンタースクエアからポーラエリアへ向かおうとしたその時……とあるポケモンと鉢合わせた。そのあたりから記憶が飛んでいる。

普段であれば食堂で夕飯にしている頃合いの時間帯が近いようで、眼前のホールケーキを食べるのが当たり前かのように腹時計が反応する。

いや待て下部分はともかくカキツバタの首が乗っかっているんだぞ!?と両頬を叩いて正気になれと自身の身体に訴え、凍ったカキツバタの首の乗ったケーキから目を逸らすように慌てて元の箱に戻し、冷凍庫に入れ直す。

しかし三時間もすると空腹感に加え眠気も増していき、だんだんと判断力が弱まってくる。

食べないから、話をするだけ、とりあえず、とりあえずカキツバタの意識を戻そう。

ぼんやりとしてきた頭で一度は冷凍庫に入れたカキツバタの首が乗ったケーキの入った箱を冷蔵庫に移動させる。

自分が暗所恐怖症だったら確実に恐怖で寝付けないだろう。そんな部屋で半ば気絶するようにソファに寝転がり意識を手放した。


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……

…………

体が動かない。というか、何かに固定されている?

ああそうか、雪に埋もれて動けなくなったんだ。

あれからどれくらい経った?15分?35分?2時間は経っていないだろう。仮に経っていたとしたら自分はこれからどうすればいい?

ポーラエリアにユキメノコが生息していないことに安堵し、この状態じゃあどちらにせよ動けないからヨノワールを待てばいいのか?と自身の死について考え出したカキツバタは首は動かせないが瞬きが出来ることにふと気付き、死んでるのか単に頚髄を損傷した上で生きてるのかよく分からなくなった。

周りが白く寒いため勝手に雪に埋もれたものと勘違いしていたが、よく見ると雪のようなきめ細かさはなく、のっぺりとした白が目に入る。

えっじゃあ棺桶の中で意識を取り戻したってやつ?寒いのは腐らないようにポーラのどこかに安置されているとか?などと考えていると、ブゥーン……と低い音がした。

コンプレッサーの音だ。つまりここは遺体用冷蔵庫の中だろうか?

カキツバタが頭を悩ませているとコンプレッサーの音に反応したのか何かの物音がした。

バタンと扉の開く音がする。間違って死んだと思われたのなら笑って脅かしてやろうと満面の笑みを作った。

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