冴島編エピローグ前半
1夜が深くなり始めた頃先生と一人の少女が商店街を歩いていた。
〝ごめんねカンナ無理させちゃって〟
メガネをかけた少し胡散臭い顔の男性が少女にそう語りかけた。少女は困った様な顔で
「いえ、部下たちの退院パーティーを抜け出す口実になったのでかまいはしません。しかし、問題は…」
続けて出そうとした言葉に言い淀む、そう今から会いに行く相手が問題だった。
「『ギウォトス1の狂人』まさか彼女に食事に誘われる日が来るとは思いませんでした。」
本来誘われてはならない相手ではある、クロノス辺りに見つかればなにを言われるかもわからない以上色々と悩むのは仕方の無いことであった。
〝やっぱりやめておくかい?〟
先生はそんな風に言ってくるが、普通そんな事は死んでも出来ない相手はあの『狂人』なのだ。どんな理由があれ断れるものでは無い
裏の人間からすれば喉から手が出てくる様な
表の人間からすれば震えて声が出なくなる様な
真島ゴローの誘いとはそういうものなのだ。が、恐らくこんな感じで簡単に断れるのはこの世で先生しか存在しないだろう。そんな何事も無い様子の先生を見て毒気を抜かれたカンナは
意を決したのか言葉を続ける。
「いえ、先生の思いを無下にするわけにいきません行きましょう、たとえ相手が問題のある人物でも待たせるわけにはいきません。」
〝分かったよでも仮になにかあれば私が対処するからね〟
「その時は申し訳ありませんがよろしくお願いします。」
〝着いたここだよ〟
「ここ、ですか?」
そこはどこにでもあるような焼肉屋だったからだ。
〝うん、どうやら二人の行きつけのお店らしいんだ。〟
そう言うとのれんをくぐり店に入る
「よぉセンセ、先にやらせてもらってんで」
そこには既にグラスを片手に肉を頬張る真島と
「来たんかすまんの急に呼び出してもうて」
一応自分が助けた人物…と言えるかもしれない相手であった。
挨拶もそこそこに自らを呼んだ〝彼女〟に目を向け一言
「何の為に私を呼んだ『狂人』」
少し威圧的にはなっているが要件を聞き出そうと質問する。
「噂通りの怖い顔したネェちゃんや『狂犬』は伊達やないみたいやな」
と何が嬉しいのかケラケラと笑っていた。
本来カンナの威圧の伴った目線はその場にいる不良生徒ならば震え上がっても仕方の無いものなのだが真島は呑気な顔で行ってのけた。
そんな真島を横目に代わりに冴島が言葉を続ける。
「ちょっと俺と兄弟あんたに言わなことがあってな、ただお互い立場が立場やからセンセには見届け人としてついて来てもろたちゅうわけや」
「ま、そう言うこっちゃ」と真島も同意する。
「言うこと?」
おもむろに立ち上がるとカンナに向けて
「兄弟の件ほんまに感謝しとる」
「俺からも言わせてくれあんたがおらんかったら俺もここにおらんかった。」
そう言って頭を下げたのだった。
悪名名高き伝説の二人に(うち1名は自分が免罪を晴らしたと言うかそれで今頭を下げられている)心からの感謝を受けたその事実に驚きながらカンナは何となくこの夜が長くなる予感を感じるのだった。
つづく