写真の話
・両片思いの距離感バグの親友ペパアオ
・アオイちゃんのスマホロトムが気ぶり勢
「ペパー、ごめん!」
朝のエントランスホールで会うなり、アオイからそう謝られたときは、いったいどうしたのかと思った。
「きのうのピクニックで、わたしのスマホロトムが、勝手に写真撮っててね……」
「写真?」
ペパーは思わず聞き返していた。
うん、と頷くアオイはうなだれている。
まだ始業までは時間がある。とりあえずとグラウンドのベンチに並んで座り、きのうの写真とやらを見せてもらう。
ペパーとおそろいのフラベベ柄のスマホカバーをつけたスマホロトム。
ロトムはにんまりと笑うような目をしていて、何だかペパーの気持ちをおみとおししているようで、ちょっと落ち着かない。
(アオイにくっつきすぎか? でもこのくらい近くねえと画面見えねえし……)
アオイのちいさな体に寄り添うと、きゅっとちいさなくちびるを引き結び、ほんのりと頬を染める横顔をじいっと眺める。
アオイの細い指がスイスイと画面をスクロールしていく。爪まで小せえな、モモンの実みてえな色、などと、考えているうちに、画面にいくつもの写真が並んでいた。
「あのね、これ、……っ」
と、言いながらペパーの方を振り向いたアオイが、かあっと頬を染めた。
「ち、近いよ、ペパー」
「悪い、でも、写真がよく見えねえから」
「そ、……そうだね、うん……」
別にアオイの手の中に収まったままのスマホロトムをのぞき込む必要はない。
何なら、スマホロトム自ら浮いてペパーの目の前に動くことも可能なところを、しかし、アオイのスマホロトムはまったく身動きできませんという体でアオイのちいさな手の中におさまっていた。
けれど、アオイの柔らかな体温をすぐそばで感じられる距離にいるペパーはいっぱいいっぱいで、それどころではなかった。
だが。
「コレ……っ」
写真を目にしたペパーはさーっと顔から血の気が引き、同時にばくばくと心臓がさわぎだした。
特段おかしなことをしているわけではない。
ペパーの手づくりのサンドイッチを食べ終わったアオイへ、お代わりのアイスのエネココアを差し出しているところ。
だがそのペパーの顔と言ったら。
だらしなく弛みきって、やにさがった顔と言ったらまったくみっともない。
こんな顔を──マジマジとアオイに見られた?
ぴしりとペパーは固まった。背中にじっとりといやな汗がにじむ。
「まだ他にもあって」
「まだあんのか!?」
こんなみっともない写真が何枚も!?
うん、とアオイがすすっと画面をスクロールする。
どの写真も似たようなものだ。
相棒をウォッシュするアオイの屈託のない笑みへ向ける、目じりの下がりきったペパーの顔。アオイと一緒にピクニックの片付けをするときに、思わずといったようにこぼれた笑み。
そのペパーのすべての視線が甘ったるくアオイを見つめていた。
「ちゃんとスマホロトムと話して、今度から撮るときは事前に言うようにちゃんと言ったから。ごめんね、勝手に撮ってて」
「……いや、オマエは悪くないだろ……、それよりこの写真」
ぴくっ、とアオイが細い肩を揺らした。
落ち着かなさそうにあちこちに視線をさまよわせて、きゅっと手をにぎりしめた。
「──消さなきゃ、だめかな……?」
「は?」
「そうだよね、勝手に撮られてた写真なんて、いやだよね! でも、楽しかったし、せっかくだから、残したくて」
ねえ、ペパー、だめかな?
真っ赤になって目をうるませたアオイにそんなことを言われたら、ペパーに断るという選択肢があるはずもなく。
いいぜ、残してて、と頷いたペパーに、アオイのスマホロトムがロトロトとちいさく笑った。