再開(ぜつぼう)ウタ編

再開(ぜつぼう)ウタ編


「いい加減にしてよ!!!!」

バサササーッ!

ウタはゴードンの目の前で渡された楽譜を投げ捨てた。

「ウ…ウタ…ッ⁉︎」

ゴードンはそれを見て狼狽するしかなかった。

「ごめんねウタちゃん。最近不定期気味で。」

「いえ…いつもありがとうございます。」

エレジアの港で物資の積み下ろし作業中船員が作業の手伝いに来てたウタに申し訳なさそうに話しかけた。

この島は12年前の惨劇後生き残りのウタとゴードンが二人暮らしをしており定期的に契約している連絡船がやってきて物資の補給をしていた。だがここ最近世界情勢の悪化に伴い不定期気味になり二人の生活にも影響が出ていた。

「明日の夜には出港するからそれまでに欲しいものあったら言ってね!色々あったけどもう大丈夫だと思うから安心してね。もう『終わった』から。」

「終わった?」

船員の話にウタは顔を上げ反応する。

「無事に新政権に移行してね。世界中落ち着いてきてるから昔みたいに物資を届けられると思うんだ。『新時代』ってみんな言ってるよ。」


新時代…


その言葉を聞いてウタは心にポッカリと穴が空いた気持ちになる。かつて幼馴染と共に誓った新時代の夢。それがこの島に住んでいる間にいつのまにか実現していた事実に…


「あの戦争で赤髪の連中も壊滅するほどだったからどうなるか心配だったけど良かったよ。…噂じゃ麦わらのルフィって海賊王になったっていう四皇の一人が尽力したって言われてるけどね。」


「…え?」





「…タ。ウタ聞いてるかい?」

ゴードンの言葉にウタはハッとして我に帰る。

ウタはあの後作業を終え部屋に帰り茫然自失のまま朝を迎えた。そして『いつもの通り』朝食を食べゴードンのレッスンを受けていたのだ。

「う…ううん大丈夫⁉︎ごめんなさい。」

「そ…そうか…では今日の楽譜を…」

ゴードンの様子も辿々しい。おそらくシャンクスのことを船員から聞いたのだろう。

ウタは頭を切り替え『いつもの通り』に楽譜を手に取り『いつもの通り』その歌詞を歌い…


そこで気づいた。


その歌が12年前にゴードンとのレッスンで習った歌だと。少年少女の青春をテーマにした歌だと。


それに気づいた瞬間


ウタの何かが弾けた。

「いつまで…いつまでこんなこと続けるの⁉︎」

狼狽するゴードンにウタは12年分溜まりに溜まった鬱憤をぶつける。

「世界一の歌手にする⁉︎こんな島に閉じこもり続けて…!近くの島のコンクールにも出ずにどうやってなるのよ⁉︎私もう21歳だよ⁉︎おばあちゃんになっても続けさせるのこんなことを⁉︎」

一度決壊したダムはもう直せない。溢れた水は止まらない。

「私がこの島にいる間に…!シャンクスは死んで…!アイツは夢を叶えて…私の人生は何なの…?」


涙を流しながらゴードンを睨むウタは


「私の…」


言ってはいけない言葉を言ってしまった。


「私の12年は何だ⁉︎」


その言葉を言った瞬間ウタはハッとするも全てが遅すぎた。


「…まい。すまないウタ…すまない…私は愚か者だ…」

ゴードンは立ち尽くして涙を流しウタに謝り続けていた。

ゴードン自身もうどうすればいいのか分からなかった。既にこの世にいない男との約束を果たすと誓いながら心のどこかでウタを恐れ12年間レッスンと称して誤魔化し続けて全てを後回しにしていった結果がコレだ。

ウタに対してどう償えばいいのかどうすればよかったのか何もかも分からなかった。


「ち…違う…違うのゴードン…ごめんなさい!」


ウタは耐えきれず逃げるように部屋から出て行った。


最低だ私…


もう何もかも耐えきれなかった。

新時代が知らないうちに到来し何も成し遂げられなかった自分に…

他人に八つ当たりして傷つけた自分に…


このままだとダメになる。

そう思ったウタは決断をした。まだ希望が残ってるうちに…

その日の夜いつかデビューすることを夢見て貯め続けたお小遣いと荷物をまとめたウタは連絡船に忍び込み12年住んでいたエレジアに別れを告げた。

「〜♫〜〜♪」

町外れのスナック店の店内で巷で流行ってる歌をカバーして歌った後ウタは数人の客の拍手を受けて笑顔で応えていた。

あの後ウタは自分の甘さを痛感することになった。

初めての町でレコード会社や音楽関係の会社にどんなに自分を売り込んでも門前払いを食らった。いくら歌が上手くても碌に学歴もない素性不明の自分を雇ってくれるほど世間は甘くなかった。

そもそもどうやって売り込めばいいのかすら分からなかった。歌うこと以外教えられなかったから…

一度どうしようもなくなり恥を忍んでエレジア元国王のゴードンの指導を受けたことを面接で言ったこともあった。だが面接官の反応はふーん?と頭をポリポリかくだけで終わった。私と共に12年間の島に引きこもってたことでゴードンの影響力などとっくに無くなっていたのだ。

もはやお小遣いも残り少なくなりホテルにも泊まれる余裕がなくなりかけ空腹気味のウタは道端に座り込み絶望していた。


パンを盗むか?身体を売るか…?


全てを諦め自暴自棄になりかけた時に大きな体の女が独特な笑い声をあげながら声をかけてきたのはその時だった。

その女は以前この路地裏で日銭を稼ぐために路上ライブをしていたウタを見かけその歌を気に入ってくれたらしく。困ってるなら私の店で働かないか?と誘ってくれた。

ウタは今でも店長の彼女(ママと呼ばれている)に感謝している。もし彼女に声をかけてくれなかったら今頃近くの路地裏に佇んでいる女たちのようになっていただろう。この店にもアフター制度はあるがウタはせめてものプライドとして純潔は守っていた。

歌手になるわけでもないのになんで守るのか?誰に捧げるつもりなのか…?

そんな疑問をして自嘲することもあった。

客のアンコールに応えようと歌う準備をしているとママから新しいお客さんの相手を頼まれた。ウタはアンコールを希望した客に軽く謝罪した後営業スマイルでその新しいお客さんたちを相手にした。


「あぁッ!ちょうどいいや!なぁこの店にジュース…え?」

懐かしさを感じる麦わら帽子を被った客の一人が自分の顔を見るなり顔色を変える。

「お客さん?」

そんな様子にウタは困惑した。




「ウタ?」



「え…⁉︎」


そこにいたのはかつて夢を誓い合った幼馴染だった…



「ルフィ…なんでここに…?」


ウタは震えていた。


一番会いたくない人と出会ったことに…


夢を誓い合った幼馴染にこんな惨めな姿を見られたことに…



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