再教育
目を覚ましたそいつは、ほとんどすべての記憶をいずこかへと落っことしてきてしまっていた。
それは、バケモノと呼んだおれのもとに残ることを全力で拒んだが故か、それともこれ以上海軍の情報を渡すまいとするいじらしい抵抗からか。
そのどちらであれ、おれにとっては好都合であった。まっさらとなったその心に、改めて教育を施すことが出来るのだから。
二度とおれのことを裏切ったりしないように。
二度とおれから銃口を向けられるような真似をやらかすことなどないように。
そうして“家族”として相応しくなるように再教育を行ったそいつは、敵と定めた相手に対して容赦のない苛烈な戦闘員と化した。
色とは反対に冷たい瞳と、感情を乗せることのない相貌。そこまではかつてと変わることはないが、倒れ込んだ体へと鉛球を数発叩き込む姿に、よもやここまで変貌するとはと舌を巻く。
「……ドフィ」
「! ああ、ロシナンテ、よくやったな」
どこか茫洋とした瞳でおれの反応を伺うそいつへと手を伸ばし、わしゃりと髪を混ぜてやれば無表情だったその顔は安心したように相好を崩す。
「だが全弾撃ち込んでやる必要はなかったんじゃねェか?最初のでもう急所はブチ抜けてただろう」
「んー、でも、おれドジだし、もしかしたら、しとめきれねぇかもっておもってよ。確実にやるなら、こんぐらい、ぶちこまないと」
実際に弾丸を数発撃ち込んで尚、殺しきることのできなかった男がここにいるのだから、その判断は間違ってはいないだろう。頭ではそう結論づける。しかし。
「フッフッフ、なら撃ち込む場所を考えねェとな。腹や背じゃなく、心臓、脳天、こめかみ……この辺りに複数発入れられれば、そう抵抗もなく沈黙させられるだろうよ……必要以上に苦しませたくないのなら、尚の事な」
「……そういうわけじゃ、ねェけど」
つい、と気まずそうに逸らされた視線に口角が上がるのがわかった。やさしげな性質は昔とそう変わらないらしい。
長く苦しませたくないが故に残虐性の強い行動を取る。
慈悲深いが故に、容赦が無いのだ、この男は。
「隠さなくていいぜ、ロシナンテ。お前はやさしいやつだから、なァ」
己が身の内でグルグルと渦を巻き、抗うことの出来ない衝動をもたらしてくる激情に似たものを、こいつもまた、その身に宿しているとしたら。
それはきっと、この苛烈で容赦の無い、やさしさの形をしているのだ。