再投稿後半
その日々は、泡沫の夢
「差し当たって学校のローカルネット乗っ取って、その場にいなくてもうちのスマホから直接演算装置と観測装置動かせるようにしたけど……皆、帰る用意は大丈夫ですか?」
「しれっとまた凄いことしてる」
「結構本気めにボタンさんがいなかったらここまで上手いこといってませんよね……」
ネモがもはや乾いた笑いしか出せない横で、オモダカは眉間に人差し指を当てて苦笑する。心の底からボタンが味方でよかった、とその場の全員の意見が一つになった。
此方側のキハダを医務室に連行してきた此方側のレホールが戻ってくると、オモダカを先頭にして一同はグラウンドへ向かう。ボタンはスマホで何かを組み上げていて、逸れないようペパーが背中に手を添えていた。
グラウンドに到着し、ボタンが学校のローカルネットを通して遠隔操作で装置を操作する。観測装置のカメラレンズのようなフレームがキュキュキュ、と広がって内側の風景が歪む。その向こう側、プロジェクションマッピングのように自分たちの世界のアカデミーが映り込んだ。
「やっと帰れるー!とりまミモザ氏は病院行こうね」
「なんっっでよ!!ナンジャモさんだって大概ボロボロのくせに!」
「リップさんもやでー。足ちゃんとお医者さんに診てもらい」
「ねえリップそんなに信用ない?」
「ないです」
「まあ、正直そうだな」
「怪我人は全員まとめて病院行きに決まっているでしょう。ああ、こっちに来る直前に壊したリーグの壁の修繕費考えたくない……」
「待ってくださいトップ、それ自分たちにも皺寄せきませんか?予算どっかしら削って捻出しようとしてません?トップ?」
「アオキ、あまり追求しすぎてもいけませんですよ。瓦礫の処理や足場組みは此方側で請け負えば費用も浮くのでは?」
「ぼくの貯金から幾らか出そうか?どうせ今まで出費なんて事故った時の入院費くらいで殆ど手をつけてなかったから凄い貯まってる筈だし」
「いっそジムリーダー全員で少しずつ費用の足しになるよう持ち寄ってもいいんだい。まあ、それもこれも戻ってから考えよう」
「わたしはお店の皆さんに怪我のことで心配させそうで今から憂鬱ですよ〜」
「存分に心配されてもみくちゃにされな。……はあ、帰ったら姉さんに埋め合わせしないと」
「ワタシも作りかけていた作品が無事かどうか確認しなければな。しかし、今回の経験は経緯はどうあれ実にアヴァンギャルド!!創作意欲がみるみる湧いてくるというものだ!!」
「コルサさんはさあ……」
「諦めようぜハルト。この人今までもこれからもずっとこういう人だ」
わちゃつきながら帰り支度を進める一同。ある程度取りまとめて、サワロが忘れ物はないか確認する。全員、帰還準備は万端だった。
オモダカはヒラ、と左手を振った。
「それでは、永遠にご機嫌よう。惨憺たる歴史を辿った異なる枝葉に生きる人達よ」
オモダカがフレームを踏み越える。後に続くジムリーダーたち、子供達、教師たち、四天王。ライムとポピーはフレームに足をかける直前で止まり、振り返った。
「いろいろありましたけど、こっちのポピーもチリちゃんも、おげんきで!」
「こっちのアタイの分まで長生きしておくれよ、姉さん」
ポピーがブンブンと手を振って、ライムは人差し指と中指を揃えて額に添えた。
「そちらこそ、おげんきで。こっちのパルデアは、ポピーたちががんばってさいきょーしますから」
「それを、いうなら……再興、な」
「ライムこそ、健康には気をつけてね」
両手を握りしめて此方側のポピーが宣誓する。言い間違いをチリが訂正するのは帰ってきたご愛嬌。タイムは眉尻を下げて名残惜しそうに手を振った。
ライムの足が装置のフレームにかかる。もう一歩を踏み出そうとして———するとライムは突然おっと、と声を漏らして立ち止まった。隣のポピーがどうかしましたの、と首を傾げて問いかける。
「おま……ああ、もう。そういうのは先に言っといておくれよ。あと数秒遅かったら伝え損ねてただろ」
はあ、とライムがため息を吐いて半身で振り返った。額に指先を添えてやれやれ、と溢すとスッと真剣な眼差しをして。
「最後に声のちっせえアイツから伝言な。"聞き入れてくれるかどうかはさておいて、ちゃんと飯食ってしっかり寝てくださいね。いくら高くていいやつだからってソファーで寝てたら十分に休めるわけないんですから"……じゃ、確かに伝えたかんな」
はく、と此方側とオモダカの喉がカラカラに渇いたまま空気を通す。ライムはそれには一瞥さえくれずそのままフレームの向こう側へポピーと共に通り抜けて行った。
同じ幹より枝分かれした世界からの来訪者達が帰還したのを確認したネルケは、ボタンからスマホに送られたプログラムをインターネットでパルデア中のテラスタルオーブチャージシステムに送信した。ボタンとはいえ即席で組んだプログラム故、一度走らせれば延々止まることはないのが難点だったらしい。ボタンがネルケに託したのは、リ・テラフォーミングプログラムの削除コードという名のアポトーシスウィルスである。
「さて、ボタンからの頼み事はこれでいいとして……あとはこっちだな」
向き直ったネルケは、負傷して今もベッドの上にいるミモザと、限界を迎えて運ばれて行ったキハダ以外の顔ぶれを一瞥する。
グ、とネルケは制服のジャケットを左手で掴む。ハッサクは意図が掴めずキョトンとして、瞬きを数度繰り返した。次の瞬間。
バサッ、とネルケがジャケットを勢いよく脱ぎ捨てる。オモダカはギョッとして咄嗟に顔を逸らして目を瞑った。三秒きっかり目を閉じて、恐る恐る開いた瞬間視界に飛び込んできたのは。
「それでは改めて、今回の件に関する皆さんの処遇を取りまとめていきましょうか」
リーゼントに整えたウィッグを外し、短パンからスラックスに履き替え、グラサンを眼鏡と取り換えたネルケ改めてクラベルが、両手を腰の後ろに回して告げる。一瞬全員が背景に宇宙を背負って、真っ先に意識を地上へ帰還させたオモダカが息を吸った。
「———……っ、そうは!!ならないでしょう!!!主に服装が!!!!」
その眼鏡とスラックスはどこから出てきた。そしてグラサンと短パンはどこへ消えた。
オモダカが今までの人生で、バトル以外で一番腹から声を出した瞬間だった。
「差し当たって彼方側のハルトくんたちが拘束した反社会組織ですが、国際警察に連絡したところ明日にでも引き取りに来てくださるそうです。何でも、ひでんスパイスを使用したドーピングドラッグを他地方の地下闘技場などに流していたそうなので、組織ぐるみで指名手配されていたと。表向き、理事長たちによって討伐されたことにしますが何か異論は?」
「余罪があったんですね、あの人たち……」
「もうに、さんじゅっぱつなぐればよかったですの……」
「ポピー……???」
イィー、とポピーは歯を剥き出して不快感を露わにする。幼さに見合わぬ物騒な発言に、チリは困惑の表情を隠せない。
「納得がいきません。私たちは糾弾されこそすれ、称賛されるべきではない筈。貴方だって、私に何をされたか」
オモダカが眉間に皺を寄せ、怪訝な顔をした。クラベルはその返答も想定内であるように頷き、だからこそと。
「理事長たちにとって、表立って罰せられないことの方が罰として相応しいでしょう。それに、流石に権威職自体は辞して頂きますよ。対外的には、復興に本格的に取り組む為と説明した上でです」
「ですが、私たちをパルデアに留めるメリットがない」
オモダカは不服そうな顔を隠さない。クラベルは少しだけ苦笑して、返すことには。
「メリットならあります。というか皆さんを地方外追放するとデメリットの方が多いのですよ」
クラベルが人差し指を立てる。
「皆さんをパルデアに留めることで得られるものは多くないかもしれません。しかし、追い出せばその分エリアゼロから這い出でてくる可能性があるパラドックスポケモンや、外からテラスタルエネルギーの悪用を企むであろう人間、或いは組織への対抗戦力が大きく低下します。テラスタル結晶を取り込んで凶暴化した野生ポケモンも、すぐにいなくなるわけでもありません」
何より、とクラベルは挟んで眼鏡を正した。それもそうだな、とレホールは顎に手を当ててふむ、と頷く。
「荒廃した大地は緑に覆われ、澱んだ川の流れは澄み渡った。あとは人の生活圏を建て直すだけ。その為にもニャオハの手も借りたいのが現状ですからね」
「ああそうか、理事長なら設計ができるから今まで観測装置周りにかけていた時間をそこに当てればいいのか」
ぽん、とレホールが手を叩く。ポピーは反射的に、トップにこれいじょうしごとをさせてかろーしさせるきですか、とレホールの脛を蹴った。悲鳴を上げて崩れ落ちるレホールは一先ず傍に置いておいて、クラベルは態とらしく咳をした。
「……しかし、小生たちが復興に関わることに反対する人も多いはずです。何せ……ジムリーダーたちの死を受け止めた上で、前へ進んで行こうとした人々の意志を、小生たちは踏み躙ったのですから」
ハッサクの言葉にクラベルは眉尻を下げた。事実、生徒たちからは不満の声も反感もあるだろう。市民からも、これだけのことをしでかしたオモダカたちへの疑心、不信は消えない。しかし、それだって。
「私達にも全く非がない、というわけでもありませんからね」
は?という声が、誰の口からかは判別つかないが零れ落ちた。目を伏せるクラベルが続けることには。
「焦って、早やって、追い詰められたまま足を踏み外したことに気付けないまま突き進んでしまったことは良くありませんでした。しかし、それに気付こうともせず、あの人達はまだ大丈夫と楽観視していた私たちも、ある種同罪でしょう。だからこそ、私は皆さんの償いの場を用意する責任があります。これは誰に言われたものでもなく、私がそうと決めたことです」
未来を護り導く者として、クラベルは真っ直ぐな目でそう答えた。
「そもそも今回の件の原因はまず第一に、ジムリーダーの総殉職という前代未聞の事態に類似する事例がどの地方にも無い為、対処の参考にできる資料がなかったことです」
「暴走凶悪化したパラドックスポケモンによる大規模襲撃と類似する事例が他にもあってたまりますか」
ご尤も。クラベルは緩く頷いて数秒、目を伏せる。あっても伝承上に神に等しい存在として讃えられ畏怖されるようなポケモンが暴れるくらいだろう。それだって、単独での暴走であるのなら被害はたかが知れているのだ。なおシンオウの伝説は根底のルールが違うので除外する。
「それもあって、誰もが皆手探りで復興の為の道筋を整えようとしていた。そして、周囲に目を向けることができなくなってしまった。結果として、追い詰められた人を追い詰められたまま放置する形になってしまった」
クラベルは眼鏡を正す。過去の己を省みて、果たして自分は本当に視野を広く持てていたのだろうかと自問自答して、そしてできていなかったのだと確信した故の言葉だった。
「皆さんの最も大きな罪は、異なる歴史を辿る世界からジムリーダーを拉致したことではなく、追い詰められたまま、自責に潰されそうになったまま誰にも頼らず助けを求めず、血を吐きながら盲進したことです」
真っ直ぐな目で告げられた罪状に、オモダカは泣きそうな顔をした。甘すぎる、と冷静な自分がいる一方で、そうか、頼っても……誰かに寄りかかってもよかったのか、と霞かかった思考に"きりばらい"を受けたような心地の自分がいる。クラベルは続けて。
「第二としては、私達がある意味で皆さんを……特に理事長を理想視していたことです。あの人達は強いから大丈夫。今は辛くてもその内立ち上がって乗り越える。そうたかを括ってしまっていた。時間が解決してくれるような傷であるならば、自傷行為のような過剰労働などしないだろうに。選ばなかった方の道へ引き返すことはしないだろうに」
そして、ボロボロになっていくあなた達を見ないフリをしてしまった。
クラベルは申し訳なさそうに目を伏せる。タイムは校長は悪くない、という言葉を喉から口内へ迫り上がる寸前で飲み込んだ。無責任なことは言えないし、自分には言う資格がそもそも無いのだから。
「というわけで、皆さんにはそれこそ残りの人生全て使って、パルデアの復興と発展に尽力していただきますよ!それが、亡くなったジムリーダー達やハルトくん達への弔いになるはずですから」
今は一旦これで話は切り上げましょう。クラベルはパン、と手を叩いた。残りはミモザとキハダが目を覚ましてから、ということだ。
「さて……ところでこれは確認ですが理事長、最後に七時間……六時間……いいえ、四時間以上寝たのはいつですか?」
ロトロトロト、とスマホロトムが発信音声を鳴らす。クラベルがスマホの画面にテーブルシティの総合病院の電話番号を表示した状態で問うと、陸上選手もかくやの速度で一秒と経たずに、肩にかかっていた重圧をクラベルによって一旦降ろされたオモダカは全速力で逃げ出した。
眼揺らぎ頬を濡らす日々は優しい夢を見て。
旅立つ彼らを想う、その願いまで見失わないように。
のし、とヘルガーの両前足がかけられた状態でオモダカは倒れていた。オモダカがスマホロトムの発信画面に"病院"の二文字を見つけて逃げ出した瞬間、クラベルが手慣れたようにボールからヘルガーを出して、十秒間の鬼ごっこの後捕獲されたのである。多分手慣れている原因はジニア。
ゼェ、ヒュウと倒れ込んだまま息切れするオモダカに、クラベルは頭を抑えた。ガーディだってもうちょっと大人しくドナドナされてくれるのだが、と内心ため息を吐く。曲がりなりにもチャンピオンに登り詰めたバトル強者を子供のポケモンと同じ扱い。解せぬ。
「こーちょーせんせい、そのヘルガーちゃんは?」
ちょも、と控えめにポピーが尋ねる。
「ラウドボーンさんを育てる前に手持ちに入れていた子です。遠吠えが野生の子よりも遠くまで届くので、軟禁から解放された時点で何かあった時のために一旦手持ちに入れておいたのですよ」
「なるほどー」
「というか校長のヘルガー相手に何で十秒も逃げられたんだコイツは。体力お化けか何かか……?」
やれやれ、とレホールは両手を肩まで上げて首を左右に振った。そんなに病院が嫌か。
動きづらい身体を両腕と膝でどうにか引きずって、ヘルガーに取り押さえられるオモダカに近付いたチリは、むう、と顔を顰める。
「オモダカ、さん」
浅く息を吸って吐いて、真剣な顔つきをしたチリは口を開いた。ゔ、とオモダカが視線を迷わせて濁った呻き声を溢す。
「ゼリーと……ブロック、ビスケットは……ご飯や、あきません。復唱」
「えっ」
「復唱」
「あ、ハイ。ゼリーとブロックビスケットはご飯じゃありません」
「ん、よろし」
ふす、とチリは満足したように鼻を鳴らした。呆気に取られて困惑するオモダカを他所に、チリさんの言う通りですよ、とクラベルは同意するように頷く。リーグの職員がオモダカの執務室のゴミ箱から回収したゴミの殆どが、携帯食料の包装ばかりだったのを知っていたので。
空を飛ぶ救急タクシーが近付いてきたのが見えたオモダカは、観念してガックリと項垂れる。病院は昔から苦手だった。特に聴診器の冷たい金属の感触が、普段は晒されず何者にも触れられない胴、特に背中に触れる感覚が嫌いで、子供の頃などはじっとしていることも苦手だったこともあり今から既に憂鬱を覚えている。ただでさえ毎年の健康診断で気分が落ち込んで仕事の効率が下がる時期があるだけに、オモダカは八つ当たり気味にクラベルを呪った。
クラベルは項垂れるオモダカを救急タクシーに押し込むと、とても綺麗なフォームで校舎へ走っていった。おそらく、医務室で安静にしているミモザとキハダを連れてくるのだろう。んぐふっ、と変なツボに入ったタイムは思わず笑いを堪えて鼻が痛くなった。
待っている間手持ち無沙汰になるな、とポピーはポーチを開けて中からチューイングキャンディーを出して口に入れた。僅かに香った甘い匂いに釣られて顔を近付けるのは、しっかりちゃんと着いてきていたトドロクツキ。ふんふん、とポピーの口元に鼻先を近付けるので、ハッサクは気が気でない。そんな心配を他所にポピーはすっかりトドロクツキと打ち解けているようで、ポーチの中に残っているチューイングキャンディーをトドロクツキの口元に差し出して尋ねる。
「ツキちゃん、食べます?」
「ぐぁん!」
食べて大丈夫なやつかどうか確認した方がいいような。まだ微妙に痛む鼻を抑えながらタイムは止めようとしたものの、それより早く差し出されたチューイングキャンディーをトドロクツキがパクリと口に入れてしまった。もちもちとキャンディーを噛むトドロクツキはニコニコと幸せそうにしている。なるほど、これは正に駄犬。
「お待たせしました」
ミモザを背負ったクラベルが戻る。後に続いてセイジがキハダを背負ってグラウンドにやってきた。救急タクシーのスタッフに二人を預けると、ストレッチャーに乗せられてタクシーの中へ。扉を閉めると瞬く間にタクシーは飛び去って行った。
「ふう……では、私たちは今のうちに片付けられるものは片付けてしまいましょうか」
すい、とクラベルがチューイングキャンディーをゆったり味わうトドロクツキに視線を向けた。視線に気付いたトドロクツキは、ぐう、と鳴いて首を傾げる。クラベルは凶暴さのカケラもない様子に、柔和に微笑んだ。
「先ずは、トドロクツキさんのこれからを決めることからですね」
頬を撫でると、トドロクツキはふにゃふにゃ笑ってグルグルと甘えるように唸った。
一方の世界。悲劇の起きなかった自分たちの世界に帰還したポピー達は、次元の孔から出た瞬間に迎えに来たスター団と留守を預かっていたアカデミーの教師陣にもみくちゃにされた。四天王と子供達にはお疲れ様の意味を込めて、ジムリーダー達には無事を喜ぶのと、お帰りなさいの意味を込めて。髪も服もぐちゃぐちゃにされながら、皆一様にやっと日常へ帰れたと安堵する。
「ところでクラベル校長、向こうとは別の世界の私は?」
珍しく容赦のないスキンシップを受けて乱れて絡まった髪を解き、よれたスーツを整えながらオモダカが問うた。スーツは後日改めてクリーニングに出しておこう。あと、焼き切れた髪を整えるのにまた美容院の予約をしよう、と頭の中の予定表に書き込んで。
「数日分の湿布と痛み止めをお渡しして、お帰り頂きました。あまり長く留守にしては、彼方の世界の方々もご心配なさるでしょうから」
「それは確かに。まあでもせめて、最後に挨拶くらいはしておきたかったような」
くす、と笑う。もはや二度と会うことはないのだけれど、だからこそ別れくらいはきちんとしておきたかった。オモダカは頭のネジこそまあまあぶっ飛んではいるものの、根底の思想自体は真面目なので。根底的にぶっ飛んでいる(或いは今回の件で後天的にぶっ飛んだ)者がちらほらいるだけに、尚更。
「よし!!早速ワタシはアトリエに戻って製作に入らせてもらうぞ!!」
「させねえよ!?」
「コルさーーん!!!??」
思い立ったら即行動とばかりに、アトリエに篭る為コルサが早々に立ち去ろうとするのを、メロコが左腕にしがみついて止める。ハッサクは思わず叫んで、その腰に引っ付いていたピーニャの鼓膜が死んだ。残念なことに両手が塞がっている為ヘッドフォンは間に合わない。おのれキサマ離さんか!!とメロコにしがみつかれたまま足を踏ん張り叫ぶコルサの後ろから、ミモザの汚れた白衣を引っぺがしたセイジが言うことには。
「皆の衆のヘルスに異常がないかチェックする為に、ワシらで病院手配させていただいてるよ。ざっと見た感じ、怪我人もいらっしゃりやがるみたいだし」
「えっ、もしかして全員入院確定?」
「イエス!まあ何事もなければ検査だけだから、ワンデイで終われると思いまんがな」
半数が気落ちして、そのうち数名がガックリと膝をついた。オモダカは苦笑いをして首を横に振る。昔からあまり病院は好きじゃないが、今回に限っては致し方無し。
「おちゅうしゃはできればしたくないですの〜……あぇ?」
全てが終わったのだと安堵して、気が抜けてもへ、とむずがりかけたポピーの膝から力が抜ける。足が軽くて小さな身体を支えられず、べちゃ、と前のめりに地面に倒れ込んだ。上体を起こそうとしても、腕がいうことを聞いてくれない。チリが慌てた様子でしゃがみ込み、ポピーの身体に手を添えた。
「ポピー!?」
「ちょ、ま、誰かタクシー!!」
「しっかりしてくださいポピーさん。ポピーさんっ」
「アオキ氏こんな時くらいお腹から声出したら!?」
無理に無理を重ねた反動だろうか、と幼児らしからぬ冷静な思考を片隅に置いて、慌てふためく周囲の喧騒を聞きながらポピーの意識はゆっくり沈み込んだ。