【共鳴り】─転─ ②

【共鳴り】─転─ ②




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 ───本当はね。

方法が一つ、あるの。私が消えずに済んで、ミクちゃんと一緒にいられる方法が。

実際にやったことはない…というより、『本来やらない方がいい』手段ではあるけど…たぶん、私なら出来てしまう。

……でも、それは『やらない方がいい』。あなたの心にどんな影響を与えるか分からないし、実際、私とあなたの体に……いや、『あなた』の体に何が起こるか分からない。……少なくとも、今までのような関係ではなくなる。

───だけど、きっとあなたはそれを知ったら、すぐに「それでもいいですよ、お願いします」って、言ってくれるんだろうな。

……でも、私にとっては『最後の手段』みたいなものだから。この方法は最後の最後まで、隠しておくね。

───大丈夫。『これ』を使うことがないよう頑張るし、仮に使ったとしても…あなたは受け入れてくれるし、私は上手くできる。そう『信じてる』から。



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 「それじゃ、作戦について話しますね」

私が話し始める。

「……まあ、作戦といっても、実は半分ぐらい準備が終わってます」

「え?うそ、いつの間に?」

「電波が唯一繋がったタイミング……私たちが『花鳥風月部』の屋敷にいたときです。

……あのとき、現在位置の特定はできませんでしたが、基本的なネットワークサービスのほとんどにはアクセスができました。……もちろん、ソーシャルサービスにも」

「そーしゃる……?」

「誰でも情報を発信できるソフトやサービス、ってことです」

「……うん、それはなんとなく分かるけど……んーと、もしかして」

アリスさんはなんとなく想像がついたようなので、頷いて言った。

「……はい、どのネットワークサービスの使用率が高いか分からなかったので、とりあえず把握できたところから片っ端に、『大清掃』についての情報……その一部をばら撒きました。コクリコさんに見せてもらった契約書のデータも上乗せして。

現在位置の特定ができなかったので、裏の組織に探知される危険性もなくできるな、と思いまして」

「おぉー…大胆にいったね?」

「……まあ、作戦の内です」


 「もしかして、それで救助を呼ぶのが狙い?」

「まずはそれが狙いですね。捜索隊に発見してもらう…望み薄ではありますが、表の機関ならとりあえず回収はしてもらえるでしょう」

アリスさんが疑問を投げかける。

「……普通に『この山で遭難してます!助けてー!』って言えば良かったんじゃ?確か、あの記事には山の名前とかもあったよね?」

「……今まで散々闇に隠してきた山なんです。並大抵の情報で詳細が出るわけないでしょうし、仮にそれが裏の機関に知れ渡ったら───」

「……あっ。山に何かしらの『生存者』がいるってバレちゃうね」

「はい。真相に近づいた者は消されるかもしれないし…最悪の場合私たちの方を狙って、ゴミを棄てるどころか、私たちを潰す目的の者たちがやってくる可能性まであります」


 「んー……そういうのにバレにくい、ミクちゃん専用の通信網とかなかったの?正規品ってそういうのがある、って聞いたけど」

「……はい、あるにはあります」

アリスネットワーク。あそこなら、アリス間で一定以上の機密性は確保できるだろうし、何より『姉様たち』を経由して、ミレニアムに事態を伝えることも可能だったかもしれない。

「……ですが、そこには情報は流していません。むしろ『意図的に』避けました。十中八九ミレニアムが絡むことになるし、そうなると作戦に不都合ができる可能性が増えます。……まあ、普通にバレてる可能性はありますけど、具体的な事情まで見透かされてなければ、不都合にはならないと思っています。

……もちろん、この作戦の目的が大清掃を生き延びるため『だけ』だったら、それで良かったんですけどね」

そこでアリスさんが思い出したかのように、そして申し訳なさそうに聞いてきた。

「もしかして、私の体のことも考えて?」

「……別に責任を感じる必要はないですよ、仕方なかったんですから」


 「……コクリコさんの、私たちへの予言の言い方。」

───そっちの水色の髪の娘は、近い内に体の限界が来て。そっちの長い紺色の髪の娘は、それを受け止めきれても受け止めきれなくても、『大清掃』に巻き込まれて。お二人はんとも、壊れてその短い一生を終える。

「あれだけで判別するのも不正確ではありますが……予定されている大清掃が来る前に、アリスさんの限界が来て壊れる、というのが私の予測です」

「……なるほど?」

アリスさんは動揺もあまりせず、ただ話に聞き入ってくれている。

「なので作戦の狙いは、大清掃から逃げる……というよりも、アリスさんがいち早く救出されるように仕向けることです。なんなら、大清掃よりも前に救出されることには、もとより期待していませんので」

「……まあ、そう思えちゃうぐらい、今まで散々歩き回っても何もなかったもんね……でも、いち早く救出するって、どういうこと?」


 あくまで憶測ですが、と付け足して続ける。

「……『大清掃』の情報を見る限り。あれはただの一計画どころの騒ぎじゃない。地域ぐるみのグループが、複数絡み合って成立している大規模な計画です。

───そんな計画の情報が出回ったとして……あっさり中断、なんて出来るとは到底思えない。なら───」

「……大清掃の概要以外の情報漏洩が少なかったら、多少強引にでも決行する……?」

「はい、そして雪山の機械を機械で無理やり覆う、という計画なら、強引に決行する上で、目的を果たす最適解は……」

「大清掃の決行日そのものを、大幅に早める……?」

「……そういうことです。現在のおそらく電波障害がある、裏組織が目を光らせている雪山では、中途半端な救助要請では助けが見込めない。なら、とっとと大清掃を起こしてしまって、後のゴミの山や表の組織の捜索隊を利用して、救助される確率を上げた方がいい、という話です。

大清掃が終わってしまえば、裏組織の介入が消えるので、電波障害が消えて連絡が取れる可能性がありますし、安全は確実に確保できます」

とりあえず適当なネットワークサービスに、大清掃の情報の一部だけをばら撒いたのはそのためだ。裏組織の情報を出しすぎると、組織が警戒を強めすぎて決行日を延期する可能性がある。

また、表の組織を焚き付けすぎると、裏組織との情報戦・牽制が加速して……これもまた、決行日の延期に繋がる。なんなら大清掃の計画が潰れる可能性も…と考えると、不確定要素が多すぎる。

かといって、大清掃を仄めかしておかないと、肝心の救助してもらえる人たちが来るきっかけがない。これが、私が関与できる中で、最も安定して救助される可能性が高い方法と判断した。


 「……なるほど、確かにこれは『賭け』だね、ミクちゃん?」

そもそも、組織が計画を強行するかどうか分からない。強行したとして、表の組織が事態を上手く把握できるかも分からないし───

「そもそも、機械の残骸しかなさそうなところに捜索隊が来るのかな、って思っちゃったんだけど……」

……当然の疑問だ。長い間隔離されていた、生物が生きるには難しい環境。到底生存者がいるとは思えないが……

「そこに関しては……実はあんまり心配してないんですよね。ミレニアムそのものは関与する可能性が下がりますが…あの『保護団体』なら、情報を流した時点で関わってくると考えています」

アリス保護団体。ミレニアムの生徒が設立した、抱えている課題はともかく、アリスの保護活動に限ってならまず間違いなくトップレベルの団体───と、いう評価があるのを、大清掃の情報を拡散するついでに確認していた。どうやらアリスさんの耳にもその名は渡っていたようで、

「……あー、あれかぁ……確かに助けてはもらえそう……」

と、納得するようにうなづいていた。……なんか妙に引っかかる言い方だが。やっぱりちょっと怪しい団体だったりするのだろうか?……ともかく。

「機械が山のように棄てられている雪山の情報が、突如として特定不可の座標から送られてきた…色々勘ぐられるかもしれないし、どんな組織が派遣されるかは分かりませんが……とにかく、その保護団体が関与して捜索隊を結成するのは、十分にあり得る話かな、と思ってます」


 「なるほど……じゃあ、もう一個だけ質問していい?」

アリスさんが質問を続ける。

「結局、今の作戦でいくと、私たちは『大清掃』に正面から立ち向かうことになるけど…それでいいの?」

───この作戦の本幹。『大清掃』を乗り切る必要がある。例え、大清掃の後はどれだけ助かる可能性があろうとも、結局大清掃そのもので壊れてしまえば、今のうちに救助要請をして捜索隊を無理にでも増やした方が良かった、となってしまう。だけど───

「あのとき、私は『アリスさんが生きられる』可能性に賭けると言いましたから。リスクは負わないといけないと思ってます。もちろんアリスさんの身は危険ではありますから、戦うときはなるべく私が前に出ます。

───それに、コクリコさんが事前に『大清掃』のことを教えてくれたおかげで、私たちには対策をとる時間ができました。その上で、本来私一人で挑むはずの大清掃に、アリスさんと二人で臨める。あまりにも無謀、というほどではないのかな、というのが私の考えです」


 「……あ!そういえば、「生命活動を維持する分だけじゃなくて、余分に資材をかき集めてきて」って言ってたね!」

「……はい。それを使って、武装を……気休め程度のものも多いでしょうが、色々作ろうと思っています。あと、アリスさんから戦い方を色々教わろうかな、とも……」

……ですが、と付け足して、私はアリスさんに改めて言った。

「これはどう足掻いても『分の悪い賭け』です。どちらかが、あるいはどちらも壊れる危険性が高い。私の独断で巻き込んでしまって申し訳ないですけど……付き合ってくれますか?」

 

アリスさんは、笑顔で即答した。

「もっちろん!たぶん私だけだったら、「てきとーに余生を過ごすかぁ……」ってなっちゃってたから。むしろ、私たちで希望を掴むぞー!って感じがして好きだよ、その作戦!」

「……ありがとうございます」

……アリスさんは、私の作戦に乗ってくれる。そういう人だ。───だからこそ、作戦が上手くいくよう、私が全力を尽くそう。

「……じゃあ、早速準備しましょうか」

「おっけー!訓練は任せてよ〜?」

「……はい、ビシバシお願いします」


 ───それから、私たちは慌ただしく準備を続けた。

相変わらず機械はそこら中にあったので、量に困ることは無かった。なので、私たちが持てる範囲でなるべく性能の良いものにできるよう、ある程度改良することができた。

アリスさんに戦闘を教わったりもした。最初は不安だったが、アドバイスの的確さや説明の分かりやすさが凄まじく、上達が実感できるぐらい早かった。アリスさんは「ミクちゃんの飲み込みが早いんだよ!」と言っていたが、間違いなくアリスさんのおかげだと思う。

逆に、アリスさんが私の戦い方を聞いてくることもあった。上手く説明できたか分からなかったが……彼女は得るものがあった、というようなことを言っていたので、助けになれたなら嬉しい。


 その合間に───アリスさんが、雑談を持ちかけてきた。

「……ねぇ、ミクちゃん。ここから出られたら、何かしたいことある?」

「……将来の話、ですか?」

「うん。何か目標があった方がやる気が出る、って言うでしょ?私は『初音ミクちゃんの推し活をしつつ、表の暮らしを満喫する』にしようと思ってるんだけど……ミクちゃんはどう?」

これからやりたいこと、と言っても───

「アリスさんと一緒に居られれば、それで……」

と言うと、アリスさんは少し困ったような顔をして言った。

「うーん…それでもいいけど…もっと、自分自身がやりたいこととか、ないの?大切な人を見るのも大事だけど、ちゃんとミクちゃん自身のことを考えるのも、大事だと思ったから。この際、一回考えてみようよ!」

アリスさんにそう言われ、思考を巡らせる。私がしたいこと、私にできること……私が『アリス』の一体として、『棄てられた』存在として、できること。

 

「……私はアリスさんから、この雪山から。数え切れないほどの『裏』の現実を知りました。世の中には、悲しい現実や辛い現実がそこら中に漂っている。

……でも、アリスさんのように。それでも前を向いて立ち向かう、心が強くて優しい人たちもいると、知りました」

一息ついて、続けた。

「だから…困難に苛まれても人のために、前を向いて立ち向かい続ける。そんな『ご主人様』に、今度こそ仕えてみるのも、いいかもしれませんね。そんな人そうそういるのかな、とも思いますが……」


 ……そう語った後、アリスさんは…目を輝かせて言った。

「すっごくいい!応援するよ、というか一緒に仕えちゃおうかな!」

「ミクさんの推し活をする、という話は…?」

「んー…たぶん仕えててもできるでしょ!夢はいくらあっても、いくら叶えてもいいからね!」

そう笑うアリスさんに、また私は勇気をもらう。

「……そうですね。……絶対に、一緒に雪山を出ましょう」

「……うん!」

そう言って、私たちは笑い合った。



 ───そして、数日が経ち。

「ミクちゃん、あれ!」

アリスさんが、洞窟の入り口から何かを見つけたようだ。

「あれは、ヘリ……ですかね?」

「……!もしかして捜索隊ってやつ!?すぐに何か目印を───」

と、アリスさんが準備しようとしたが───拾った望遠鏡でヘリを眺めて、気が付いた。

「……いいえ、アリスさん。あれは無人機ですね。見たところ、カメラ機能もありません。それに、あの異様な大きさは───」

来たのは、救いの手ではなく、開戦の狼煙。

「……来ちゃったかぁ…」

「……はい、でも……」

アリスさんは、ここにいる。

「予定の『大清掃』の日時より、3ヶ月は早いです。作戦通り、ではありますね」

「……そうだね」

空気がひりつく。そうこうしているうちに───

ドガアアァァァァァン!!!!!

と、爆音とともにヘリが爆発する。心なしか、あのヘリ『以外の方角』からも、爆発音が重なって聞こえたように感じた。

───そして、爆発したヘリから、おぞましい量の機械たちが降り注ぎ、真っ白だった雪原を、暗色に染め上げていく。

 

「……覚悟は良いですか、アリスさん」

 

「もちろん!腕の見せ所だね!」

こうして、最後の戦いの火蓋が切られた。







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