全裸スター団
『ごめん、みんな………』
開口一番、元スター団で現STCのボス、ボタンはそう切り出した。
謝罪の意図が分からない通話相手……チームリーダーの面々は首を傾げる。
「えっと……まず説明をしてもらえないかな?」
一同の疑問を口に出したのは、ボタンの相談役を勤めていた青年、ピーニャだ。
『や、その、えと……』
その問いに答えるか否か、悩んだボタンはどもってしまう。
しかし、先刻オモダカに向けられた笑顔を思い出すと、このまま黙っているわけにもいかなかった。
『……みんなのアジトの周りにも、よくテラスタルの結晶がでるよね。それで、近辺の調査をして欲しいって、トップから言われてて。……んで、最近テラスタルの結晶から出るエネルギー量がおかしくて、衣服の類を来たまま近づくと布地まで結晶化して危険で……だから、何も着ずに調査をして欲しいとか言ってて……』
「……は?」
ボタンの話にその一言を飛ばしたのは、チーム・ルクバーのリーダー、オルティガだ。
「待ってよ。それってつまり、オレたちにハダカでテラスタル結晶の調査をしろって……そう言ってるの?」
『……うん、ごめん。ウチも最初は断ったんだけど』
再び、申し訳無さそうにボタンは声を絞り出す。彼女も長い付き合いの友人達に危険で、兼つ羞恥を伴う事など頼みたくはないのだ。
「ジムリーダー達も手が開かない、チャンピオン・ネモやチャンピオン・アオイ……そしてあなたも手が開かない。そうなると、件の地に最も近い場所に居る彼らが適任だと思ったのですが……」
リーグが動かざるを得ない結晶の近くに、仲間達のアジトが点在している……即ち、最も危険なのは結晶の近くに居る彼らに他ならないのだと、そう言っているのだ。
友人達の身の安全を考えれば、例え嫌がられても伝えざるを得ない。
ボタンにとっても苦渋の決断だったのである。
その話を聞けば、嫌がっていたメンバーも受け入れざるを得なかった。
「……アジトに居る奴らにも危険が及ぶって事じゃん。だったら、行くよ。行くしかないじゃん」
「……だな。オレのアジトはボウルタウンにも近いし……放っておいたらマジでヤバいって事だろ」
「ふむ、その地に住まうポケモン達にも悪影響ならば……我らが動き、その脅威を抑える他ないな」
「そうだね!みんなを守るためなら、恥ずかしがってる場合じゃないもん!」
『そんなとこ……ウチも皆んなが回れない所とか見ていくからさ』
「え……みんな、順応早くない?」
ここで流れに置いて行かれたのは、マジボスの相談役であり団の掟を司る青年……チーム・セギンのリーダー、ピーニャだった。
「っし!じゃあ一肌脱いでやるか!」
威勢のよい声をあげたのは、チーム・シェダルのリーダー、メロコだ。
勢いづいたのか、一肌どころか色白な肌の全てを惜しげもなく曝け出しているのだが。
「私も!みんなの事、守らなきゃ!」
メロコに続くように、チーム・カーフのリーダー、ビワが地獄のアイドルの衣をその身から外す。
「ちょ、待、何して……」
女性陣の潔さにツッコむ暇も与えられず、ピーニャはただ戸惑うだけだった。
「……あーもう!分かったよ!オレもやればいいんだろ!」
何が分かったと言うのだろうか、チーム・ルクバーのリーダー、オルティガもシャツのボタンをプチプチと外して幼い柔肌を曝け出す。取り払われた下着が、彼の覚悟を表していた。
「オル、え、なんで……」
「……我が身を包む布地が身を危険に晒すのであれば、外すのは必然。我も皆の覚悟と共にその身を日の下に見せよう!」
チーム・シーのリーダー、シュウメイは手品の如く、分厚く纏った忍のコスチュームを脱ぎ去り生まれたままの姿を見せる。
「待って待って、みんなノリ良すぎっしょ!?」
助けを求めボタンの画面を見ると、知らない間に最後の砦も素肌を露わにしていた。
『……あれ、ピーちゃんまだ服着てたん?その辺も結晶が出現してるから、脱がなきゃ危ないと思うんだけど』
初めに脱ぐ事を申し訳無さげに告げていたのはなんだったのか。今更そう突っ込んだところで誰も答えてはくれないだろう。
『ピーちゃん』「ピーニャ」「ピーニャ殿」「ピーニャ」「ピーニャ君!」
5人が彼に告げる言葉はただ一つ。
身の安全を確保するため、仲間や周辺地域に危険をもたらすテラレイドの結晶に近づくため……
今すぐ、服を脱ぐべきだ。
ただそれだけである。
☆
「ピーニャ殿、躊躇う必要などない。我らもこうして有りのままの姿を見せている故」
全裸のシュウメイが、服を着ているピーニャにそう伝える。彼の下腹部に鎮座するタマゲタケに気が散り、言葉がまるで耳に入ってこない。
「もういっそオレらで脱ぐの手伝ってやろうぜ」
続いた全裸のメロコはそんな事を言い出した。
脱ぐのは嫌だが、脱がされるのはもっと嫌である。羞恥が段違いだ。ぐーんやぐぐぐーんの比ではない。
「脱ぐ、脱ぐから!手伝わなくていいから!」
瞬間、視線がピーニャに集まる。
言ってしまった手前、もはや逃げ場はない。背水の陣である。
手始めにキャップを外す。そよそよと吹く風が髪をくすぐる感覚に、次を躊躇いそうだった。
続いて上着、ベスト、ワイシャツ、インナー……上半身を守っていた布を一つ、また一つ取り払う。全裸の友人達に上裸の姿を見せている異質さに、ピーニャは耳を赤くした。
さて、一番の問題は下半身を守る布達である。靴や靴下は問題ではない。パンツが問題なのだ。パンツと言っても下着の方ではない。下着にも関わる問題だが。
ピーニャが履いているそれは、ピッタリと脚のラインを見せるスキニーなのだ。ピッタリと、それはもうピッタリと彼の下半身を包んでいる。
そんなスキニーを下手に脱いでしまえば、下着をすっ飛ばして己のエクスレッグを見せることになるのである。
手を止めた上裸のピーニャを見て、全裸のオルティガは首を傾げる。
「なんだよ。脱がないの?」
「いや、ちょっとね……」
「恥ずかしがらなくて大丈夫、みんな一緒だから!」
全裸のビワがそう励ます。
『ピーちゃん、急いで。みんなのアジトに被害が出る前に……』
通話越しにそう言う全裸のボタンの一言が、ピーニャの手を腰へと持って行く。
そうだ、チームの皆んなに危険が及ぶ前に。
覚悟を決めてスキニーを下げる。幸い下着には引っ掛からなかったようだ。
気持ちが鈍る前にと、続けて下着に手を伸ばす。下がる下着と上がる羞恥心が見事な反比例を見せるが、生憎目に映るのは下着を脱ぐ姿だけだった。
ついに下半身の布も全て取り払わた。
前方にエクスレッグ、後方にモモンの実を携え、ピーニャもめでたく全裸となったのである。
同時刻、アオイはピクニックでサンドウィッチを爆発させていた。ソースの類が飛び散ったものの、服は無事だったようだ。