光のラブロゴ

光のラブロゴ

βナチャン因子強め

⚠持ち出し・コピペ禁止

※①⑥ヤスダの幻覚
※実況やインタビューの台詞は動画から一部改変して抜粋しています



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『外から接近するモーリス! 3番手イスラボニータらも外に広がったが───なんとなんと、ロゴタイプゴールイン! ロゴタイプ…ロゴタイプ逃げ切りました! 皐月賞以来、3年2ヶ月ぶりの勝利!』



瞬間、辺りは喚声に包まれた。

喜びの声、嘆きの声、怒りの声、悲しみの声…。

決して纏まりがあるとは言えない和音の中で、それでも自分が上げたのは確かに歓喜の叫びで、やけにはっきりと鼓膜を震わせたのは驚愕の呟きだった。


「マジかよぉ…絶対モーリスが来るって思ってたのに…」

「8番人気だぞ、しかも府中で逃げなんて勝つわけないだろ普通…」

「バッカ、コイツ関東マイルで大崩れしてないんだぜ?G1ならイケるって誰かも言ってたろ。ちなみに俺は買ってない」

「テメェも買ってねぇじゃねぇかよ!」


周囲の大音量に負けじと最後の方は最早怒鳴り合いのような声量と化していたが、おかげでその会話は一言一句余すことなく耳に届くことになった。

君たちの目の前にいる奴は結構有名なレース勝ってるウマなんだけどなぁ、知らないかなぁ。気付いてないのかな、まぁ僕地味だしな。

そんなことを呑気に思いながら、しかし気分は最高に晴れやかであった。下手をすれば自分が大舞台に勝った時よりも、今目の前でレイを掲げてターフで手を振る彼よりも。


“絶対モーリスが来る”? バ鹿だなぁ、競バに絶対なんてないのに。

“8番人気”? 彼は7番人気で朝日杯を勝ってるんだ、何もおかしくないじゃないか。

“府中で逃げ”? 前例はあるだろう。彼もまた、そんな難しいことをやってのけるだけの実力を持ったウマだったってこと。

“G1ならイケる”? これについては賛否両論あるかもね。でもそう思わせるほど、負けて強しの戦いを見せてきたって証拠だ。買ってないのはご愁傷さま。


一つ一つ、根拠と自信を持って反論することができる。それはもう簡単に、プチプチの気泡を潰すみたいに。こんなに楽しいことってあるだろうか。

そんな事を思う自分は大層性格が悪いのだろうなと耽りつつも、上がったままの口角は一向に動く気配を見せない。

全ての不安要素を覆して、彼が勝利を手にした。その事実は何よりも強く、大きかった。


会場はいつの間にか喧騒を手放し、勝者を称える拍手が表彰台に登る彼を包んでいる。

面映さが勝るのか、はたまた久し振りの光景に勝手を忘れたのか、いやにそわそわとした仕草が遠目からでも垣間見えて思わず目を細めた。

もう少ししたらインタビューかな、聞き逃したくはないけれど今から動き始めないとバ道で落ち合えないかもしれない。いや、別に待ち合わせてる訳じゃないけど、一番に会って祝いたいし…。


うんうん唸りながらちょっぴり贅沢な悩みを抱えつつも、マイクが回ってくるのを待つ彼のことはしっかり視界には捉えていて、いつ話し出してもいいように耳はピンと立てて前を向いていた。

完全に彼の声だけを聞く態勢に入って、ちょっと分かりやすすぎるかな、なんて頭の中の冷静な部分が今更ながら恥じらいを持つ。

彼を意識しすぎているのは全く事実なのだけど、他人にそれを指摘されるのは少しだけ恥ずかしい。ずっとずっと奥底にある、燻り続ける感情までも見透かされるような心地がして。



結局悩んだ末の答えは出ないまま、いよいよ彼が話す番が回ってくる。

受け取ったマイクのヘッドを数回叩いて、あ、あ、と具合を確認する姿に、何故だか目頭が熱くなった。

まだ若干の昂ぶりを隠さないまま、彼は言葉を紡ぎ始めた。


『──してやったりと、そう思われるレースだったかもしれませんが……作戦の一つとして浮かんではいましたし、思いきって行ってくれという声もあって、躊躇なく行くことができました』


ふは、と思わず空気混じりの笑いが漏れる。

作戦の一つ、なんて何でもないことのように言うけど、それで脚質を変えるなんて芸当が簡単にできたら苦労しない。

一度逃げを経験すると掛かりやすくなるという話もあるし、彼がいつも採る先行策とはペース配分も仕掛けどころもまるで勝手が違ってくるのに。

この大舞台で、直線の長い府中で、それを初めて試してみる度胸たるや。

きっと自分には一生真似できない。

でも、それでいい。



モーリスという強いウマがいたわけですが、と問う記者の質問に、モーリス以外にも強いウマは揃っていて…とさらりと返すところにも一々舞い上がってしまう己が末期である自覚は大いにあった。

熱に浮かされていたって、相手へのリスペクトを忘れることはない。

アスリートとして当たり前と言われればそれまでだけれど、それが彼の美点の一つであることもまた矛盾はしないのだ。


『人気薄でしたし、他に絡んでくるウマがいなければという賭けでしたけど、思ったようになってくれました。奇襲のつもりはなくて、ただ……



────ただ、着を拾うのではなく、勝つためにどうすればいいか、それだけを考えていました』




その言葉を切欠に周囲に小さなざわめきが走って、自分のことでもないのにそれが嬉しくて、ニヤつく顔を見られたくなくて背を丸めた。


帰ってきたんだ。

僕らの絶対王者が。


有り余る才能を迸らせ、貪欲に勝ち星を求め続けた在りし日の彼が。

ずっと手が届かないと思っていた場所で、羨望をその背に受け止めていた彼が。


あぁ、と絞り出した声は酷く掠れていて、けれど確かな高揚を孕んでいて、つくづく自分は彼に心から心酔しているのだと思い知らされる。

彼に並べるだけの栄誉を手にしても、直接対決で下しても、彼という存在が自分の中で揺らぐことはなかった。

まだ幼さの残る頃から知る彼は、誰よりも強く、逞しく、そして美しかった。


初めて出会った時から、何も変わらない。

君の強さも、僕の想いも。


何年経っても、君は僕の憧れのヒーローだ。




これを機に夏に弾みをつけたい、という最後の抱負までちゃんと聞き取ってから、マイクを記者に返したのを確認して感情のままに駆け出す。

ぎょっと驚いた視線がいくつも刺さるのは感じていたけれど、そんなものどうでもいい。

今はただ、彼に会いたかった。


まずは何を言おう。

やはりおめでとうは外せない。あの激走のどこが良かったかも具体的に説明しよう。インタビューかっこよかったよ、も伝えなきゃ。語彙力はきっと後から付いてくる。


それから、


……それから、


…抱え続けてきたこの想いも、全部全部、余すことなく、彼に伝えよう。


隠すなんて、もう無理だった。

声を大にして君が好きだと、あの場で言ってしまいたいほどだった。

このまま抱え込んでいたら、きっと僕は爆発してしまう。通じ合うなんてワガママは願わないから、ただただ、僕の思いの丈を君に聞いてほしい。


いざ決意を新たにすると酷く勇気のいることだったけれど、もう引き返せない。引き下がる選択肢もない。

走って荒いだ息を整えて、うるさい心臓を諌めるように一つ大きく息を吸って。


地下バ道の先、逆光に照らされる黒鹿毛が見えて、その胸に飛び込むべくまた駆け出した。



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