光のゆくすえ
「IFローにつけるアクセサリー(遺灰ダイヤ使用)をオーダーメイドしにいくIFラミンゴ」の注文を受けてた宝飾店のお姉さんの話
島一番のジュエリー工房、三代続く宝飾店。それが私の家だった。
宝石そのものこそ産出されないこの島の人々は、だけど昔々から金属加工に長けていた。金物作りで百年近く、そこに「宝石も、装う。」のキャッチコピーを加えて二十年弱。宝飾品について「宝石は持ち込み品のみ取り扱い、宝石の売買ではなくあくまで『装飾品作り』を請け負う」とした先人達の方針は大当たりだった。
一つ。潮流とログの関係で「偶然迷い着く」ことはまずない島の位置。
二つ。島の在庫は九割方が未加工では価値は出ない金属で、保有しているだけでは狙われにくい。
そして最後。貴石を自力で入手し、あまつさえ石そのものをも飾らせる性格をお持ちの「お客さま」。その獲物を狙う計算高さは、並の無法者にはほとんど無い。
以上により、我らが故郷は今日も平和。人間が賢くて何よりである。
島内に手配書を貼らないのは、島民達の暗黙の了解だった。金銭が正邪を選ばないこの時代、清にも濁にもお客さまは多い。
恐怖を感じたことはない。海賊であれ何であれ、彼らは金を払いにこの島にやってきて、預けた自分の宝石を返してもらいにまたやってくるだけなのだから。
恐怖を感じたことはない。これからもない。
そう思っていた。
あの日まで。
「い、今、なんと」
無数のダイヤを全て使った「作れるだけのアクセサリー」の受け渡し日。実に楽しそうに笑うサングラスの人間――今回のお客さま、ドフラミンゴ様は、接客上あるまじき態度になった私に構うことなく、場末の酒場で酔っぱらいが店員にうんちくを垂れるのと、全く、同じ、調子で。
「フッフッフッ、いいぜ、今の俺は気分がいいからな。もう一度教えてやる」
男の巨躯からすれば砂粒サイズ。小石を摘むように持ち上げられた指輪の一つ、無数のダイヤの反射が私を射抜く。
「このダイヤは全部人間だった。かわいそうなバカな奴が……もっとかわいそうな部下を大勢死なせてなァ。テメェのしたことを忘れないよう、そいつら全員ダイヤにして贈ることにした」
にたにたと。にやにやと。あの日と同じに男が笑う。あの日、突然現れたこの男が、カウンターに手袋も無しにぶちまけた宝石の王様達、まったく無造作に転がった、ころころ、ころころ、無数のダイヤ。
「……あァ、本当に……いい出来だ……」
震える私は既に彼の眼中に無い。摘んだ指輪を、小指に引っ掛けたブレスレットを、光にかざしてためつすがめつ眺める様は、とろけるような恍惚の、心底からの、私が願った、私が目指した、
よろこびの体現だった。
体だけは動いていたらしい。とんだ忠義者である。気が付いたら私は、処理の終わったレジを背に、全てが入ったショッパーを捧げ持って粛々と彼に付き従い、お望みの品を献上し、深々と頭を下げてドフラミンゴ様を見送っていた。
彼はもう私を見なかった。
「またのお越しをお待ちしております」
言えたかどうかは覚えていない。
あれらを贈られる人間を、私はまだ知らない。
後編→https://telegra.ph/光のゆくすえ終-09-25
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2022/12/10追記
同じ小説を2022.10.5. 20:05:31付けで「ぷらいべったー」に投稿しています。非公開です。
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