先生の遍歴

先生の遍歴


記憶もかすれた遠い昔、まだ平凡な少年だった頃。

故郷が襲われ、家が焼けた。足の代わりに無数の触手を生やした大男はシャンダラーの守護者と戦いながらも、その触手のうちいくつかで近くにいた私の両親の命をからめとった。満足に逃げることもできなかった私を次の獲物と認めたのか、喉首めがけて触手が飛んできたその時、自分の心の中に火花がはじけた感覚がした。世界の速度が急激に低下し、ゆっくりとシャンダラーの守護者がその怪物めがけて呪文を放っている様を見ながら、私の視界は暗転した。


 気が付くと図書館にいた。そこで出会った「ガフ提督」を名乗る男性は私に様々なことを教えてくれた。正気ではないようだったが、彼の持つ知識や善いことの為に力を使うという考え方に惹かれた私にとっては些細なことで、すぐに親友となった。

 

 そこから1000年程、私は様々な次元を渡り歩き、様々な友人と出会い、また図書館に戻ってはガフ提督と語り合った。神にも等しい力を手に入れたにも関わらず傲慢にならなかったのは、ひとえに彼のおかげだろう。


 そんな生活が急変したのは、彼のような「さとり」の境地を求めジェスカイ道の神秘家に教えを乞うていた頃だった。久しぶりに図書館に戻ると彼の姿はなく、アーボーグの守護者たるウィンドグレイス卿からその最期を聞いた。ナイン・タイタンズとして、自らを犠牲に歴史書から世界の滅亡を消し去りながら暗黒雲に呑まれた……と。


 その献身に心を打たれた私は百年ほど、様々な次元で調停者の真似事をした。そんな中知り合った吸血鬼のソリン・マルコフとは同じ調停者気取り同士、気の知れた仲となった。私は「善いこと」の為、彼は自身の娯楽の為と、お互いに譲れないところは分かり合えなかったが、それなりに仲良くやっていた。ただ、彼の造った希望の天使に関しては、今でももう少し太腿が大きくてもいいと思っている。



 しかし、突然大修復によって私の力の大半が失われ、調停者気取りの活動も終わりを告げた。


 すべきことを失った私は20年ほど放浪していると、ある日カズミナというプレインズウォーカーと出会った。そこでかつて親友にプレインズウォーカーとは何たるかを教わった事を思い出し、若きプレインズウォーカーにとっての「先生」となることを決意した。



 様々な生徒がいた。金線で顔を覆ったヴロノースという生徒にはフェイズ・アウトの技術を授けたが、ソリンから「プレインズウォーカー狩り」にやられたと聞いた。


 親友の死から久しく「死」に悲しみを抱いていなかったが、初めての生徒の喪失に心を掻きむしられるような痛みを感じた。「先生たるなら、生徒を守らねばならない」――先生を名乗ってから遅すぎる誓いだった。



 一方でまた、生徒の力強さも思い知った。バスリという生徒は砂漠以外の世界を知らなかったが、それでも結束の力を信じていた。肉体的にも精神的にも未熟な生徒にも関わらず、彼の信じるものは時に眩しくさえ感じられた。



 そして多元宇宙に変化が起きた。ファイレクシアの軍勢は私にとってはさほど脅威ではなかったが、進軍前最後に教えた生徒……自らを連邦生徒会長と名乗る少女の存在が気がかりだった。指導中に侵攻が始まり、制止も振り切って自らの次元に帰ってしまった生徒。


「 ……今更図々しいですが、お願いします、先生。」


 まだ未熟な生徒の為に。そんな生徒に任せられた生徒たちの為に。

 私はキヴォトスへプレインズウォークした。

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