先生と契約
未来の悪魔がいる部屋にアキが入る。後ろで扉が閉まる中、前方の闇から人が樹木と化したような姿が現れた。それは「未来最高!」と叫ぶようアキに要求するが、アキは未来の悪魔のテンションに付き合わない。
「まあいい、お前の未来を見せな!未来次第で契約内容は考えるぜ!」
未来の悪魔はアキに、己の胴体にある穴に頭を突っ込む事を要求する。アキが頭を入れてしばらくすると、未来の悪魔は抑えきれない様子で笑いを漏らす。
「契約はこうだ!お前の右目をよこせ!そうすればお前の力になってやる!」
「それだけでいいのか…って顔だな?」
不審がるアキに対し、未来の悪魔は笑う。オマエの未来には絶えず混乱と苦悩が付きまとうが、死ぬときはあっさり死ぬと。
「詳しく教えようか…?オマエは…」 「言わなくてもいい。自分の死に方には興味ない。俺は俺が殺したい奴を殺せれば、後はどうなってもいい。さっさと持っていけ」
契約は成立し、アキは未来視と引き換えに右眼を喪った。地上に戻ったら義眼を作成してもらい、眼帯をつけて活動することになる。アキが部屋から出てしばらく後、未来の悪魔はぼそりと言った。
「パフォーマンスに巻き込まれたら、たまらないからな…少し後ろの席を取らせてもらうよ。早川アキ…」
★
マキマはデンジとパワーを連れて集団墓地を訪れていた。ベテランハンターの岸辺が2人に会いたがったからだ。
「デンジ君とパワーちゃんに指導は必要ないと思いますが」
「お前一押しのルーキーの面ァ拝みたいんだよ。問題ないか?」
「はい。なら…」
約束した日時と場所にマキマが向かうと、大柄な男が3人を待っていた。
「連れて来ました。…彼の名前は」
「シー、黙れ」
男は振り返ることなく、指を1本立てた。
「仲間が死んでどう思った?」
「別に〜」
デンジは質問の意図を図りかねた。だから正直に答える。彼にとって仲間と言えるアキと姫野は無事だ。
「敵に復讐したいか?」
「復讐するほど付き合いねーしなー」
アキや姫野が殺されたなら、きっと復讐しただろう。
「お前達は人と悪魔どっちの味方だ?」
「俺を大事にしてくれる方」
種族にこだわりはない。昔はあったかもしれないが、抱きしめてくれた少年が壊してしまった。
「男の方は75…女の方は100点だ」
「は?」
振り返った男の顔には大きな縫い目があった。手には小さな水筒を持っている。
「お前らみたいな手合いは滅多にいない。大好きだ」
「恐い」
「では先生。後はお任せします」
マキマは2人を置いて去っていった。いつの間にか男は距離を詰めており、彼は2人にもたれかかってきた。
「俺は特異1課でデビルハンターをやってる」
「先生と呼ばれると気持ちよくなれるから先生と呼んでくれ」
「好きなのは、酒と女と悪魔を殺す事だ」
言うが早いか、先生は2人を持ち上げて首を折った。懐から取り出した血液パックの中身を与えられると、倒されたデンジとパワーは生き返った。
「あ〜…チキショー 何しやがるテメー」
「噂の新入りがどんなもんか見たくてな。マキマに連れて来てもらった」
「噂?」
「お前ら、公安だとちょっとした有名人なんだよ。マキマ御執心のチェンソー野郎と、致命傷すら治す悪魔ってな」
立ち上がったパワーは先生の顔を眺めていた。先生の話をぼんやり聞いていた彼女は、俄に顔を綻ばせる。
「ハハ〜ン…わかったぞ。オヌシ、ワシのファンじゃな!」
「えっ、そうなの?」
「そうじゃ!ワシに会いたかったって言っとるし、意味わからん点数もワシの方が高かった!」
パワーはご満悦の表情で先生を指差す。
「首折られた礼もしたいしのう…軽く遊んでやろう!」
「ほう、いいのか?」
「ワシにボコられるなら本望じゃろう?おい、デンジ!チェンソーは使うでないぞ!ファンはいくらいてもいいからのう…戦闘開始じゃ!」
パワーが闇を集めて、デンジにハンマーを投げ渡す。デンジの振るった鎚を躱し、先生は続け様に刺突を繰り出そうとナイフを構えるが、突き出した手にデンジの蹴りが入った為、ナイフは地面に落ちてしまった。
そこにパワーが襲いかかるが、先生は伸びた腕を絡めとるとデンジ目掛けて投げ飛ばす。
「悪くないな…」
「う〜…スケジュールの合間を縫って会いに来たワシにこの仕打ち…死ぬ覚悟はできておるな!?」
「待て、パワー!殺したらダメだ!」
パワーの姿が変貌する。少女の姿が消え、入れ替わりに完全な悪魔がその場に現れる。複数の腕と脚を縒り合わせたような手足と胴体に複数の顔を持った、正しく悪魔そのものの姿。それが顕現した瞬間、周囲の空間の明度が落ちた。
「忙しいなら、もう帰っていいぞ」
「は?」
「他に予定があるんじゃないのか?」
「そうじゃ!ワシ、会食の予定があるんじゃ!デンジ、ジジイの相手は任せたぞ!」
物怖じしない岸辺に尋ねられたパワーは、平時の姿に戻ると墓地から去っていった。一人残されたデンジはパワーを追いかけることなく、先生と対峙する。
「お前は帰らないのか?」
「楽しくはねーけど、勉強しよっかなって思って…」
「そうか。じゃ、続けるか」
先生はゆっくりとした動作で歩いてくる。デンジがこの場に残ったのは、なるべくチェンソーマンの力を使わずに済ませられるようになりたいからだ。
普通の幸せを手に入れる上で、本来の自分は障害になりうる。この男のような、あるいはアキのような、"普通に強いハンター"として振る舞えるように、彼の動きをもっと学びたいと思ったのだ。