兄カルナルート 女神魔性転生 クルクシェートラ1
その日は太陽が強く照りつけていて、こんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
「パラシュラーマ様の元で修行してこい。」
「えっ?」
父さん今何て言ったの?
走る、走る。王宮の端にある泉へ。
「アーユス!」
気がつくと沐浴中のアーユスのに、飛び付いていた。
「父さんが、父さんが、」
「落ち着け、アシュヴァッターマン。どうした?」
「修行、パラシュラーマ様?のところでやってこいって。遠い、から、アーユスと、離れ、離れるのいやぁ!!」
「さっさと修行に行け!!」
カルナが俺をアーユスから引き離した。
「アーユスならお前の分まで俺が堪能しておこう。心配するな。」
アーユスを体の後ろに隠すな!
「やだー!!アーユスが減る!」
「俺の分は増えるから問題ない。行ってこい。」
「・・・アシュヴァッターマン。」
カルナのガードの脇からアーユスが顔を出す。おい、カルナ、更に隠そうとするな!
「アーユス、俺がいなくて寂しくないのか?」
「俺がいるからな。」
「兄様!ちょっと黙って。」
カルナをよけてアーユスと目線が合う。
「寂しいとも。だがドローナ師もお前のことを思
のことだ。」
「どうして、修行はここでも出来てるのに?」
「子を思う父の想いだ。最近アルジュナがドローナ師にずっとついているだろう。」
確かに、父さんと修行するときにアルジュナが最近ずっとそばにいた。
「お前にドローナ師の特別を教える機会を待っているのだ。自分もドローナ師のとっておきを学ぶためにな。」
「とっておき?」
「パラシュラーマは自ら認めるバラモンに対しては自分の持てる業を全て伝授している。ドローナ師のとっておきもパラシュラーマから指導されたものだ。」
「アーユスも一緒に行こ。」
「・・・パラシュラーマはバラモンにしか寛容では、ないのだ。」
アーユスは少し悲しそうだ。
「お前になら道は開かれている。俺たちでは駄目なんだ。」
小さい、豆だらけの手が額に触れる。髪が隠す宝珠にアーユスが触れる。少しくすぐったい。
「お前もカルナも特別だ。誰よりも強くなれる男だ。俺にお前の真価を見せてくれ。」
「・・・うん。」
こんなことを言われて、行きたくないなんて言えなかった。
「お前がいないと寂しくて仕方ない。だから、さっさと行って戻ってこい。」
「いや、ゆっくりでもいいが。(貴方の分までアーユス充するのでじっくり修行してきてください)」
「兄様!」
「兄上、俺頑張るから出発する日まで一緒に寝てもいい?」
「駄目だが?(私が添い寝するので貴方が入る場所がありません諦めてください。)」
「兄様!!」
結局狭いベッドで三人で寝た。父さんは狭かったら父さんと一緒に寝てもいいって言ってたけど親離れって大切だよな。
アーユスに、兄上の横にいてもカルナみたいに見劣りしない男になって戻ってくるんだ。
高い山の中腹に、バラモンの拠点はあった。
「パラシュラーマ様。お初にお目にかかります。私はかつて貴方にブラフマーストラを伝授していただいたバラモンドローナの嫡子、アシュヴァッターマン。貴方の教えを乞いにきた。」
多くのバラモンの師、ヴァシュヌの化身、シヴァの直弟子、アヴァターラでもあるその人は俺のことを見て言った。
「宝珠を冠するもの、第三の目を持つシヴァの怒りの化身か。」
視線は俺を見ているようで見ていない。
「汝、何を目的とする。」
どうして、バラモンの苦行に耐えるのか。最初はアルジュナたちばかり見る父さんを見返したかった。ただの子どもの癇癪の結果だ。
「汝の父はお前を養うため私の元に来た。私はすでにこの身しかなく技を伝えた。汝は何のために力を欲するのか。」
でも、いまは違う。浮かぶ姿は一つ。一輪の美しい花。怒りの化身、そうだったのかもしれない。花を見つける前は、父さんをアルジュナに盗られた気がしてイライラしていた。今はそんなことはない。満たされている、愛されている実感があるから。
「父が私を守ったように、私にも暖かさを、人のいとおしさを、教えてくれた人がいるのです。」
高名なバラモンドローナの息子。肩書きしかみない大人たちの中で見つけた花。
「その人に報いたい。」
それがたとえ独りよがりでも。
「・・・修行場に案内しよう。」
「はい!」
必ず、あの人の暖かさを守ると、決めたんだ。
1年がたった。
パラシュラーマは弓、剣、槍、斧、色々な武器、武術について親身に技術を与えてくれた。
「汝はシヴァの怒りの化身、我もシヴァと関わりか有るゆえわかる。汝が望むとき、シヴァの力の一端を得るだろう。」
「シヴァの、力?」
「汝が願い、正しき祈りを捧げる時にそれは至る。」
正しき祈り。正しいとは法のことだ。でも、法の上でどうしようもなくなってしまったら、その祈りは正しいのだろうか。
「額の宝珠は魔性を弾き、あらゆる病魔から汝を守るだろう。それも汝の道を示す。異郷の友を助けなさい。同郷の魔性を討ち取りなさい。」
正しい祈りはわからない。でも大切なことは間違えない。
馬で野を駆ける。早く、早く。
「兄上。早く会いたい。」
額がいつもより熱を帯びていた。馬が嘶く、額が熱い。前方には見たことがない爬虫類を模したような化け物の大群が、いた。
ストーム・ボーダーのペーパームーンが特異点の反応が記録した。
集められたサーヴァントはインド出身サーヴァントが中心だ。依代としての自分はインドには縁がないがこの身に宿るのはガネーシャの神性であり呼ばれるのは妥当なところだった。
「うん、君たちに集まってもらったのはだな、特異て」
「今回の特異点は、インドだ。なんと時代はマハーバーラタ真っ只中だよ、立香君。」
「言い終わるのが待てんのかね技術顧問!?」
ゴルドルフの台詞を奪いダ・ヴィンチが言った。いつもの漫才である。
「うぇ~第何次インド対戦になるのダ・ヴィンチちゃん!次はどのドゥリーヨダナ亜種?」
「わし様冤罪かもしれんだろ。なんかビーマ辺りめんどくさいことになってたりせんか?」
インド、マハーバーラタ、ドゥリーヨダナという存在がどれだけ重要なのかはカルデアでは周知の事実だった。いないと積む。ただ死んでも積む。12億殺さないと積む。神様の作った筋書きを綱渡りで自分が赴くままに達成した。それは確かに英雄であった。実際はただの欲張りおじさんなのだが。
「いやめんどくさいのはトンチキ王子の特権だろ。」
「クラス当てしよーぜ!」
「まだないのは、ライダー?」
「ドゥリーヨダナが増えるのは大歓迎さ。壺の発注はばっちりだ、ドゥリーヨダナはどれだけ増えてもいい。ジャンル:ドゥリーヨダナでサバフェスでも開くか。」
「しまっちゃうお兄さんはちょっと黙ってて。」
なんてネタが豊富な神話だろう。増えたインド面子を見て思う。こほん、とダ・ヴィンチがわざとらしく息をつく。
「いいかい、立香君。」
「ごめん、ダ・ヴィンチちゃん。」
「うん、実はね、集まってもらったインドサーヴァントには悪いんだけど、今回インドでレイシフト可能なのはガネーシャ神だけでなんだ。ただマハーバーラタの真っ只中の時代だからね。レイシフト後の手助けをして欲しい。」
「え!僕だけっすか?ダヴィンチちゃんも無理があるっすよ!!戦闘要員は?いるっすよね。」
後ろの方で目立たないようにしていたのに、指名されて思わず声が出る。
「勿論、レイシフト適正はマーリン、アスクレピオス、アンデルセン、渡辺綱だ。」
「キャスター多すぎでしょ!RPGなら縛りプレイ状態っす!カルナさんガッツ発動してレイシフトできたりしないんすか?」
「可能だ(やってみなければわかりませんが以前無理矢理ユユツオルタがレイシフトした件がありますので頑張れば可能だと思います。)」
「カルナ、無理するな。わし様のカルナに何かあってはわし様が困る。マスターやそこなガネーシャ神の依代に何かあるなら技術顧問が何とかするであろう。」
「おや、信頼されているようで何よりだ。」
言われていることは最もなので言い返せない。カルナ、マハーバーラタの英雄、月の聖杯戦争で契約者の素質で不戦敗させてしまった自分の英雄。無理をさせるのは違うのはわかる。
「時間がないのでさくさくいきますが、今回の特異点は既に聖杯の魔力がかなり危ういところまできています。早急な対応が必要です。」
「そうだねぇ、随分と隠蔽されていたみたいだ。その分難易度は高いと思ってくれたまえ。神代だしね、なるべく通信も頑張るよ。」
「音信不通になるフラグっすよ!」
「俺には原稿という仕事があるのだが?マスター。」
「これが終わったら、休んでいいから!」
「そういって一時間しか休ませてもらえなかったキャスターを知っているのだが、心当たりはあるか。」
「ボックスイベントが急にくるのが悪いから、本当にクイック周回にしようと思ってたんだよ!ごめんねキャストリア!」
「いいかい?私もどちらかと言えば居残りがいいのだけど~私はハッピーエンド派なんだ。ちょっとインドは苦行が過ぎる。」
「面白い症例があればいいが、仕事だ。救護要員は引き受けよう。風土病にでもかかったらすぐに教えろ。」
「うわぁ、いいこと言ってるのに雑念しか感じないっす。」
「インドとは生前関わりがないのだが、インドにも鬼は出るのか?」
「鬼はいないが悪鬼羅刹魔性はたむろしてるぜ。ここにもいるしな。」
「身の程を弁えない神性も多くいるがな。神性特効の魔王でも連れていった方がよいのではないか?」
「喧嘩しない!」
童話作家、夢魔、医神、平安武者、そして富と障害の神―――これが今回適正のあるサーヴァントであった。そこに自分が入ると思うと気が重い。
「マシュは定期点検だもんね。」
「オルテナウスは使えませんがマシュ・キリエライト先輩の存在証明のお手伝いをさせていただきます!」
マスターとマシュのやり取りはかわいい。この後のことを思うと体が更に重くなる。
「私も出来る限り頑張るさ。」
「レイシフト予定地はマハーバーラタの御前試合前後。まだ戦士というには若い彼らがいるでしょう、骰子賭博以前で決別は決定的ではありません。パーンダヴァは正義を示せば、カウラヴァもドゥリーヨダナにメリットがあれば協力してくれるでしょう。」
「うん、ありがとうシオン。じゃぁ、行こうか。」
渋々コフィンヘ入る。一人分の狭い空間は少し苦手だ。
「無事に帰って来てください、先輩。」
「うん、待ってて。マシュ。」
若者が、頑張っている。
「ガネーシャ神、無理はするな。」
痛いのは怖い。戦うのは怖い。死ぬのは怖い。ただそれでもここにある時間は奇跡。その奇跡を続けるために、虚言で自分を固めるのだ。
「大丈夫っす。いってきます。カルナさん。」
虚言は何時だって貴方にはばれている。
光の渦を越えて見たものは、辺り一面の空、地面はまだ遠い。
「マーリン、着地!よろしく!ガネーシャさんは綱さんよろしく!先生とアンデルセンは自分で頑張って!」
「肉体労働は慣れてないんだけどな~。」
「ああ。」
空中で、不安定な体を平安武者に預ける。
「どうしていつも空中なんすか!」
「舌噛むよガネーシャさん!」
「んんんー!」
「マスター、着地点に魔性の気配だ。獣か?」
「インド名物カリだね!」
「そんな名物いらないっす!ああ、なんか誰か襲われてないっすか?!」
「じゃあ、着地と同時に戦闘準備!マーリンは綱さんに強化全ぶっぱで!綱さんはスキル解放!ガネーシャさんは民間人保護!先生とアンデルセンは補助!」
「夢魔使いが荒いなぁ。」
「クリティカルでぶっとばすよ!」
「わかった。」
「脳筋は止めてくださいっす!」
地上ではカリの群れが赤髪の少年を取り囲んでいた。
「数が多い!少年保護して一点突破!」
「ガネーシャさん石像モード!マスター!そこの男の子!捕まって!全速力で駆け抜けるっすよ!」
「な、なんだお前ら!」
「通りすがりのありがたい石像!死にたくなければつかまれー!」
マーリンのスキルと綱の宝具で群れの一方に穴が開く。
「逃げるんだよー!」
戦略的撤退である。
カリの群れからは見えなくなった。マスターも少年も無事みたいだ。
「皆無事ー?」
「無事だけどね。通信出来るかい?」
「・・・皆で頑張ろっか。」
「通じないんすね。」
石像化を第二臨にして辺りを見回す。おかしい、サーヴァントが自分以外に二人しかいない。
「マスター、アンデルセンとアスクレピオスがいない。最初からいなかった。弾かれたか、別の場所に飛ばされたかだ。魔力は辿れるか?」
「・・・二人ともこっちには来てるみたい。無事はわかるけどどこにいるかはわかんないや。」
「回復持ちではあるけど、決定力に欠けるからね。手掛かりがないなら、先に進むしかない。クルの王宮をまずは目指すんだろう。」
「お前ら、王宮に行くのか。」
助けた少年のことを忘れていた。その少年の顔は、既視感を覚えた。濃い肌、赤い髪、額の宝珠。まるで、
「・・・ちっちゃいヤンキーくん?」
「ヤンキー?」
アシュヴァッターマンそっくりだった。マスターと目配せする。上手くいけばカウラヴァ側、アルジュナ辺りの助力が乞えるかもしれない。
「俺を知ってるのか?」
声変わり前で、知らない声だったからわからなかっただけでこの時代のアシュヴァッターマンなのだろう。
「俺は藤丸立香。君のことを知ってるか、と言われると知ってる。君の名前アシュヴァッターマン、でしょ。嘘と思ってもいいけど、俺たち未来から来たんだ。そこに君もいる。」
嘘みたいなほんとの話。BBから話を持ちかけられた時も嘘かと思った。
「人理保証機関カルデア、過去を生きた英雄たちと未来を掴むために、戦っている。」
アシュヴァッターマンの目は見定めているようだった。
「お前らは、俺でない俺と友なのか?」
「友と思ってくれていれば嬉しいよ。そうでなくとも人理を取り戻す仲間なのは間違いない。」
「どうしてここに来た?未来を正すなら過去に来る必要はないだろう。」
「過去を変えれば未来も変わるのさ。ある程度は補正されるけど強い力でねじ曲げられると世界が終わってしまう。さっきの生き物、この時代にはそんなにいないなずなのに、溢れているのはあれが歪みだからさ。」
マーリンがマスターに代わり話す。
「俺以外にも、いるのか?」
「カルデアには将来ヤンキーくんが出会う人がたくさんいるっす。アルジュナさんとか、ドゥリーヨダナさんはもう会ったことあるんじゃないっすか?」
「アルジュナは知ってる。でもドゥリーヨダナは誰だ?」
思わずマスターと顔を合わせる。やっぱりドゥリーヨダナ亜種案件でしたか、という顔をしている。おそらく自分も同じ顔をしているだろう。
「五王子と百王子は知ってる?」
「ああ、知ってる。」
「カルナは?」
「・・・知ってる。」
アシュヴァッターマンの顔が僅かに歪む。カルナとはカルデアでドゥリーヨダナと一緒に仲良くしていたのだが、この特異点では違うのだろうか。
「百王子の長兄って誰?」
「スヨーダナ様か?」
ここか、スヨーダナはいてドゥリーヨダナがいない。これはヴァスシェーナパターン亜種かも知れない。
「アシュヴァッターマンはスヨーダナさんと仲良くないの?」
「話したことはない。カルナはこの中なら一番話すな。」
カルデアのアシュヴァッターマンはドゥリーヨダナの最後を看取ったせいで彼に関してのみ湿度が高い。スヨーダナ時代といえどスヨーダナがドゥリーヨダナである限りアシュヴァッターマンの脳が焼かれていないはずがない。
「さて、私たちは、この時代の歪みを解決するために来た。私はマーリン。人類のパッピーエンドを見届けるためカルデアに助力している。」
「渡辺綱。鬼を切るのは任せてくれ。」
「僕はガネーシャ神。性別が違うのは仕様っす。」
「・・・こいつ本当にガネーシャ神か?」
「うん、頼りになる、仲間だよ。君は、信じてくれる、かな?」
突拍子もない、信じる方が難しい話。それでもマスターが嘘をついていないのは、伝わってくれるといい。
「異郷の友を助けろと、師は言った。立香が俺の知らない俺の友だというなら、助けよう。」
真っ直ぐな眼はカルデアにいるアシュヴァッターマンと同じだった。
「改めて、礼を。私はアシュヴァッターマン。バラモンドローナの嫡子。王宮に行くなら案内はする。そのあとのことは保証できない。」
「出来れば王子様かカルナとか紹介してもらえると嬉しいな。」
「・・・あの化け物に襲撃されれば都市ならともかく小さい町はなくなってしまうし、戦力は欲しい。実力はさっき見たし、父さんが認めれば非公式な謁見はできるかもしれない。」
「助かる!ありがとう。」
「じゃあ石像モードで行くんで、マーリンさんと綱さんは霊体化お願いするっす。」
二人の姿が消える。気配は直ぐ側にちゃんとある。
「よーしでは首都を目指すぞ!」
「・・・これで行くのか?」
怪訝な顔をされると少し困る。
「歩くより早いよ。」
「・・・わかった。」
目指すはクル国の都。早く聖杯が見つかればいいな。
余談
カルデアのバー蜘蛛の巣では次のドゥリーヨダナクラスあてトトカルチョが起きる。