兄カルナルート 女神魔性転生 クルクシェートラ 3
「会議中、申し訳ありません。急ぎでお伝えしたいことがあり、無礼を承知で参りました。」
ドローナ師とともに、入ってきたのは服装からみたこともない者たちだった。混じり物、神性の気配もする。
「こちらも立て込んでいます。」
「この国を滅ぼしたくなければ。急がれる案件かと。」
ドローナ師がスヨーダナに目配せをする。
「話を聞こう。ユディシュティラ。ドローナは嘘は言わん。先程のこともある。」
本当に、ドローナしと仲が良くなったものだ。
「・・・いいでしょう。ドローナ、話なさい。」
「私の息子が町外れでカリの群れを見つけました。数が多く彼らに助けられました。カリ・ユガが始まろうとしています。」
「カリ・ユガ?早すぎる!ありえないぞ!」
まだ、その時ではない。何より私が生きている。法の半神がいるのにカリ・ユガが訪れることがおかしい。
「本来ではあり得ません。何者かが故意に滅びを引き起こしています。」
これはシャクニの件と同一の問題だ。終末、カリ・ユガ、何がそれを起こしているのか。
「カリ・ユガか、それで、その後ろのもの達は?」
年若い少年、きらびやかな術師、初めてみる剣を持つ男、ふくよかな女性。感じた神性は女性から感じるが、どの神なのかははっきりわからない。
「私たちは、人理保証機関カルデア、この世界の終末を防ぎに来ました。」
「貴方達は、なんですか?人、混じり物、神性よくわかりません。」
「俺は藤丸立香、人間です。彼は花の魔術師マーリン、彼は異国の剣士渡辺綱、彼女はガネーシャ神の化身、都合で女性となっています。彼らは歴史の影法師、汎人類史を守るため召喚に応じてくれた英霊です。カルデア、本拠地では他の英霊達もいます。あなた方もいます。」
「私の息子はパラシュラーマの元で修行をした帰りでした。息子にパラシュラーマはこういったそうです。異郷の友を助けろ、と。」
「貴方の息子もカルデアにいるのですね。」
ドローナは素晴らしいバラモンの戦士だ。その息子が英霊にならない訳はないか。異郷の友か、カルナをみる、無言で頷いた。この者は、嘘を言っていない。
「信じてもらえないかもしれませんが、」
「いいえ、信じましょう。貴方達は私たちのことを知っているのですか?」
「マハーバーラタという大叙事詩に纏められています。世界一長い叙事詩として有名です。」
「それは私たちの結末も知っているということですか?」
「・・・はい。」
世界一長くなるほどの物語、それはそれほどの難題が、私たちに立ち塞がると言うことだ。どんな問題があればそれほど長い物語になるか。
「今の私たちは貴方の観点からすると違う在り方なのですね。」
物語を長くすることは、簡単だ。不和を引き起こせばいい。私たちが、手を取り合うことは、奇跡だと思えたのは、本当に奇跡が起きたからなのだ。
「それは、話を聞いた限りでは、」
「違うのですね。カルデア、貴方達は今生きている私たちを否定するということですか。パーンダヴァとカウラヴァが手を取り合うことが間違っているとそう言いたいのですね。」
「いいえ、俺たちは否定しに来た訳では、」
「ええ、わかっていますとも。過去が変われば未来も壊れる。そういうことでしょう。」
八つ当たりだ。私としたことが、浮かれていたのだ。
「ですが、私はパーンダヴァとカウラヴァの未来を諦めたくないのです。どうして一族で争わなければならないのでしょう。」
これから不和が起きると、私の提案を否定してくるのだろうか。その可能性が見えていなかったのは、スヨーダナが邪悪には見えないからだ。策を巡らすことは得意だろう。御前試合でよくわかった。そんな子が、百王子にすぐ戻っていれば立場を利用して陰湿に私たちを害せた。使用人として密やかに私たちを追いたてることも出来た。やろうと思うならやり易い時に殺せばいいのに、殺さなかった。だからこのスヨーダナは違うと、私は信じると決めた。
「俺たちは、」
「わかっています。偉大なるバラモンパラシュラーマの言葉もあります。シヴァの息子、ガネーシャ神もおられる。ダルマの半神として、私たちも力を貸しましょう。」
私は諦めない。この私は、これでいい。
「これではっきりしました。私たちの敵はガンダーラ国の王シャクニ。ガーンダーリー王妃の弟、百王子の叔父です。」
私たちの今はここにあるのだから。
カルデアと情報を交換した。わかったことはカリ・ユガを起こそうとするものがいること。かつて別の世界線でユガを回し続け正しいもののみの世界を作ろうとした神統治者がいたこともあったそうだ。ある種の神の介入もあり得る。シャクニに力を与えているものは、何者かわからない。神だとして、カリ・ユガを起こし今終末に至ることに目的があるのか。
「本来はドリタラーシュトラ王に伺いをかけるのですが、今は王妃、王女とともにシャクニに囚われています。私たちは王を奪還しなければなりません。」
シャクニはパーンダヴァの長兄を指名した。私が行かなくては始まらない。
「もしかして、賭けとか、しましたか?」
「一方的でしたが、そのようなことを言っていましたね。」
どうしてそんなに嫌そうな顔をするのでしょうか。
「私事ながら賭け事には自信があるのです。相手はパーンダヴァ長兄を指定している。私が出ます。貴方達は問題を解決したい。私は王を、そして私の友を取り返したいと思っています。」
王も王妃も百王子の姫も、ドゥリーヨダナも、王宮に来て初めて出来た友をこのままにしておけない。
「ここに私がいなくても、私の兄がいますので問題はありません。知識なら双子が、戦略ならビーマ、アルジュナが、支えとしてスヨーダナがいます。」
私は、私が成せることを成す。ここには私がいなくとも大丈夫だとも。
「待て、ユディシュティラ、お前は行くな。」
スヨーダナ、何をそんなに不安な顔をしているのです。貴方はカルナと共に都を守らなくてはならない。貴方とカルナはカウラヴァとパーンダヴァを繋ぐことになるのですから。
「俺は、カルナの処遇に同意する。俺についても任せる。それ以外についても好きなようにしてくれて構わん。お前が望むように我らは手を取り合おう。カウラヴァとパーンダヴァで一つの国を治めると誓う。」
ああ、貴方も私と同じように、この関係が続けばいいと思ってくれていた。それはとても嬉しい。
「ユディシュティラ、正しき王となるものよ。正しきお前はこの国の時期王だ。俺はお前の手の届かぬ者の助けとなろう。そして我らで国を守ろう。そのためにお前はシャクニの策に乗るな。」
「あの、ユディシュティラさんは、賭け事をしない方がいいと思います。」
カルデアの面々の表情は全て同じだった。
「・・・もしかして、叙事詩の私は、」
「未来に関わるので、詳しくは言えませんが、家族に迷惑は、かけます。」
「賭け狂いが賭けに弱いとは理解できん。法の神が聞いて呆れる。必要のないことをするな。」
私は、賭け事が得意だと思っていたのだけど、弟たちが言いようもない顔をしているのは、そういうことなのか。
「兄貴、賭け事は、辞めてくれ。」
ビーマの顔は今まで見たことのないくらいしわしわだった。そんなに駄目なのか私は。
「ですが私はパーンドゥの長男、行くしかないでしょう。」
「シャクニはパーンダヴァ長兄を指定した。ユディシュティラを指名していない。パーンダヴァ六王子の長兄としてカルナが行くことに問題はない。実力も申し分ない。お前が認めただろう。」
「ああ、俺としては問題ない。」
「相手はシャクニ、俺の叔父だ。俺が出ることも妥当だ。クル国の王族を誘拐し戦争を起こそうとしているのであれば身内の恥は自分で雪ぐ。」
強い、決意の目だ。これは、変えられない。
「全員で仕掛けるのは、駄目だ。必ず手薄な方を叩く手段を用意しているだろう。カリの大群とかな。シャクニの方はユディシュティラが無事ならなんとかなる。」
「貴方がそこまでする必要はないでしょう。それなら都を守っていただけるだけでいい。」
スヨーダナは顔を横に振る。
「シャクニは、俺に来いと言った。初めて会ったが、あれは狂っている。狂っているがゆえに、求めているものは分かりやすい。俺とカルナで特効する。お前の友も含めて奪還すると約束する。」
「俺も出るぞ。」
「私も、」
「アルジュナは残れ。カリは大群なんだろう。俺よりも弓の方が殲滅にいい。」
「百王子からは俺とヴィカルナが出る。」
「お前たちの力は不要だ。人のか弱き力では太刀打ちできん。力なき者は来るな。」
「いいえ、ビーマ、ドゥフシャーサナ、ヴィカルナお願いします。」
信用できない訳ではない。二人は逃げもしないだろう。逃げもせず最後まで戦うだろう。それこそ、死ぬまで。
「・・・私の息子も連れていってください。パラシュラーマ師は同郷の敵を打て、とも。息子は必ずスヨーダナ様の役に立つでしょう。」
「それは、っ駄目だ!ドローナ!」
「息子の意思です。スヨーダナ王子。ご自身の蒔いた種です。諦めください。」
「アシュヴァッターマンは、まだ幼いだろう!お前の息子を死地に行かせる気か!」
ああ、やっぱり、貴方は死ぬつもりなのでしょう。それは私の望むところではないので、楔は多い方がいい。
「許可します。」
「ユディシュティラ!」
「そうでなければ貴方の出陣は許可できません。」
私が行かないのですから、納得してください。
「正直、戦力は多い方がありがたいです。」
「カルデア、貴方達のためではありませんが、家族のため力を貸します。戦車は私のものを使ってください。ビーマの分もあれば移動に問題ないでしょう。」
私たちが本当の意味でわかりあえるために。
「カルナ、スヨーダナ、お願いです。二人とも、無事で戻ってきてください。」
それだけを願っている。
おまけ
BSO(僕の方が先に弟だったのに)発覚編
「アシュヴァッターマン!」
「大きくなったな。息災か?」
「ああ!そうだ!頑張ったぞ!」
「偉いぞ!お前はすごい!!色々聞かせ、」
「離れろ、バラモンの子。」
「身をわきまえろ。百王子の長兄ぞ?」
「あっ、」
「よい、兄が許しておる。控えよ。」
「いや、離れろ。」
「兄様!」
「兄上~。」
「「はぁ?俺の兄(上)だが!」」
「俺の方が先に弟になった!」
「「生まれたときから俺の兄(上)だが!」」
「俺が兄だ。」
「アシュヴァッターマン、修行はどうであった?」
「ああ、いっぱい教えてもらった!」
「宥めるの諦めたっすね。」
「アシュヴァッターマンの脳焼は必須だったのだ。」
「マスター、和んでる場合じゃないっす。話進まないっす。」
「戦車の準備ができた。」
「いいタイミングっす!」
「カルナは兄貴の戦車を頼む。カルデアもそっちに。俺の方は百王子を乗せる。」
「俺の弟は俺が乗せる。」
「こっちだ、こい。トンチキ王子ども!連れてこい!」
「俺はカルナの方に乗るが?」
「マーリン、ビーマの方に乗ってくれる?」
「そうしよう。」
ユディシュティラ:賭け事についてはイカサマされなくても負ける。後ろにアルジュナいても負ける。勝手に色んなことを考えて勝手に勘違いして勝手に自己完結するので勘違いが止まらない秩序・善属性。
アシュヴァッターマン:お前が行くと話がややこしくなるので部屋に入らず待っていなさいと言われた。話は聞こえているが、早く兄に会いたくて仕方ない。BSOは必然だったのだ。
余談
カルナ語
賭け狂いが賭けに弱いとは理解できん。法の神が聞いて呆れる。必要のないことをするな。
→あなたは賭け事に弱いのですね。下手の横好きではありますが、やり過ぎると兄弟に迷惑がかかります。私は弟が大事なのでギャンブルはしないのでわからないのですが、兄弟を思うなら不必要なギャンブルはしない方がいいと思いますよ。貴方はダルマの半神なのですから。
お前たちの力は不要だ。人のか弱き力では太刀打ちできん。力なき者は来るな。
→百王子の力は人の範疇を出ません。ビーマの力も私よりも劣っています。戦いでは庇うことが出来ないので来ないで大丈夫です。