兄の元へ行くラミちゃん

兄の元へ行くラミちゃん



  痛い。13年もの間、おもちゃとして過ごして痛みと無縁だった身体が悲鳴を上げている。

 燃える故郷を飛び出し、治療を受けないまま悪魔の実の力で時間を止められていたわたしの身体は、病気のせいか手足は細く、体力もない。

 ふらつき、時折息を整えながら、とにかく上を目指す。


 ーー兄の悲鳴を聞いて、もう大分時間が過ぎている。

 逸る気持ちとは裏腹に、ちっとも思い通りに動かない身体に苛立ちさえ感じてしまう。……だけど、痩せっぽちで至るところに白い斑点のある手足はあたたかい。人間に戻れて、お兄さまからもわたしのことを思い出してもらえた。後はお兄さまがあの糸男を倒して、全てを終わらせてゾウに向って、ベポちゃんやシャチさん、ペンギンさん達に会いに行くんだ。ハートの海賊団の皆はきっとわたしが人間で、お兄さまの妹だと知ってびっくりするんだろうな。早く会いたいな……。

 そんな明るい未来を心の支えに、視界に入る倒れ伏した王宮の兵士達に、ちらつく嫌なフラッシュバックを振り払いながら、前へ、上へと進み続ける。


「あっ……!」

 そんなことをしていたからだろうか。脚がもつれて、わたしは地面に盛大に倒れ伏した。

 その衝撃と、地に飛び散った瓦礫の破片がただでさえ痛い身体にダメージを与えて、悶えることすらできない激痛に耐える。

 立ち上がりたいのに立ち上がれない。痛い、早く行かなきゃ。でも、痛い。


 ……だけど、お兄さまはもっと痛かった! もっと悲しかった!!


 わたしは見ていた。死にゆくコラさんを背に進まなければならなかったお兄さまの姿を。

 わたしは聞いていた。コラさんの魔法が解けて、砲撃に紛れたお兄さまの悲痛な声を。

 わたしは覚えている。単身パンクハザードに乗り込んだお兄さまの荷物の中に紛れ込んだわたしを見て、困ったような、でも少し安心したように優しく微笑んだお兄さまの顔を。

 わたしは知っている。お兄さまの13年間の決意を。お兄さまはきっと、コラさんの悲願を成すために自分と命をかけている。わたし達を巻き込まないように。


「こんな……ものっ……!!」

 お兄さまの苦しみに比べればなんてことはないんだ!


 限界を訴える腕に力を込めて、立ち上がる。お兄さまのいる頂上はもう直ぐだ。そのまま進もうとしてーー振り返った。

 少し離れたところで倒れる兵士の腰に下がる、一丁の銃。少し逡巡して、わたしはそれを手にした。これはとても恐ろしい武器。扱いだってよく分からない。でも、ただの病人の身で戦場に飛び込んで、わたしはあの糸男に敵うの? だけど、行かなくちゃならない。

 近くで激しい戦闘の音が聞こえる中、腰に銃を引っ掛けて、わたしはまた歩き出した。

 それは人の、皆の、コラさんの命を奪った恐ろしい武器だというのに、その重さは一抹の心強さも感じさせるのだった。



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