僕らのなかま
「…!おやおや、まさか麦わらの一味の皆さんに来ていただけるとは実に光栄だ!まずは歓迎のショーを思う存分楽しんでくれ!」
「あ、あのーーー!!わ、私もそこのステージに立ってみてもいいですかーー!!?」
「ほほぅ、飛び入り参加をご所望かな?勿論いいとも!ショーにとって、観客と共に盛り上げるライブ感はとても重要だ!さぁ、この黄金のステージに乗って共にこのショーを盛り上げよう、若きエンターテイナーのお嬢さん!」
その時、
「ーーー!ムー!!」
突然ムジカが船から飛び出し、テゾーロめがけて飛びついた。咄嗟に手を出したテゾーロの腕の中に収まりキャッキャッとはしゃぐムジカくんに流石のウタも顔が真っ青である。
「うえっ?!ちょ、ムジカ?!急にどうしたのって、勝手に行っちゃダメでしょ!!!!
お、おじ様、急にすみません!!」
「はは、少々驚いたが構わないよ。動くオモチャとは、これまた珍しいものをお持ちだね。」
(ーーー、動く人形。
なるほど、アイツのところの。
……嫌、それはこの麦わらの一味によって消えたはず。ならば別の能力の?
……今考えても仕方ないな。)
「おっと、話が脱線してしまったね。それでは早速ステージで私とセッションして頂けるかな?」
「は、はい!!!
やったよルフィ!!!私、人間に戻れて初めてのステージで、船長さんとセッションできるなんてぇ!!!!」
「にししっ!やったじゃねぇかウタ!
おっさんとステージ、楽しんでこい!」
「うん!」
一夜限りの海賊のステージ。
ウタにとっては初めての曲だが、合いの手を入れたりダンスのシーンではテゾーロにリードして貰いながら目一杯この曲を楽しんでいた。
「ほ、本当に夢見たい……っ!!
あ、あの、ステージに立たせて頂いてありがとうございます!!」
「いえいえ!君こそ、初めてとは思えない素晴らしい動きだったよ。合いの手での短いシーンではあったが、君の歌声は心惹かれ、魅了する力があると判断するには充分だった。」
「本当ですかっ?!やったー!!嬉しい!!
おじ様も、とっても素敵な歌声でした!キラキラしてて、声にブレない芯と張りのあるまさしくショーマンの歌声でした!」
「はっはっはっ!若い子にそこまで褒められると、少し面映ゆいね。ありがとう。」
「あ、でもね!!
おじ様って、優しい歌の方がきっと似合うと思うんだ、私!」
「ーーーーーーー、それは、どうも。」
テゾーロの肩の上で大人しくしていたムジカが、その黒いボタンでてきた瞳でテゾーロの横顔を見つめていた。
「それでは会場の皆さんも盛り上がってきた所で、メインボーカルをお呼びしましょう!
我らが歌姫、カリーナ!!!!!」
テゾーロとウタの立っているステージの後ろ、階段状になったメインステージの奥から、煌びやかに悠然と降りてきたのはこの船の歌姫、カリーナその人だ。
「ちょ、見て見てルフィ!!!!!
あ、あれ本物の歌姫カリーナさんだよぉ?!!
すごぉーーーーい!!!」
「……おや、お嬢さんはうちのカリーナのファンかな?もしよかったら彼女とも一緒にデュエットでもいかがかな?
カリーナ!!!」
「はぁ〜い!」
テゾーロの操る黄金がみるみると形を変えていき、カリーナの足元からウタの目の前までに黄金で出来た道が出来上がった。
そこに飛び乗ったカリーナはそのまま滑り降りながらウタの目の前に。
「さぁ、お手をどうぞ可愛らしいお嬢さん?」
「えっ?!かかかかか、カリーナさんと、でゅ、でゅ、デュエットしてもいいの?!?!」
「勿論!こちらこそ喜んで!お客様もきっと楽しんでくれるわ!」
カリーナの差し出した手に、ウタの震える手が伸びたその時、ナミの声が響いた。
「こら、ウタ!!!!気持ちは分かるけどショーはここまで!私たち資金集めに来たのよ!
そ・れ・よ・り!早く素敵なカジノに連れて行ってくれないかしら!!!」
「おやおや、どうやらカジノ目当てのようだ。なら仕方ない、ショーはまた次の機会にお楽しみ頂こう。
……それでは、麦わらの一味の皆さんに案内役を付けましょう。バカラ、案内してあげなさい。」
「はい、かしこまりましたテゾーロ様。
さぁ皆さん!ここからは私がカジノへご案内致します!どうぞこちらへ。」
「え?えええぇ?!?!?!ちょ、ままままって、せっかくのカリーナさんとのデュエットがぁーーー!!!!!」
「おら、文句言ってねぇでさっさと行くぞ"歌姫"。
……っとと、おいムジカ!お前も行くぞ!」
「ムー!」
「…なんか首横に振ってっけどどうするよ?」
「んー本人がいいって言うならいいんじゃない?
それよりカジノカジノ〜♡」
「カリーナさぁぁぁぁん!!!!!」
「……。」
テゾーロのサングラスには、ゾロによって小脇に抱えられ運ばれる涙目のウタの姿が写っていた。
「ムー!」
「…お前は着いて行かなくていいのか?」
「ムームー!」
(まさかスパイでもする気か?電伝虫の類は持っていないようだが...まぁ警戒しておくか。)
「まぁいいだろう、着いてこい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルフィの攻撃を立て続けに受け、既に立ち上がる事も出来ない程テゾーロの体は限界を告げていた。
その時ムジカが突然テゾーロの傍に駆け寄る。
この状況において、今更自分に何をするというのか、とテゾーロも警戒半分、疑問半分であった。
「…なんの、ようだ、オモチャ…。」
膝をつき満身創痍のテゾーロの頭に向かって手を伸ばし、少しだけ頭を下げさせると、テゾーロの額に自分の頭をコツンと当てた。
その瞬間、テゾーロの脳内に声が響いた。
『なんでお前だけ評価されるんだぁ!』『うるさぁい!!!!』『あぁいいなぁぼくもあんなふうにうたいたいなぁ』『貴方は私達の救世主なんだ!!!』『君も私の歌を馬鹿にするの?』『私は、どうして歌えないの…?』『いつもいつも僕の歌は無視される……っ!!!』『ああああああああぁぁぁ!!!!』『パパ、あのおうたうたってー!』『あぁ、なぜ儂を置いて逝ってしまったんじゃ…』『お父さぁぁん!!!!いかないでェ!!!』『つまんない歌ね』『なんで誰も私の事を覚えてないのっ?!』『無駄な努力はやめろ』『お、おれ子守唄とか歌えねぇよ?!』『アンタの大ファンなんだ!』『お前のせいだ!!』『お前の歌は世界を平和にする』『こんな時に歌なんて歌わないで!!』『別に好きで歌ってるわけじゃないし』『お前は音楽の天才だっ!!』『私、大きくなったら母さんの跡を継いで歌手になるの!!』『いたいいたいたいくるしいたすけておねがいしますごめんなさい』『一生歌を歌えないままなのかもしれない』『神童と呼ばれるのはガキの時だけだ』『うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!!!!!』『俺はこの歌嫌いでしたよ、先生。死んでいく海兵を称える歌なんて、ゾッとしない』『なんでアンタばっかり!!!』『あー、僕にも才能があったらなぁ』『いい加減にしろっ!!!お前にばかり構ってられないんだよ!!』『馬鹿じゃないの?』『あはははははははははは!!!!!』『ま、魔王の歌だァ!!』『その、耳障りな歌はやめてぇ!!!』
「ーーーっ?!なんだ、これはァ...っ!!」
脳内に溢れ出す黒、黒、黒。
子供、青年、女性、老人、ありとあらゆる声が幾つも重なり、脳を直接揺さぶられている様な、思考が全て暗い『それ』に塗りつぶされそうになる感覚。
「あぁぁ、あ"ああ"あ"あ"あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ハァ、…...っぐ、はぁっ!!!」
(何なんだこれは?!実の能力による精神攻撃の類か?!くそっ、このままでは麦わらの攻撃に対応出来んぞ...っ!!!)
吹き出る汗を拭う事も出来ず、息を乱しながらこの状況を作り出した元凶を掴もうと手を伸ばした。
その時だった。
『ーーーー素敵な歌ね。』
知っている、音が、響いた。
「ーーーーーーすて、ら?」
ムジカが伸ばされた手を掴み、ぽんぽんと手の甲を叩いた。テゾーロはその行為を「落ち着いて」と捉えた。
困惑しながらも、テゾーロはムジカと触れている額に意識を集中させるため瞼を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『……今日はまだ来ないのね。早く来ないかなぁ…。』
『……〜♪
あ、あら?違ったかしら?彼の時はもっとこう、軽やかな感じで…。
〜〜♬〜♪』
『…むぅ、中々彼みたいには歌えない。
ふふっ、後で教えてもらおうかしら。』
『……不思議ね。こんな地獄のような所でも、目を閉じるとテゾーロの歌が聞こえる。』
『彼は、大丈夫かしら。私と違う所に連れて行かれてしまったけれど。』
『……テゾーロ、テゾーロ。どうか、どうか無事で…。』
『〜〜♪
この歌が、貴方のもとに届きますように。』
『私は、彼が居てくれて、心から幸せだった。』
『…だけど、もし。もし最期に願うものがあるとするなら。』
『貴方の歌を、もう一度聞きたかったな…。』
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「ムー。」
「お、前…今のは、ステラの声、だった…。
なぜ、お前がステラの、最期を......。」
「……。」