健全調教、後に

健全調教、後に


「身体より心なんだよ、分からない?違うと思う?証明してよ」そんな風に挑発をした時のちょっとムッとしたルフィの顔を見てさてさてどうなるかなと思っていた私だったが…


「ウタ!ん!!」

「また?まあいいけど…」


アレからルフィは特に大きな変化を作ってはいない。ただ事あるごとに…いや寧ろ何も無くてもよく私とハグをしようとする。別に嫌では無いし…寧ろちょっと嬉しいとは思うけど、なんだか肩透かしでも喰らった気分だった。


「ほらウタ、ここ!!」

「え、膝の上?座れってこと?」


しかしまあ少しずつだが、ルフィのハグの頻度と要求の高さは高くなってきた。ちょっと座って話す時でもルフィの膝の上に抱えられるし、そのまま物を食べさせられたりもした。なんならこの前なんて自室に来て一晩中抱き枕にされたりしたのだ。

流石にちょっと恥ずかしい……でも何度も何度もそういう事をされると少しずつルフィの体温とか、身体つきとかが…馴染むというとおかしな言い方だが彼の体にある傷痕や、ゴム特有の柔らかさを持った彼の腕に包まれていると安心するのだ。

こう…あるべき形になっているような、パズルのピースがはまっている様な感覚に近いだろう。


「…ん……」

「?眠いのか?」

「んー…ぅん…」

「寝ちまえ寝ちまえ、寝てる間もずっとこうしてやるから」


いつの間にか彼と抱き合っていると彼の子供体温が温かったり、安心し過ぎたりしてつい眠くなってしまう程だったが、当のルフィもそういって甘やかしてくるので、そうして夜は眠る日も増えた頃だった。


ピタリ、とルフィは私へのハグをやめた。なんなら接触もほぼほぼ最低限になった。


毎日していた事が無くなったのは、そりゃ落ち着かなくなるというもので、念の為ルフィに何かあったか確認した。すると


「別に何もないぞ!!…もしかして、寂しかったりするか?」


と、言われてしまい思わず「違う」と答えてしまった過去の私を呼び出して教えてあげたい…


「…寒い」


貴方いま、一人で寝れなくなってるよ…と


少し前まで狭かったベッドが広く感じて物悲しい。

苦し紛れに懐かしいクマのぬいぐるみで代用してみたが、長く抱きしめて漸く自分の体温が移るだけ…当たり前だが抱きしめ返してはくれない。話しかけても太陽みたいな笑みは返ってこない。

長袖を着てみても…何か違う。この寒さはそういうものじゃない。

朝も昼も落ち着かない…自分の身体の何処かでも大きく欠けてる気分になる。


虚しくて、さみしい…もの凄く……

気を紛らわせようと歌を歌ってみても楽しくない……ウタワールドで色々してみてもなにか違う。


悲しい…眠れない……


「ル……」

「ん?どうした?」

「……なんでもない!ごめんね!」

「………」


全然なんでもなくない。

寂しい、辛い…泣きそう……また抱きしめてほしい……

でもダメだ。私が先に言ったから「身体より心」って言っちゃったから……

口から訂正の言葉を言えば、「違ってた」って言えばいいのに……でも、それを言っちゃうと、私は

わ、たし…は……あれ?


「ウタ!!」


なん、で……ゆか………ち、か…く…



なんだか酷く懐かしく感じる温もりの中で目が覚めた。記憶の糸を辿れば自分が倒れたのだとはすぐに思い出せた。理由も寝不足からなのは分かっている。

皆に心配をかけてしまったな…そう思いながら何度か瞬きを繰り返し、ボヤけた焦点を合わせていくと…目の前に彼がいた。


「…ぅ……るふぃ?」

「!ウタ、起きたか……」


此処は何処だろうと少し辺りを見渡せば自室のベッドだった様で…そして自分はそのベッドの上の、ルフィの腕の中にいるらしい事に気付いて驚いた。


「あ、え…?ルフィ…なんで…」

「ごめんな」

「??」


起きていきなり謝られても分からない…何がごめんなのだろう?寧ろ、倒れた自分の方が謝るべきじゃないだろうかと思っていると…


「おれ、ウタにちゃんと心だけじゃなくて身体も大事にして欲しくてよ…でもこれじゃ本末転倒だったな……」

「………」

「ウタが人に甘えんのが下手くそなのも、一度言った事に滅茶苦茶責任持っちまうヤツなのも分かってたんだけどよ……」


ごめんなァ…と本当に申し訳なさそうに頭を撫でてくる。その手も、背中に回る腕もあったかい……ずっと、ずっと無くて悲しかったあたたかさだ。

思わず、自分の方からもぎゅうぎゅうと抱きつく。ルフィがゴムじゃなかったら苦しいかもというくらい。痛いかも、というくらい、グリグリと擦り寄る。

まだ、まだ足りない…もっと……と、ルフィの脚に自分のを絡ませて。

彼にそのまま埋まってしまうくらいにぴったりとくっつく。

…そうしてようやく今まで不足していた分を少し補えた気がすると


「…っ、く…ひぐっ…ぐすっ……」

「ウ、ウタ…!?え、泣い…!?」


決壊した。

張り詰めた糸がプツッと切れた様になって涙と、安堵が止まらない。


「だって…だっでェ……寂しいとッ…!ご飯美味しぐないしッ…!」

「おう…」

「広いお城に゛住んでても…っ…歌が上手くなっでも゛…誰も聞いでくれないならッ楽しくない゛…!!楽しぐ、なかっだんだもん゛っ…!!」

「そうだよなァ…」


ルフィは別に鈍感ではない。多少ではあるが察してはいた。衣食住、最高レベルの音楽の教育。それらが揃っててもウタにとっては満たされる事がない長く寂しい年月は「身体より心」という価値観を深める理由の一つになっていただろう。

それを取り消すのは…10年以上のあの時間の否定になってしまうかもしれない。

それは、「海賊嫌い」を公言した時の後悔や恐怖と似ているのだろう。


「でも、こうしてぎゅうってすると嬉しいよな」

「…ん」

「心がどうでも良いなんて言わねェ。でも身体も大事にしよう…な?ウタが倒れるとおれ悲しいからよ」

「……うん」

「シシシ、分かって貰えてよかった!!」


そうしてルフィはその後ずっと離さないでいてくれた。前みたいに、膝に抱えてご飯を食べたり眠る時もぎゅーっと抱きしめてくれた。

大好きな体温、大好きな腕の中…話しかけたら答えてくれる。お日様みたいな笑顔を向けてくれる。

嬉しい、嬉しいって気持ちになってつい私も抱きつく力を強くしたり擦り寄ったり…今までを取り戻すみたいにずーっと抱きついてた。安心感と幸せでふわふわして擽ったくて口元が緩みっぱなしだけど…離したくない。

もう少し…

もうちょっと…

○日間我慢したんだから…


「…そうして完成しちゃったのがそのウタウタのひっつき虫ってわけね」

「ウ、ウタは……虫じゃねえ…」


ナミと何か話しているルフィの膝の中で首元に鼻筋を擦り付けながら私は甘えてる。


「ルフィ…ルフィ…?」

「あ、あー悪い悪い、ほらよ」

「…えへへ」


思い出した様に抱きしめてくれるルフィの腕が嬉しくて子供みたいな笑い方を隠せないけど…やっぱりふわふわする位幸せで我慢出来ない。


「我慢させられてた期間分の反動が来ちゃってるわけだから、もう暫くはそのままでしょうねェ…コレは」

「はい……」

「しかも離れようとすると泣きそうになりながら「や」の一言……それで甘やかしちゃうのはちょっと心配ではあるんだけど」

「はい……」

「ま、最近は平和だから私は別にいいわ…ただ、サンジ君が炭になりそうだからそこだけは気を遣いなさいよ」

「はい……」

「いやァ、にしても…フニャフニャになっちゃってまあ……あんまり会話も聞こえてなさそうね」


ルフィ、ルフィ…あったかいなァ、ぎゅーってされるの好き…ふわふわする…うれしくて、安心する…ルフィ、ぬくい…すき…さみしくない…おちつく……


「……んん…」

「!ウタ、眠いか?」

「んー…」

「そっか。えと、わりィなナミ!」

「はいはい、早くいきなさい…」


ルフィが私を抱えて歩く。丁寧に運んでくれてる中の揺れが、心地よくてもっと眠くなる。もっとくっついていたくなる。


「ルフィー…んー…」


でもこれ以上が分からないから、グリグリと肩口に顔を押し付けるくらいしか浮かばない。ちょっと口が当たってしまっているけど、歯が当たるなんて事が万一にもない様にはしている。

コレはコレで好き。ルフィが痛がったらすぐにやめるけど…


「…なあウタ」

「ふぇ?」


もっともっとルフィとくっついて、いっそ溶けあう位でいられる方法があれば良いのに…なんてふやけた思考で考えていた私は知らない


「もっとくっついていられる方法があるぞって言ったら……するか?」


無意識に随分と幼馴染を煽ってしまっていたらしい自分に、ルフィが提案した事の詳細なんか…分かりもしない

だからそんな素敵な方法があるんだと素直に喜んで「うん」と頷いて…

その後【そういう行為】への知識も乏しい事を知ったルフィが、どれ程その場で我慢して、チョッパー君やロビンさんに教えを乞うたのかも…

世界一安心する場所にいる自覚がある私には、まだまだ知るのは後の話だったりするのだ。

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