俺の解釈SS
告白と末路魚人崇拝の島!そこはシャボンディの影に隠れてひっそりと存在する秘境!
現代に適応しながらも土着の宗教を捨てなかった住民たちは、異形にして強者である魚人族を讃えている。
職業安定所もといヒューマンショップが乱立し、人を人とも思わぬ金満家がオークションを開くシャボンディ諸島。その近辺にありながら、この島にそういった思想は小さな波さえも来ていないらしかった。
あなたがこの島を選んだのは偶然だ。愛する人を見つけてパニックになったあなたは、わけもわからず彼を引っ掴んでコーティング船の舳先を地上へ向けた。
深海から浮かびあがるあいだは手の中にいる小さな温もりに神経が向いていた。水面を超えてからはただ地上へとそればかりを考えていたせいで、あなた自身にもここがどこかは分からない。
シャボンディの近辺だと思ったのは浮上してからすぐに島に着いたからだった。
「そ、空だ…太陽がある…そんなバギャな…」
デッケンが呆然と空を見あげている。空に太陽くらいあって普通だろ今は昼なんだから、とは言わなかった。くらい海の底に暮らす彼にしてみれば本物の空も太陽も滅多とて見ないものなのだろうから、驚いて当然。
彼にとっての空の色はあなたが海に潜って初めて見た水面の色だ。特別感はひとしおだろう。パニクってクソやらかしたけど好きな人にトクベツな景色を見せられたからよかったのかも。あなたは少々安堵する。
名前を呼ぶ。デッケンが肩を跳ねさせてこちらを振り返り、慌てて距離を取ろうとした。けれど彼は海辺に立っている。一歩でも下がれば片足が波に洗われるだろう。能力者が進んで海に入る道理はないはずだ。
バンダー・デッケン九世という人物はあなたにとって既知の存在。先祖の伝承から今代の不審行動まで、彼を愛したときからあなたはデッケンの情報の把握に努めている。
しかしながらデッケンにとってあなたは全くの未知。種族さえ分からないかもしれない。怯えて然るべきだ。
あなたは落ち着いた口調で名を名乗り、素性を明かした。巨人族の一般人。危害を加えるつもりはない。
あなたには実のところ犯罪歴があるけれど、そんなものは言わなければないのと同じだ。そもそもバレずに訴訟も逮捕もされていない犯罪など起こっていないも同然。あなたは一般人である、ということを殊更に強調する。
「…その“一般人”がどうしておれを拐ったのか聞きてェもんだぜ」
いかにも信用していない口ぶり。あなたは何も嘘をついていない。しかし出会ったばかりの人間(正確には巨人である)を信じろと言うのも無理があるように思われた。
彼は海賊、争いに身を置き生きている。人を信じた奴から馬鹿を見て死んでゆく世界の住人なのだ。
そもそも自分を拐った男の言葉をやすやすと信じるほうがおかしいだとか、自分よりずっと背が高く力の強い男はそれだけで人の恐怖心を煽るのだとか、そういった当たり前のことはあなたの頭からすっぽり抜けていた。
うっかりデッケンを拐ってしまったことからもわかる通り、あなたは少々ドジっ子だ。
だが“どうして”と聞かれれば大人しく答えよう。
あなたはたっぷりと躊躇い、数度ほど深呼吸をしたのちに「告白のためだ」とどもりながら言った。
デッケンは猫のような瞳を丸くした。
「こ、告白ゥ!? それはッ…どういう意味だ!?」
いや、その、あの…ええと…そ、あっ、あの…
あなたは空と海と地面とを交互に見た。
デッケンもひどい男だ。わざわざ聞くなんて。本当は何が言いたいか分かっているだろうに。
喉に言葉が張りついている。剥がそうと必死になって呼吸を通す。肺の中身を入れ替えて、あなたはデッケンを見つめて視線を逸らした。燃えているように顔が熱かった。
人魚姫よりおれを選んでくれませんか。
1000センチオーバーの巨体から発せられたと思えないほどのかぼそい声に、デッケンは「おれにはしらほしがいるんだぞ」と即座に返した。
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あなたにとって魚人とは動いて喋るたべものだった。
魚だとは思っていない。食べられて然るべき下等種族とも思わないし、彼らのことは人類という括りにおいて同胞であるとも思っている。
しかしながら魚人族は美味しい。
人魚よりも魚人の方が味が濃く、身が引き締まってあなた好みの味がする。どこか魚の味がする気もするが、魚人族の内臓は苦みがないどころかあなたには少々甘く感ぜられる。
あなたが起こした失踪事件、実に53。犯人不明の失踪事件は主に拐われて売り飛ばされたものとみられている。
悲しいかな大海賊時代において魚人族とは“人のふりをする魚”か“奴隷”と認識されることが多いのだ。そういった被害に遭うことも少なくない。
でも、あなたにとってバンダー・デッケンという男は特別だった。
ただのたべものじゃない。体を開いて肉や内臓を剥いで終わりにしたくない。その先が欲しい。表情のくるくる変わる様子を見ていたい。小さな手や足が元気よく動き回るのを眺めていたい。声は…どうだろう。あなたは彼がしらほしを呼ぶのをあまり許せていない。
69年も生きておきながら、成長の遅い巨人族でも大人とされる年齢であなたは初めて恋をした。あなたにとっては最初の恋。
そしてそれがあなたの選択を否定する。
目の前にはくったりと脱力したデッケンが転がっている。あたたかさは次第に抜ける。空を見あげる瞳はどんどん乾く。肉が固くなる。
今のうちに血を抜いておけば良い塩梅になるのでは。3年も狙い続けた獲物だ。ちゃんと心臓を、肌を裂いて肋骨を──
──そんなことをできるものか。3年も狙い続けた獲物を簡単にたべておしまいにできるものか。
あなたが欲しかったものはデッケンの胸の中で眠ってしまった。動いているときはその小鳥のような脈動や重さ、合わせるワインばかりを考えていたのに、止まってしまえば妙な焦りがあった。
あなたは小さな身体を抱きあげようとして、さっきのデッケンの顔を思い出して手を止めた。
砂浜に目線を走らせる。そこには何も見えない。太陽の光を反射するものはシーグラスだけだ。あなたが先ほど渡した指輪は暴投によってどこかへ消えてしまった。
趣味じゃねェんだよ!! バギャ野郎!!
胸に走る痛みを深呼吸でごまかす。あなたはもはやデッケンの恋心を許せなかった。
3年も経ってやつれたデッケンを持ちあげる。両手で持ってしまえる。
あなたは自分の左胸にデッケンを抱きしめた。まるでまだ鼓動が続いているように思えた。
海が広がる。ここはイーストブルー、最弱にしてもっとも穏やかな海。ここならデッケンも許してくれるだろう。
彼はしらほしとの距離が離れてしまったことに怒るかもしれないが、今後の眠りの中でゆっくりこちらを向いてもらえばいいのだ。
あなたはデッケンを決して離さぬように力を込めた。息を深く深く吐いて青い海へ身を投げる。水飛沫が舞う。
見あげた水面はゆらゆらと揺れた。