例えこの手が届かなくても
現パロで……なんか援交とか悪いことしてたローをスモーカーが補導して、身寄りが無いとかで何やかんや面倒見ることになって……最初は険悪だったけど、月日を経るごとに少しずつ打ち解けるようになっていって。でもスモーカーは、ローが何かを隠してるというか、素顔?を見せてないことにずっと気付いてて。
そんなある日、スモーカーが仕事の資料?をバサバサッと落としちゃって、それを傍に居たローが拾ってくれるんだけど……ある一枚の写真を見た瞬間、ローの顔色が変わって。初めて見るローの表情に戸惑いながら手元を覗き込んだら、それはスモーカーが昔撮ったとある同僚の写真で。
随分と昔に殉職した、同僚の写真で。
瞬間、スモーカーの脳裏に記憶が蘇る。その同僚と過ごした時間、聞いた話の数々を。
その同僚は、ある子供を引き取って育てていた。「身寄りの無いクソガキ」。そんな風に最初は愚痴や泣き言ばかりだったはずなのに、少しずつ、少しずつ、同僚はその子供の話を幸せそうに話すようになっていって。「愛してる」とまで言うようになって──それがスモーカーが最後に見た同僚の笑顔。そんなことを、思い出した。
そしてスモーカーは理解する。かつて同僚が愛したクソガキこそが、今目の前に居るローなのだと。写真を見つめながら動かないローの前で、その全てを、察した。
暫くの無言の後にスモーカーは語り始める。同僚──ロシナンテとの関係。ロシナンテが、その子供のことをいつでも幸せそうに話してくれたこと。愛しているとまで言っていたこと。ローは黙ってその話を聞いていた。写真を見つめながら、ただ黙って聞いていた。
スモーカーが全てを話し終わった後。静寂の中で、ローは微かに笑みを浮かべ──スモーカーが初めて見る表情を浮かべながら、唇を開く。そうか、そうだったのか。と、涙を流しながら、嬉しそうに写真を抱き締め──
「俺も……愛してる。コラさん」
慈愛に満ち溢れた表情と声音。一度だって見た事のないローを前に、スモーカーはまた気付く。
愛してい“た”のではなく、愛してい“る”のだと。
ローは今でもずっと……死に別れてもなお、彼のことを愛しているのだと。そう理解した。
その後、スモーカーは思い出話の先で打ち明けられる。ローが、スモーカーと出会うきっかけにもなった小さな悪事に手を染めていた理由。
「こうしてたら……コラさんが、止めに来てくれるんじゃないかって思ってた。昔みたいに……俺の手を取って、引き戻してくれるんじゃないかって」
だが結局、俺の手を取ったのはお前だったな。スモーカー。
そう言って笑うローの隣で、スモーカーもまた口端を緩める。
──決して届かないかもしれない。ローの心の奥底、その領域に踏み入れることは、これからも一生無いかもしれない。たった一人だけが居ることを許された空間。ローの中に残り続ける大切な想いに届くことは、きっとこれからも無いのだろう。
それでも、自分の手がまだ温かく、届く範囲に居る限りは。これからもずっと伸ばし続けようと。──ジクジクと痛む心臓の痛みを見て見ぬふりをして、ソファに着かれた手の横に、手を置いた。たった数センチの距離を隔て、不器用に笑い合いながら……