何なんだよこれは

何なんだよこれは

 加茂家のモブ視点


熱帯夜だった。

首筋に纏わり付く汗が煩わしい。 寝所の戸口に手を掛けながら、私は妙な高揚感に胸をざわつかせていた。

「よく来てくれた」

「憲倫様……」

「今宵は暑いな」

手で顔を仰ぐ憲倫様の首筋に玉のような汗が浮き出ているのに気付き、慌てて顔を伏せた。

私にそちらの趣味はない。好ましく思うのは女の柔い肌や潤んだ瞳で、同性の裸に欲情したことなど人生で一度もない。ましてやそれなりに齢を重ねた熟年の男になど。

なかったはずだった。

……嗚呼、これも憲倫様の額に真一文字の傷跡がお出来になってからだ。混じり気の無い忠誠を抱いていたはずの当主に、邪な視線を向けるようになってしまったのは。全く狂っている。

浅ましい私の魂胆に、どうかこの方が気付きませんように……そう思った瞬間。

「こんな夜は……」

はらり。

憲倫様が肩の羽織を落とす音だった。

「どうしようも無く疼いてしまう」

「…………は、」

あんぐりと口を開ける私をよそに、憲倫様はするすると衣服を脱ぎ捨てていく。

あっという間に襦袢だけになってしまわれる頃には、私の目は血走り、憲倫様の肢体へと釘付けになっていた。

「見なさい」

憲倫様が襦袢の前をはだけさせる。ちらりと覗いたソレに、私は絶句する。

「あ、か……?」

赤い縄。毒々しいまでに鮮やかなソレが首から股に掛けて這うように憲倫様の身体を縛り上げていたのだ。

「やはりこの色が一番映えると思ってね」

つぅ、とかさついた指が縄をなぞる。

引き籠もっての研究三昧で──しかし最近は連日屋敷を開けることが多い。どこで何をしているのだろう──日焼けとは無縁の青白い肌に、確かに赤い縄は映えていた。

「亀甲縛りという。緊縛術……所謂サディズムやマゾヒズムを満たす手段としては代表的なものだね」

「だが元々は米俵のような嵩高で重量のある荷物の縛り方だったんだ。江戸期には囚人を拘束する捕縛術としても用いられていたんだが、それが今や……いやはや人類の性への飽くなき探究心には感心するばかりだよ」

「どちらかと言うと見栄えを重視した縛り方だから、想像している程の痛みはない。んっ、とは言えずっと付けていると圧迫感があるかな……」

何やら憲倫様が上機嫌で話しておられるが、ほとんど耳に入ってこない。

何も言えず、何も聞こえず、ただ私は憲倫様を縛る真紅を見つめるばかりであった。

「あァ、そうだ」

愚かな私を憐れむように釣り上がった口角は、三日月の形をしていた。不思議なことに、その表情は悪辣な娼婦のようにも、巷のキリシタン達が崇める聖母のようにも、はたまた千年生きる妖狐のようにも見えた。


私は狂ってしまったのだろうか。


微笑みと共に、骨張った手がこちらへと伸ばされる。それは紛れもなく男の手で、なのに、なのに、なのに!

「腕も縛ってくれないかい?」

「……っ!!」

逡巡したのはほんの一時のことで。

握り返した掌は屍人のように冷たかった。


………

……


四乃「憲倫様……憲倫様ァ……!」ハァハァ


羂索「四乃は今150年程前を彷徨ってるんだ 気にしないでやってくれ」


加茂「」


仁「香織さんって昔は野太い声で喘がなかったんだなあ」


羂索「もう♡あれは相手が仁さんだからだよ♡」


虎杖「」


脹相「頼むから死んでくれ」



羂ちゃん前も最中も後もべらっべら喋ってそうで嫌


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