何でもない日常

何でもない日常


・セタンタ夢

・夢主がカルデア職員

・自己解釈多々有り

・推しのスパダリになりたいという癖の人が製造してます。(今回は←の要素薄め)




「あっ!今日もお願いしていいか?」


冬の初めの午後3時。暖房の効いたシミュレーター制御室。

温かい室温に眠気を誘われて微睡んでいると、快活な声が部屋中に響き顔を上げた。


「シミュレーター、いつもの設定で頼む!」


真っ直ぐな眼で此方を見つめてくるのはクランの猛犬の修行時代の姿、セタンタの幼名を持つ少年だった。

彼はいつもこの時間、ナーサリーやジャックといった幼いサーヴァント達がおやつを食べている間だけ一人で鍛錬をしにくる。


「はい、いつものね。でも良いの?今日のおやつは蜂蜜レモンクッキーって聞いてるよ」


セタンタくん好きだったでしょ。

コンピュータを操作しながら問うてみれば、少年はきょとりと不思議そうな顔をして一拍置いた後に納得したように頷いた。


「へへ、抜かりねぇぜ。赤い弓兵が少し包んでくれたから持ってきた!割らねぇように預かっててくれるか?」


「なるほど、いいよ。鍛錬終わってから食べるなら時間を見計らってお茶淹れとこうか」


そう提案すると、セタンタくんは向日葵も顔を背ける程の眩しい笑顔を浮かべて喜んだ。

曇天でも日向ぼっこ出来そう。光の御子と呼ばれるだけはある。

シミュレーター内にエネミーが配置されるのを確認して、セタンタくんに声をかける。


「準備出来たよ。昨日余裕ありそうだったからエネミーの強さ上げておいた!」


サンキュ、と言ってシミュレーターに入る少年を見送ると、ほっと息をついた。

無邪気過ぎて目が潰れてしまう。彼の明るさと真っ直ぐさは、現代で魔術に触れた事のある者にとって毒だ。可愛くて大変困る。


モニターに目を向けると、セタンタくんは棒を槍のように扱ってゲイザーの群れを薙ぎ払っていた。持ち前の足の速さと身軽さで長射程の光線を避けながら間合いに入り、短剣でとどめを刺す。

ランサークラスの全盛期の彼に投槍を多用する傾向があるように、修行時代の彼も短剣を抜くことは少なかった。

だから間合いを詰めた方が有利になるゲイザーを配置したのだけど。意図に気付いたようだしこの調子なら途中でやられることは無いだろう。

よし、お茶の準備をしておこう。

クッキーはラップをした上でハンカチに包まれていた。なるほど、これならば手を拭く物の準備を疎かにしがちな男の子が食べる前に困ることがない。

蜂蜜レモンクッキーには何が合うだろう。無難に紅茶も良いけど、さっぱり食べられるからローズヒップティーでもお互いの味を邪魔しないかもしれない。



***




「うっし、良い感じに身体動かせたー!」


セタンタくんは満足そうに伸びをしながらシミュレーターから出てくると、ハーブティーの香りに気付いてすんすんと鼻を鳴らした。

今更だけどセタンタくんが蜂蜜レモンクッキーを好きっていうのはちょっと意外だ。ケルトの人達は蜂蜜酒が好きだし、その影響なのかな。

言われる前に手洗いを済ませたセタンタくんが駆け寄ってくる。


「花の匂いする!ハーブティーか?」


早く食べたくて仕方がないと言わんばかりの少年に思わず笑みが零れる。

カップにお茶を注いで渡せば、運動後だからかあっという間に一杯飲み干した。

おかわりを注いで、クッキーを食べている彼を眺める。


「……なぁ、食べねぇの?」


少し戸惑いながらセタンタくんは尋ねてきた。一緒に食べるつもりだったのか。私も蜂蜜レモンクッキーは大好きだけど、こんなに美味しそうに食べる人から分けてもらうなんて流石に出来ないや。


「いいよ、食べなよ。君の食べてる顔を見るだけで甘いものはお腹いっぱい」


私のキザったらしい言葉は通じなかったらしく、セタンタくんは頭に疑問符を浮かべながらぼそりと何かを言った。

……アンタが好きって聞いたから持ってきたのに、違ったのか。

そう聞こえた気がした。でも彼はそのクッキーを一枚ずつ大事に食べながら時折目を瞑って味わっているんだから、きっと聞き間違いだ。


少年の頭に手を伸ばし、髪を梳かすように撫でた。


「沢山食べて大きくなりな」



撫でるとセタンタくんのクッキーを口に運ぶ手が止まった。何処か憂いを帯びた表情をしていた。突然、どうして。


「セタンタくん?」


「っ、わり。親友にさ、よく言われるんだよな、その言葉。だから懐かしいなーって思ってさ」


何でもない風にセタンタくんは笑った。

セタンタくんは、ふとした瞬間に暗い表情を見せることがあった。特にヘラクレスやベオウルフの背中を見てぼんやりしていることが多い。

そういえばセタンタくんの親友……兄弟子は筋骨隆々の大柄な人なんだっけ。かのクーフーリンが小間使いにされて怒らない程信頼されていた、頑強な戦士。

懐かしいと思ったっていうのは嘘ではないのだろう。


「ホント、不思議なんだよな。こっちのカルデアに来てからも随分経ってるのに、まだ自分が死人だなんて思えねぇ」


笑い飛ばす彼の言葉に首を傾げた。

英霊は全盛期の姿で現界するけど、死ぬ時までの記憶はあるはず。……いや、セタンタくんは槍を持った全盛期の頃も記憶はないんだっけ。コノートの女王に会っても最初はピンときていなかったみたいだし。


「まぁそれだけだ。友達の話も良いけど、一緒にクッキー食べようぜ!」


言われて私も一枚口に運ぶ。蜂蜜にレモンアイシングと甘過ぎるくらいだけど、レモンのおかげでさっぱり食べられる。やっぱり美味しい。


「うん、美味しい。ずっと食べてたくなっちゃう味だ。ありがとう、セタンタくん」


「だろ?ローズヒップティーも美味いぜ。花の独特の味がクセになる」


私たちは示し合わせたように同時に笑った。



お茶を飲み終えた頃、ドアの方から可愛らしい声が響いた。


「あっ、いたいた!小さな青いおじさん!」


「汝も相変わらず精が出るな」


ジャックちゃんとラーマ君が遊びに誘いに来たようだ。

セタンタくんは同年代や年下の子達と話す事が多く、その中の誰かが鍛錬が終わるこの時間にシミュレーターまで呼びに来るのはよくあることだ。

特にラーマ君とは話しているところを見かけることが多い。元居た世界線のカルデアでラーマ君の妻のシータさんと仲が良かったらしく、シータさんの話をして欲しいと頼み込まれているみたい。


「だーかーらー、その呼び方辞めろって言ってるだろジャック!…そんで、今日は一体何をするんだ?」


「ゲオルギオスとボイジャーがフォトコンテストを開くと言い出してな。これから詳細を話し合うのだ」


「ふーん?その2人が提案すんのは珍しいな」


迎えに来た2人とシミュレーター管理室を出ていく間際、ご馳走様!と少年は手を振った。笑顔から無理は感じられなかった。

きっと、このカルデアに居るうちは寂しくなりはしないだろう。




どうにも頭の隅にひっかかって、一人になってから改めて考えてみた。


セタンタくんに大人の頃の記憶が無いということは、セタンタくんにとっては召喚される直前まで普通に生きていた感覚なんじゃないか。

異世界転生みたいに、いきなり知らない世界に放り出されたみたいな……。


…あ、そっか。セタンタくんを好きな理由が分かった気がする。

私は、彼の成長途中の内面が好きなんだろうな。セタンタくんは戦ってくれるだけじゃなく一緒に生きてくれるから。


自分は自分だと師に刃向かったり、親友に言われたことをつい最近の思い出のように話したり。

……今を生きる人類は私の方なのに、彼はあまりに身近で、眩しい。

私たちの子供の頃の象徴みたいだ。


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