体調不良
呪術高専東京校。黒い目隠しを付けた銀髪の男が、一年生三人がグラウンドで鍛錬しているところを眺めていた。そこに一人の銀髪黒目の少年がやって来る。一年生三人にではなく、一見不審者に見える教師の男に。
「はい、頼まれていた呪物です」
「さっすが類、仕事は完璧だね〜思ってたより早かったじゃん」
「あんたがなるべく早くって言ったんでしょうが」
「それはそう」
楽しそうにけらけらと笑う悟にため息を吐く類。そこへ二人に気付いた虎杖達がやってきた。
「おっ、類じゃん。なんかあったの?」
「ちょっと呪物を届けに来ただけです。この人が態々オレを指名するから」
「だって類が一番信頼できるし」
「あんたに信頼されても全然嬉しくないですね」
「いっつも思うけど類って僕だけに辛辣だよね。七海みたい」
「七海さんみたいって寧ろ褒め言葉ですね」
「いや褒めたつもりないんだけど」
久しぶりに会って会話が弾んで(?)いる二人を見て、虎杖はふと思った疑問を出す。
「類はいつまでいるの?」
「もう帰りますよ。用事は済んだので」
「ええ〜折角こっち来たんだしもう少しいてもいいじゃん?」
「いや任務があるので行かないと…」
そこまで言った瞬間、類は急に膝から崩れ落ちた。
「類⁉︎」
慌てて類を支えた悟は、類の身体が異様に熱いことに気付く。まさか、と類の額に手を当てて
「!!」
すぐに離す。類の身体は明らかに異常な温度の熱を発していた。
「熱たっか…!こんなの我慢してたのか…!」
もっと早く気付けばよかった。そんな言葉が一瞬思い浮かぶものの、後悔は後だと切り替える。
「みんな、僕類運んで保健室行ってくるから後自習ね」
「わかりました」
三人を代表して真面目な顔で頷いた恵に頷き返して、類を抱えて保健室へ向かう。そのまま普段より乱雑に扉を開けた。
「なんだ五条、まだ授業中…そこにいるのは類か?」
流石は硝子、僕の顔とぐったりした類を見て状況を察してくれたらしい。
「うん、高熱で倒れたから診てくれない?」
「勿論」
テキパキと処置を進める様は流石医者。類をベッドに運んで僕に体温計を渡してきた。
「それで体温測っておいて」
「了解」
類の脇の下に体温計を挟んで類の身体を見る。当然だが滝のような汗をかいていた。その内ピピピッと体温計が鳴って体温を見た。
「39度⁉︎」
画面には39.2と映っていて、思わず目を見開く。そんなに高い熱を出したことがないため、実際にあるのかと我が目を疑った。
「これは随分高いな…逆に今までよく耐えてたよ」
硝子に渡せば似たような反応が返ってきて、自分がおかしいわけではないんだと安心する。
「ここで一時的な処置はできるが、こうも高熱だと今日中には下がらないぞ。どうする?」
「どうって…仕方ない、面倒だけど京都のお爺ちゃん達に連絡してくるか」
「いってらっしゃい」
硝子に見送られて保健室を出る。そのまま保健室の前の廊下でスマホで電話をかけた。電話に出る音がして話し始める。
「ああお爺ちゃん?類が高熱出して倒れちゃったから暫く京都には帰れないよ。だから『ウチ』で預かるね。…はいはい、分家への連絡はお爺ちゃんがしといてよ、学長なんだし。じゃあね〜」
相手がまだ何か言っているのを気にせず強制的に切る。まったくもって煩い老人だ。スマホをポケットにしまって保健室の扉を静かに開ける。流石の僕でも病人が寝ているなら静かにする配慮くらいはある。
「類の調子はどう?」
「依然よくないな。まあ原因はわかったが」
「原因?」
「疲労だよ。ここ最近無理してたんだろうね」
「…………」
「で、類はどうするんだ?寮は流石に今すぐ使える空きなんてないだろ」
「しょうがないから五条家に連れてくよ」
そう言って立ち上がり、類をなるべく揺らさないようにして抱える。
「家で安静にさせておけよ」
という硝子の言葉を背に、高専を出て呼び付けた車の後部座席に座る。
まもなく五条邸に到着し、昼間から帰ってきた当主に驚く女中達に、部屋に近付かぬよう命じて類を彼の部屋のベッドに寝かせた。車に乗っている間に夜蛾学長には類が高熱を出したので、自分も早退すると伝えておいた。
普段であれば真っ先にサボりを疑う夜蛾が、大事にするよう伝えておくよう言ってきた。扱いの差を感じながら複雑だったのはここだけの話である。