佐藤アレス : 絆エピソード???『兎か怪物か』
「・・・おや?」
何かが触れる感触を感じて、視線を向けると、足元に白くてふわふわとした毛並みの兎がいた。
「・・・兎?なぜこんなところに?」
“あっ。いたいた!こんなところにいたんだね”
「・・・先生?」
兎を抱き上げると、背後から声をかけられた。
振り返ると、先生の姿があった。
“こんにちは、アレス!”
「こんにちは、先生」
“おお!?『ぴょんこ』!アレスが見つけてくれたのかい?”
「『ぴょんこ』??・・・このうさぎさんの名前ですか?」
“そう!ミヤコが飼っている子なんだ。今朝、『ぴょんこが行方不明になった!』っていうモモトークが来てね。一緒に探してたんだ!”
「・・・なるほど?それで、シャーレの仕事を放ってこの時間までぴょんこさんの捜索に付き合っていたと・・・ふふ、後でユウカさんやアオイさんに叱られても知りませんよ?」
“うぐっ・・・でも、困っている生徒は放っておけないからね”
「相変わらず、生徒一筋ですねぇ??」
そういって、私は先生に兎『ぴょんこ』を手渡した。
先生の腕に抱かれたぴょんこをじっと見つめる。
“・・・アレス?”
「・・・先生?ちょっとお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
“もちろん!構わないよ!聞きたい事って?”
「あぁ、そんなに深刻な事ではありませんよ。ちょっとした問答ですよ」
「先生?もし、『ライオン等の猛獣がいる檻の中に、元気に跳び跳ねる兎の姿』を見たら、その兎にどんな事を思いますか?」
「『すごい兎』だと思いますか?『ヤバイ兎』だと思いますか?」
私の質問に少し考えてから、先生は答える。
“『すごい兎』かな?だって、猛獣がいるのに恐れる事なく元気に過ごしているからね”
“・・・あっ!もしかしたら、すごく猛獣達と仲が良い兎なのかもしれないね!”
「あははっ!先生らしいですねぇ?それでは次の質問です」
「先生、あなたの目の前で『その兎は猛獣を襲い、殺し、その肉を貪り喰いました』」
“ッ!!!???”
「これによって先生。あなたは、『猛獣を襲い喰らう兎』が存在することを知りました」
「─────先生。今、あなたの目の前には1羽の兎がいます。そして、あなたに向かって跳ねて来ます」
「先生?あなたはその兎を『抱き上げますか?』それとも、『バケモノと言って遠ざけますか?』」
“・・・『抱き上げて撫でてあげるよ』”
「・・・ほぅ?それはどうして?あなたを襲い喰らうために近づいてきた可能性もあるのに?」
“仮に、私を食べる為に近づいて来たとしても私はその兎を抱きしめてあげるよ”
“だって、もしかしたら『抱き締めて欲しくて、撫でて欲しくて近づいて来た』可能性もあるからね?”
「ッ!?」
“もし、抱き締めて欲しくて近づいて来たのに。バケモノと呼ばれて遠ざけられちゃったら、きっとその兎は寂しい思いをするし悲しい気持ちになっちゃうでしょ?”
“・・・私は、そんな思いをさせたくはないな”
「・・・先生、全く。あなたはという人は───────」
「先生ッ!!!!!!」
鋭い叫び声が、響いた。
その声の方向に振り返ると、ミヤコとサキの2人が銃を構えて立っていた。
“あっ!ミヤコ!ぴょんこ見つけた───”
「先生ッ!早くそいつから離れろッ!!」
「アレスさん、その場から1歩も動かないで下さい。動けば撃ちます」
“ちょ、ちょっと!!2人とも!!!”
「おやおや、随分と嫌われていますねぇ??まだこれと言った犯罪行為はしていないつもりでしたが」
やれやれと私は肩をすくめる。
その瞬間、足元の地面が弾けた。
ミヤコが発砲したのだ。
「『動くな』と言った筈です、次は当てます」
“ミヤコ!止めて!サキも銃を下ろして”
「なっ!?何でだ先生!!こいつがどれ程危険な奴かっていうのはよく知っている筈だろ!?」
“・・・彼女は何もしていないよ。むしろ、ぴょんこを見つけてくれたんだよ”
「「っ!!??」」
驚愕した顔で私と先生の腕に抱かれたぴょんこを見る2人。
「ふふっ。ミヤコさん、ぴょんこさんが見つかってよかったですね?」
「・・・」
彼女はこちらを睨み付けている。
どうやら、彼女には私が【バケモノ】に見えているようだ。そのとうりですけど。
「お邪魔の様なので帰らせていただきますね?それじゃあ先生、また明日」
“う、うん!ぴょんこを見つけてくれてありがとね”
手を振りながら去るアレスの背を、ぴょんこはじっと見つめていた。
おまけ シュロとワカモに先生にした問答をしてみた
シュロ「・・・『猛獣を喰らう兎』。なかなか面白い話ですねぇ!怪談のネタにできそうです!!」
アレス「それで?どう答えますかシュロちゃん」
シュロ「『是非ともその兎に会いたいです』!その兎と一緒ならきっと、素晴らしい怪談を作れるでしょう!!」
ワカモ「・・・『猛獣を喰らう兎』ですか」
アレス「そう!それで?ワカモちゃんならどうしますか?」
ワカモ「『一緒に獲物を探したい』ですねぇ。・・・あぁ、襲われたとしても返り討ちにしてあげます」
「ふふっ。あなた達らしいですねぇ」