似た者同士の僕らは

似た者同士の僕らは

111エピ

 僕には幼馴染がいる。幼い頃、共に大山の地を駆け回った彼女と同じレースで走ることはなかったが、自分と同じく美しい青鹿毛を持つその子のことは深く印象に残っていた。

 親友であるディープボンドやビアンフェと同じように彼女は自分の近親に当たる存在。だからなのか、一緒にいると落ち着くし考え方も似ている。どうしてか本能的に惹かれてしまうのだ。



「久しぶり、だね」

 目の前の彼女──アカイイトはそう言ってぎこちなく笑った。

 「うん……ちょっと脚の疲れが取れなくて……イトちゃんもこっちに来てたんだね」

 「私は、ちょっと早めの夏休みってところかな。最近やっと勝てたばっかり、おまけに去年の初挑戦の重賞もだめだったの」

 その言葉を聞いて、しまったと冷や汗が流れる。球節炎のためにデビューが遅れた僕よりも早く彼女はデビューを果たしていた。しかし、その後は中々勝ち切ることができず結局昨年春のクラシック戦線に姿を現すことはなかった。そして今も尚彼女はもがき続けている。

 「ううん、コントレイルくんが謝ることじゃないの。あれ……私……わたしっ、どうして……」

 ぽろぽろと彼女の瞳から涙が零れる。彼女が立つことのなかったクラシックの舞台には史上初の無敗三冠牝馬となったデアリングタクトがいた。強く、逞しく、そして美しく咲き誇る女王。そんな彼女の他にも無傷の6連勝で大阪杯を制したレイパパレ、重賞2勝、オークスでタクトの2着だった銀幕の英雄の愛娘ウインマリリンと同期たちの活躍は良く耳に挟んでいた。その一方でアカイイトのことを聞くことはなかったのだから分かっていたはずなのに。

 「ほんとにごめんっ!!そんなつもりじゃなくて……」

 次の言葉を紡ごうとして彼女の方を見た瞬間、目が離せなくなってしまった。

 普段の彼女とは全く違う、凄まじい眼光。涙を流す瞳が夕焼けの赤色を映しこちらを射抜く。音が出そうなほどに噛み締められた唇からは血が流れ出ている。今にもこちらの喉笛に喰らいつきそうな程の殺気と鮮やかな赤を纏った彼女がそこにいた。

 「私、悔しいの」

 「……」

 「コントレイルくんなら分かるでしょ。今、思うように走れないのがどれ程歯痒いかも、みんなの想いに応えられないのがどれ程苦しいのかも」

 「もちろん、三冠馬のコントレイルくんと私じゃ背負うものの多さも大きさも全くが違うはず。それは私だって理解してる」

「でもね」

 視界に映っていた彼女の顔がだんだんと近づいてくる。


 「貴方なら私を分かってくれると思うの。だって、貴方はボンドとも、ビアンフェとも違う。貴方は私の


──だから」 






ああ、何ということなんだろう。

 彼女の痛みを理解できるのは確かに僕なのだ。この苦しみは他の誰にも分からない二人が共有できるもの。二人だけのもの。その響きはとても甘美なものに思えてしまう。額と額が触れ合い、吐息を唇に感じる距離でそんなことをぼんやりと考えていた。自分だったらこの苦しみを癒すことはできるのだろうか。この痛みを分け合い背負うことはできるのだろうか。

そこまで考えてはっと我に帰った。こうして彼女と通じ合えるのは血の近さが成すものなのか。それとも共に過ごした幼少期の記憶の名残なのか。


 「決めた。コントレイルくん。私、秋のエリザベス女王杯を目指す」

 「エリ女に?」

 「ええ。ティアラを戴くことは出来なかったけど、これで私の全てが決まった訳じゃない。だから、次は絶対に勝つ」

 「──女王になるのは、私」



 全てを絡めとるようなその視線にぞくりとした。幼い頃の思い出も、そして今の苦しみの時間も共にした彼女は決して自分と交わる存在ではない。なのに、どうしようもなく運命やら奇跡やらに縋りたくなってしまうのだ。


『赤い糸』が結ばれる先は自分でありたいと。 

 

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