伝えられる
「ル〜フィ♪」
「ん?」
「んーん、呼んだだけ〜」
「そっか」
呼んだだけ、と言いながら、ウタはルフィの背後から首に手を回し抱きついている。最近のサニー号ではよく見る光景だ。
最初はあまりの距離の近さに驚いたけど、今までこの子が置かれてきた境遇を考えたら無理もない。
つい先日までルフィの肩の上が定位置だったわけだし、きっとこうしているのが落ち着くんだろう。
流石に以前の様に肩の上に乗るわけにもいかないので、こうして時折ルフィの肩に顎を乗せて過ごすのが日課になっている。
ルフィも特に拒否することはない。むしろウタがぐりぐりと頭を動かしたり、抱き締める力を強める度にされるがままになっている。
ルフィにしても、幼馴染が元に戻れたのだから喜ばしいことであるには違いないが、これまでは当たり前だった肩にぬいぐるみが乗っていた感覚が突然無くなったのだから多少は違和感を覚えていてもおかしくはない。
きっと2人とも居心地がいいんだろう。私達はそう考えて、特に気にせず見守ることにした。
サンジくんはまだちょっと複雑そうだけど、いつものノリでルフィに噛み付いたり間に割って入る様なことはしない。サンジくんだってその辺は弁えられるもんね。
それに何というか、見ているだけで微笑ましい。本当に嬉しそうな顔をしているウタを見て、誰が邪魔できようものか……
「ねえルフィ」
「ん〜?」
「大好き!」
……持っていたティーカップを落としそうになった。
え?今なんて?
「好き♪好き♪ルフィだーいすき♪」
聞き間違いではなかったらしい。
ここまでストレートに好意をぶつけることはなかなかできない。大胆。
聞いていたのが私だけでよかった。男連中が聞いていたら余計なことをする気しかしない。
一方のルフィの反応は……
「おう!おれもだ!ししし!」
……何となく予想はできていた。
ここまで靡かないものなのだろうか。
「やった!嬉しい!ルフィ〜♪」
そう返されたウタの反応も似た様なものだった。頬をくっつけ一層強く抱きしめる。
ルフィはもうそういものだとして、果たしてウタは意味を分かって言っているんだろうか。
面倒なことになる前に少し探ってみた方が良さそうね。
──────
「どうしたのナミ?呼び出したりして」
呼び出したはいいものの……さて何て聞こうか。
「ねえウタ、あんた……」
「?」
「ルフィのこと、好きなの?」
「好きだよ?」
あっけらかんとした顔で即答したウタに思わずたじろいでしまった。
軽いジャブを投げたら強烈なカウンターを食らった気分だ。
「えっと……」
「それに、ナミも好きだし」
「!」
「ゾロもウソップもサンジも、チョッパーもロビンも、フランキーもブルックもジンベエも……みんな好き!大好き!」
……何となく合点がいった。
ウタの言う「好き」は別にルフィ個人に向けられているものではないらしい。
「それから……まだ会えてないけど、シャンクスもベックマンも、赤髪海賊団のみんなも大好きだよ!早く会いたいなぁ〜」
きっと今のウタは、誰かに自分の気持ちを伝えられることが純粋に嬉しいんだろう。
身振り手振りや壊れたオルゴールの音色だけでは伝わらないものなんて沢山ある。
ウタは今でも時々、周りに誰もいない時にとても寂しそうな顔を見せることがある。
思い出したくないことだってたくさんあるはず。全部が全部楽しかった思い出な訳がない。
あんまり大きな声で言うもんじゃないって釘刺しとこうかと思ったけど……
ようやく自分の思いを好きなだけ伝えられるようになったんだ。それをやめろって言うのは……ちょっと酷かな。
実際、こうも屈託のない笑顔で純粋な好意を伝えられるのは何というかこう……クるものがある。あ、ダメだちょっと泣きそう。
「でも不思議だよね〜」
「何が?」
「ルフィに好きって言った時だけ、なんでか自然に笑顔になっちゃうんだよね〜。なんでだろ?」
……これは……
前言撤回、した方がいいのかしら?