会議は踊る②
流魂街・志波空鶴の屋敷
ぴたりと喧騒が止み、場が静まり返る。
一瞬の静寂の後、大広間に平子の絶叫が響いた。
「はぁ!? ちょお待てや! 誰がどこで何やて!? いきなり飛ばし過ぎやろ! まったく話についていかれへんわ!」
高度なボケか、タチの悪い冗談か、平子が忙しなく口を挟むも、カワキの涼しい顔は崩れない。
平子に視線を合わせると、一つずつ疑問を潰すように淡々と言葉を紡ぐ。
『浦原さんだよ。元十二番隊隊長で、今は浦原商店の店長をしている浦原喜助が現世で連れ去られた、と言ってる』
「真面目か! ちゃうわ! もっとこう、ワンクッション挟むとかあるやろって言うてんのや!」
反射的に突っ込みを入れた平子が、一息吐いてカワキの発言内容に反応する。
「ちゅーか、あいつが誘拐て! んなアホな……」
まるで時間の無駄だとでも言うように、困惑する平子を無視して、カワキは大広間に視線を戻した。
爆弾発言は一つでは終わらない。
『実行犯は二人の完現術者、道羽根アウラと名乗る女性と、雪緒・ハンス・フォラルルベルナ』
「……!」
続けられた言葉に、今度は平子ではなく別の一団が反応した。
生前は雪緒と同じXCUTIONに所属していた銀城、月島、ギリコという三名の完現術者達だ。
片眉を上げた銀城がカワキに訊き返す。
「雪緒だと?」
『ああ。君達が知る人物だ』
「……解せねえな。あの雪緒がそんな無謀な真似するなんて思えねえ」
「同感です」
「…………」
カワキの言葉を疑うように、険しい目を向けた銀城。
そして、銀城の言葉に同意の声を上げたギリコ。
月島は何も言う事はなかったが、その目には懐疑の色が浮かんでいる。
完現術者達の様子を見たカワキは、少しだけ感心したように『へえ』と呟いて首を傾げると、自分を疑念の目で見据える三名に言葉を返した。
『そうか。彼の為人に関する君達の推測は正しいんだろうね』
「……どういう意味かな」
自分を疑った者達を肯定するかのごとき言葉を発したカワキの真意を探るように、月島がじっとカワキを見つめて訊ねる。
底が見えない海のような瞳で、カワキが答えた。
『結論から言うと、これは狂言だ。彼らは皆、協力関係にある。今回の事件の黒幕に対抗するためにね』
もはや、カワキからは衝撃的な発言しか飛び出して来ないと悟ったのか、大広間に集まった者達は真剣な表情で各々カワキの言葉を精査していた。
しんとした空気の中、質問の声を上げたのはリルトットだ。
先刻の敵、産絹彦禰が告げた言葉を思い出し、答えを絞り込んで問いかける。
「……さっきのガキが言ってた『トキナダサマ』とやらが、その黒幕か?」
『話が早くて助かるよ。リルトット』
頷いたカワキは『一度、現世の状況に話を戻そう』と言って、空座町で起きている騒動について言及した。
『空座町は現在、転界結柱のようなもので隔離されている。駐在の死神も、浦原商店の者達も、容易に外へは出られない』
カワキの言葉に息を呑んだのはネリエルだ。
空座町で暮らす一護の顔を思い浮かべ、心配そうに眉を下げたネリエルが、焦った口調でカワキに問いかける。
「空座町が……!? 一護は無事なの?」
『一護は空座町にはいないよ。いつもの皆と一緒に別の重霊地に出掛けてる』
「そう……一護は巻き込まれてはいないのね。よかった……」
一護が巻き込まれていないと知って安堵の息を吐き、表情をやわらげるネリエル。
ネリエルとは対照的に、グリムジョーが面白くなさそうに顔を歪めて「……ちっ」と小さく舌打ちをしてぼやいた。
「んだよ、黒崎の野郎は来ねえのか」
彦禰との戦いは消化不良のまま終わり、次に戦いを仕掛けたカワキにも躱された事で、グリムジョーは不満が溜まる一方だ。
今回は一護との戦いが目的ではなかったが、好敵手の不在が面白くない情報である事に変わりはなかった。
しかし、ネリエルの安堵もグリムジョーの不満も、カワキには知った事ではない。
『現世で起きている騒動、一護達を町から引き離す騒ぎ、浦原さんの誘拐。そして、さっきの産絹彦禰という子供……』
カワキは話した内容を結び、黒幕の正体を明かした。
『全ては繋がっている。一連の事件は四大貴族、綱彌代時灘の策略だ』