会議は踊る①
流魂街・志波空鶴の屋敷
志波邸の広間には錚々たる顔ぶれが一堂に会していた。
志波家に居候している完現術者の三名。
死神である平子、七緒、夜一の三名。
破面であるネリエル、ハリベル、グリムジョーの三名。
涅骸部隊の滅却師であるキャンディスとミニーニャに、その左右に立つリルトットとジゼル、そして部屋の隅で静かに蹲っているバンビエッタの五名。
更には、やはり部屋の隅に固まっている涅骸部隊の破面、ドルドーニ、チルッチ、ルピ、シャルロッテの四名。
そして、その側で室内の全員を観察する涅マユリとナジャークープの二名。
カワキは一人、広間の入口付近に立って興味なさげに室内を見渡していた。
「おい。どさくさに紛れて、こっちを観察してんじゃねーよ出歯亀野郎」
「ちょいと自意識過剰じゃねえのか? まあ、確かに丸裸にするとしたらてめえらからだがな、リルにジジ」
喧嘩腰のリルトットの言葉に肩を竦めたナジャークープが、戦時に起きた裏切りを持ち出してリルトットを煽る。
「バズビーが裏切った時、てめえらもグルだったんだろ? なあ」
「知らねーな。バズビーが後ろから仲間を焼くのはいつもの事だろ? 避けられなかったてめーが間抜けなだけだろうが」
「ていうかそれ殿下には言わないわけ?」
名指しされたジゼルが少し離れた位置に立つカワキを指差して言う。
カワキを除いて、この場にいる滅却師は皆、ユーハバッハによって力を奪われ、命まで失うところだった。
ユーハバッハと共に霊王宮へと向かったカワキなら、瀞霊廷に残された滅却師達が辿る末路を知っていてもおかしくない——ユーハバッハとグルになって他の滅却師達を裏切ったと言っても過言ではないのだ。
裏切りを理由に因縁をつけるなら、なぜカワキには言わないのか——ジゼルが暗にそう指し示すと、ナジャークープは青い顔で頬を引き攣らせ、小さな声で言った。
「バッカ! やめろって! ほら、殿下がこっち見てんだろ! てめえら殿下とやり合うつもりかよ!?」
自分達が聖別される事を知っていたのかと、思うところが何もないとは言わない。
だが、実力主義の見えざる帝国において「殿下」と称される事は即ち、それに足る実力を兼ね備えているという事でもある。
ナジャークープの中の不満は、「殿下」と戦ってまで晴らしたいものではない。
カワキをチラチラと窺いながら青い顔で慌てるナジャークープを、キャンディスの後ろに隠れたジゼルがせせら笑う。
「なーに? ビビってるのー? そもそもボク、別にそんな事言ってないじゃん? 裏切りがどうとか言ってるのはそっちだけでしょ」
「て、てめえら……」
揶揄うように笑ったジゼルは、頬をひくつかせるナジャークープを尻目に、自分の話題だというのに他人事のような顔でぼんやりと会話を聞くカワキに声を掛けた。
「だって、ボクらと殿下は仲良しだもん。ねーっ、殿下!」
『嫌いではないけれど特別仲が良いと言うほどでもないかな』
「ヒドーイ!」
ぶーぶーと不平を垂れるジゼルの言葉を『それより……』と遮って、カワキが広間を見渡した。
黒い外套を揺らしながら、広間の中央に歩み出たカワキに場の視線が集まる。
『私は予定が詰まってるんだ。待ち時間のうちに、私が知っている情報を君達に提供しよう』
唐突に情報提供を申し出たカワキに、場の空気が騒めいた。
いったいどういうつもりか。
訝しげな眼差しが大半を占める中、真っ先に声を上げたのは意外な男だった。
「もうこの事態に関する情報を得ているだなんて、流石だね。ぜひ聞かせてもらえるかな」
「……おい、月島」
物言いたげな銀城を制して、薄く笑った月島が言葉を続ける。
「いいじゃないか、銀城。聞いておいて損はないよ。彼女の情報網の恐ろしさはよく知ってるだろう?」
「そりゃあ、そうだが……」
現世でXCUTIONが事件を起こした際、いくら情報を洗っても高校入学以前の事が何も出てこないカワキを警戒し、銀城達は徹底して彼女を避けていた。
だというのに、最後の戦場となった屋敷に、彼女は挟まれなかった一護の仲間の中で最も早く駆けつけたのだ。
それも、どこから情報を得たのか、銀城が初代死神代行であり、一護の力を狙っているという確信を持って。
——今回も何か知ってるって言うなら、話だけでも聞いとくべきか?
カワキは、逡巡する銀城をちらりと一瞥して大広間に視線を戻す。
『情報を聞いた結果、どう動くかは君達の自由だ。強制はしない』
そう前置きしたカワキは淡々とした口調で大広間に爆弾を投げ込んだ。
『まずは伝える事がある。現世で浦原さんが連れ去られた』