仮面ライダーニカ

仮面ライダーニカ



「おめでとうございます!今日からあなたは、仮面ライダーです!」

長い金糸の女性が、まるで喜ばしいことであるかのように声をかける。仮面ライダー、聞き覚えのない単語に首をかしげたのは一人ではない。しかし差し出された箱を受け取った瞬間、彼らの運命は決まってしまった、いや、自分から運命の歯車に手をかけてしまったのだ。

───命をかけた理想の奪い合いが、始まる。



空中に浮かぶ円形のステージ、同じく空中に浮かんだ奇妙なオブジェと柱に囲まれるその場所は、気を抜けば落ちてしまいそうなほど無防備に晒されていた。そのように危険を感じさせる場所の上に人だかりができている・・・・・・人数およそ、二〇名。不安げな者、首をかしげる者、静観を決め込む者───各々が事情を理解しないままに集められ立ち尽くす中、ただ一人が声を上げた。

「なァんだここ!壁ねェーー!!!あっあっぶね!落っこちる!!」

ふいー助かった、騒がしい男は周囲の空気など気にすることもなく、物珍しい光景にはしゃぎまわった。男が動き回るのを避けたせいで落ちそうになった赤茶色髪をしたの大柄な男を、そばにいた坊主の巨漢が支えている。

「すまない、助かった」

「滅相もない。そちらも、あまり端にいては何が起こるかわかりますまい」

「そうだな・・・・・・だが人も多い。あまり前に出ては邪魔だろう、次は落ちないよう気を付ける」

一人だけ楽しそうだった男が、ぴたりと動きを止める。その視線の先、ステージの中央には、これまでいなかったはずの存在がいた。

長い金糸に透き通った肌、大粒の瞳に薄い唇。そこから響きだす声は、カナリアのように無垢だった。

「皆さん、こんにちは!私はゲームナビゲーターのステラです!ようこそ、デザイアグランプリへ!!」

聞き覚えのないデザイアグランプリという単語。そしてゲームナビゲーターを名乗る女。どうやら二〇名の彼らは、これから始められるゲームに参加するらしい。

「おいどういうことだよ!どこだここ!テメェが呼んだんだから説明しろや!!」

赤い髪にバンドマンのようなカラーメイクを施した男が声を荒げた。威圧的なその態度は恫喝の様でもあったが、ステラは気にも留めず言葉を続ける。

「今、私たちの世界はジャマトの脅威にさらされています。どこからくるのか、何が目的なのかはわからないジャマトから町の平和を守るため誕生したのが、このデザイアグランプリなのです!」

「知るか!!おれが聞いたことに答えろ!!」

「落ち着けキッド、恐らくだがそのうち勝手に言う」

誰もかれもが初対面というわけではなく、知合いともどもこの場にいるものもいるようだ。長いが若干の傷みが見受けられる金髪の男が、先ほどの気性の荒い男をなだめている。

「皆さんは仮面ライダーとなって、ジャマトと戦うのです。そして、見事に勝ち抜いた通称”デザ神”は、自分の理想の世界をかなえることができます!要は、どんな願いも叶うということです」

参加者にざわめきが広がっていく。自分の願いをかなえるチャンス、それもどんな願いであっても。浮足立つのも無理のない話だろう。自分は何をしたいのか、何になりたいのか、何を変えるのか、何が欲しいのか。

「それでは皆さん、お手元のデザイアカードに、願いをご記入ください」

いきなり手元に現れたカードに驚いたものの、願いをかなえてくれるというのならこの程度のこともできるのだろうと、ペンを走らせる音が響く。あるものは手短に、またある者は決意を込めて、またある者は───

「おい、お前も早く書いたらどうだ」

「・・・・・・あァ」

「そんなに決められねェもんか?生きてりゃ誰でも、やりたいことのひとつくらいあるだろう」

自分がカードを提出した後、少しも動いた様子のなかった隣の男に、目に隈の目立つ整った顎髭の男が催促をかける。

「・・・・・・おい小娘、何でも叶うと言ったな」

額に三角のタトゥーを並べ薄暗い金髪を腰まで伸ばした男が、どこか己のペースを貫いてステラに尋ねる。

「ええ、何でも」

「そうか。・・・・・・おれが一番最後だったようだな。ほら、これでいいだろう」

彼の差し出したカードを受け取り、ステラは満面の笑みを浮かべた。

「それでは、デザイアグランプリを開催します!」

一瞬の浮遊感、そして束の間の過重力。二〇名は気が付けば、見知らぬ森にいた。




「記念すべき第一回は、サバイバルゲームです!襲い来るジャマトを倒し、規定時刻まで生き残りましょう!」

「規定時刻ゥ?」

「制限時間さえ知らされねェとは、ずいぶん不親切なこった」

どこからか響くステラの声に、マリモの様な緑の髪をした男、そして小柄な体にスリーピーススーツを着込んだ男が悪態をつく。だがビリ、という不快な音とともに森の周囲に鉄線のような赤い壁が張り巡らされ、見知らぬ化け物が姿を現したことで不満を続ける暇さえなくなってしまった。

「何だコイツら!!」

「さっき言ってたジャマトってやつじゃねェか?」

「あ、あれジャマトって言ってたのか。ジャガイモかと思ってた。ってかいっぱいいる!キモ!!」

桃色の髪の女が喚けば、チャイナ服の男がそれにこたえる。そう言っている間にも、植物がのたうったように体に巻き付いた白骨頭の異形、ジャマトはますます数を増していく。

「あ゛ーーーーー!!!キモイ!!!」

「それでは皆さん、第一回戦、スタートです!」

戦いの火ぶたは切って落とされた。───しかし彼らは誰も、武器など手にできていない。ただ一人を除いて。

「おいキラーどうなってやがる!!こいつら銃が効かねェぞ!!」

「常識が通用する相手じゃねェようだな・・・・・・とりあえず丸太でも振り回しておけキッド!おれが策を考える!!」

だが、気性の荒い男ことキッドが手にしたハンドガンでは、ジャマトは怯みこそするもののダメージを負った様子がない。一歩、また一歩とキッドキラーに向けて歩みを進めて来る。相棒の言葉通り丸太を振り回して応戦するキッドは、相手を吹き飛ばして時間を稼ぐことしかできない現状に苛立ちを募らせた。

「キラー!!」

「落ち着けキッド!!叫んでも状況は変わらない!!」

とその時、丸太をよけながら周囲を探っていたキラーのすぐ眼前を、一本の矢が横切った。矢の向かった先から、ジャマトのうめく声が聞こえてくる。そして矢の射出方向には・・・・・・馬のような装飾のマスクをかぶり、全身を黒いスーツで覆った男が立っていた。

「お前らのベルトは飾りか?」

ベルト・・・・・・!?その言葉にキラーは身体を見下ろす。そこには、身に着けた覚えのないベルトが巻かれていた。中央には模様の書かれた円形のアーティファクトがはまっており、その両脇には、何かを挿し込むような溝が空いている。

「おいキラー!!まだか!!」

相棒の言葉にハッと振り向けば、疲労の見えるキッドの隙をついて一体のジャマトが近づいてきていた。そしてその手には、どこか見覚えのある、そう、デザイアグランプリに招待されたときに渡された箱に近いものが握られている。

「キッド!そのままそいつをこっちに近寄らせろ!!」

「ァア!?しくじんじゃねェぞ!!」

わざと大きな隙を作ったキッドに向けてジャマトが走り寄り、あと一歩でキッドに振りかぶった手が当たる───しかし丸太の死角から現れたキラーによって手は叩き落され、箱を奪取したキラーはキッドに箱を投げ渡した。

「ベルトを使え!!」

「ベルトォ?・・・・・・ンだこれ!?だがやってやらァ!!」

乱雑に開けた箱から取り出された何かがベルトに差し込まれる。自然と動く手に任せて装着を終え、キッドは前を向いた。

「変身!!」

キッドの身体を円形の枠が取り囲み文字が浮かび上がる。飛び出した文字は再度近づいてきたジャマトを跳ね飛ばし、やがてキッドに集まっていき・・・・・・。キッドは、仮面ライダータウロスに変身した。

「くらえ!!」

「ギャァア!!」

タウロスの肩から伸びたアームがジャマトを抑え、こぶしが胴体を打ち抜く。容赦のない一撃はジャマトが膝を折るまで続けられ、やがてジャマトはチリとなって消滅した。

「ナイスだキッド」

「ほらよキラー」

近づいてくるほかのジャマトを蹴り飛ばしながら戦況を見守っていたキラーが駆けよれば、いつの間に手に入れたのかキッドがもう一つの箱を手渡した。開いてみると、そこにはキッドが装着しているようなものとは少し異なる、小型のアーティファクトが入っていた。

「これは・・・・・・モーニングスターフレイル?いやしかし、攻撃手段があるのはありがたいな。おれも着けておこう・・・・・・変身」

なんとなく変身ってこんな動きだろう、そう考えたキラーがポーズをとったのち、キラーは仮面ライダーマステラに変身した。

「ア?おれのよりなんかショボいな」

「さっきのやつもこんなんだった。おそらく、キッドのほうが当たりなんだ」

さっきの?と疑問を持ったキッドが周囲を見渡せど、周囲には人がいない。物理的にいないこともそうだが・・・・・・どうも、感じられる気配が減っている。キッドの脳裏に、ステラの放ったサバイバルという言葉がよぎった。

「なんでも願いが叶う、ねェ」

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