仮面ライダー ニカ1-1

仮面ライダー ニカ1-1



「記念すべき第一回は、サバイバルゲームです! 襲い来るジャマトを倒し、規定時刻まで生き残りましょう!」

「規定時刻ゥ?」

「制限時間さえ知らされねェとは、ずいぶん不親切なこった」


 どこからか響くステラの声に、マリモの様な緑の髪をした男、そして小柄な体にスリーピーススーツを着込んだ男が悪態をつく。だがビリ、という不快な音とともに森の周囲に鉄線のような赤い壁が張り巡らされ、見知らぬ化け物が姿を現したことで不満を続ける暇さえなくなってしまった。


「何だコイツら!!」

「さっき言ってたジャマトってやつじゃねェか?」

「あ、あれジャマトって言ってたのか。ジャガイモかと思ってた。ってかいっぱいいる!キモ!!」


 桃色の髪の女が喚けば、チャイナ服の男がそれにこたえる。そう言っている間にも、植物がのたうったように体に巻き付いた白骨頭の異形、ジャマトはますます数を増していく。


「あ゛ーーーーー!!! キモイ!!!」

「それでは皆さん、第一回戦、スタートです!」


 戦いの火ぶたは切って落とされた。───しかし彼らは誰も、武器など手にできていない。ただ一人を除いて。


「おいキラーどうなってやがる!! こいつら銃が効かねェぞ!!」

「常識が通用する相手じゃねェようだな・・・・・・とりあえず丸太でも振り回しておけキッド! おれが策を考える!!」


 だが、気性の荒い男ことキッドが手にしたハンドガンでは、ジャマトは怯みこそするもののダメージを追った様子がない。一歩、また一歩とキッドキラーに向けて歩みを進めて来る。相棒の言葉通り丸太を振り回して応戦するキッドは、相手を吹き飛ばして時間を稼ぐことしかできない現状に苛立ちを募らせた。


「キラー!!」

「落ち着けキッド!! 叫んでも状況は変わらない!!」


 とその時、丸太をよけながら周囲を探っていたキラーのすぐ眼前を、一本の矢が横切った。矢の向かった先から、ジャマトのうめく声が聞こえてくる。そして矢の射出方向には・・・・・・馬のような装飾のマスクをかぶり、全身を黒いスーツで覆った男が立っていた。


「お前らのベルトは飾りか?」


 ベルト・・・・・・!? その言葉にキラーは身体を見下ろす。そこには、身に着けた覚えのないベルトが巻かれていた。中央には模様の書かれた円形のアーティファクトがはまっており、その両脇には、何かを挿し込むような溝が空いている。


「おいキラー!!まだか!!」


 相棒の言葉にハッと振り向けば、疲労の見えるキッドの隙をついて一体のジャマトが近づいてきていた。そしてその手には、どこか見覚えのある、そう、デザイアグランプリに招待されたときに渡された箱に近いものが握られている。


「キッド! そのままそいつをこっちに近寄らせろ!!」

「ァア!? しくじんじゃねェぞ!!」


 わざと大きな隙を作ったキッドに向けてジャマトが走り寄り、あと一歩でキッドに振りかぶった手が当たる───しかし丸太の死角から現れたキラーによって手は叩き落され、箱を奪取したキラーはキッドに箱を投げ渡した。


「ベルトを使え!!」

「ベルトォ? ・・・・・・ンだこれ!? だがやってやらァ!!」


 乱雑に開けた箱から取り出されたバックルがベルトに差し込まれる。自然と動く手に任せて装着を終え、キッドは前を向いた。


「変身!!」


 キッドの身体を円形の枠が取り囲み文字が浮かび上がる。飛び出した文字は再度近づいてきたジャマトを跳ね飛ばし、やがてキッドに集まっていき・・・・・・。キッドは、仮面ライダータウロスに変身した。


「くらえ!!」

「ギャァア!!」


 タウロスの肩から伸びたアームがジャマトを抑え、こぶしが胴体を打ち抜く。容赦のない一撃はジャマトが膝を折るまで続けられ、やがてジャマトはチリとなって消滅した。


「ナイスだキッド」

「ほらよキラー」


 近づいてくるほかのジャマトを蹴り飛ばしながら戦況を見守っていたキラーが駆けよれば、いつの間に手に入れたのかキッドがもう一つの箱を手渡した。開いてみると、そこにはキッドが装着しているようなものとは少し異なる、小型のアーティファクトが入っていた。


「これは・・・・・・モーニングスターフレイル?いやしかし、攻撃手段があるのはありがたいな。おれも着けておこう・・・・・・変身」


 なんとなく変身ってこんな動きだろう、そう考えたキラーがポーズをとったのち、キラーは仮面ライダーマステラに変身した。


「ア? おれのよりなんかショボいな」

「さっきのやつもこんなんだった。おそらく、キッドのほうが当たりなんだろう」


 さっきの? と疑問を持ったキッドが周囲を見渡せど、周囲には人がいない。物理的にいないこともそうだが・・・・・・どうも、感じられる気配が減っている。キッドの脳裏に、ステラの放ったサバイバルという言葉がよぎった。


「なんでも願いが叶う、ねェ」



───*───*───


「っはぁ、はぁ、あっ、うぅ」


 桃色の髪を振り乱し、ボニーはひた走る。その指先は何度もベルトに触れ、ガチャガチャと音を立てた。


「クソっなんなんだよっ!! どうすんだよこれ!!」


 彼女の脳裏に、先ほどまで行動を共にしていた男の声が響く。


(このベルト使えりゃ、何とかなるんじゃねェか? ・・・・・・ほら見ろ! 変身できた! アッパッパッパッパ!)


 額に血管が浮かぶほどイライラする。走り疲れて脚がもつれ、転びそうになって地面に手をつく。


「変身方法教えろよあのサル野郎ーーーーーーー!!!!!」


その声に呼ばれ、ジャマトが彼女の周囲を取り囲んだ。



「ア? うるせェな。目ェ覚めちまった」


なんの偶然か、とうとう倒れこんだその先には地面に寝転ぶ男がいた。


「敵まで引き連れちまってまァ。ツイてねェな、お前」


 緑頭の男、ゾロは眠気の残る頭でだるそうに起き上がる。とても異形を前にしているとは思えない立ち振る舞いだ。そして腰のベルトに、手を伸ばした。


「お前何とかできんのかよ!!今まで寝てたくせに!!」

「黙って見とけ、変身」


 ボニーの頭を押しのけ、背後に隠すようにして呟く。周囲で様子をうかがっていたジャマトがとびかかってくるのを空中に浮かんだ文字で弾き飛ばしながら、ゾロはサメ頭の仮面ライダー、ロドンに変身した。


「は!? 変身できてる!?」


 チェーンソーの回転音が当たりにこだまする。地面を切り裂きながら移動し、打ち上げる形でジャマトを絶つ。返しでもう一体を屠り、並んだ二体に横一線。何でもないように片づけられた無数のジャマトは、断末魔とともにどこかへ消えた。


「・・・・・・ウソ」

「市民を守るのも警察の役目だ。ほらさっさと立て。このままここにいたらまた連中に襲われる」

「なァ変身!! 変身方法教えてくれ!!」

「?そりゃこうやって・・・・・・こう!」

「そのトンチキなポーズじゃねェよ!! ベルトの使い方!!」

「あァそれなら・・・・・・」


「凄い!! あたしも変身できた!!・・・・・・でもなんか、お前のよりスカスカしてんな」

「これが足んねェんだろ」


 ゾロが指さす通り、ボニーのベルトには円形のアーティファクトがあるのみで横の溝にはなにも装着されていなかった。しかし身を守るスーツができただけでも安心感が違うのか、ボニーの周囲には花が舞っている


「いやほんとに恩に着るよ、あのままだったら多分死んでた・・・・・・今考えてもゾッとする」

「そーかよ。ほら行くぞ」

「行くってどこに?」

 

 歩き出すゾロに続いて、ボニーも辺りを警戒しながら歩みを進める。初めて会ったが、相手が警察となるとどうにも安心してしまう。ボニーはこんな状況だからだろうか、前を行く背中に安心感を覚えずにはいられなかった。


「さっきあたりを取り囲む壁みたいなのが見えたろ。そこまで行って、中にいる奴らを逃がせないか探る」

「そっか警察なんだっけ・・・・・・あっおいそっち森の中央!! 太陽の位置見とけよ!」

「頭イイなお前」

「お前が馬鹿なんじゃねェの!? このバカ助!!」


 前言撤回。安心感はないかもしれない。


ー*ー*ー*ー


 馬のようなマスクを装備した男・・・・・・ホーキンスは、静かに、そして周囲を警戒して一所に隠れていた。彼の武器はアームドアロー、試し打ちをした限りでは一〇〇メートル弱までエネルギー弾を飛ばすことができる、隠れて獲物を狙うことができる武器・・・・・・もとい、隠れなければ狙いのつけようがない武器のためである。あまりにハチャメチャな戦い方をする二人組を見つけたときは流石に表に出てしまったが、今はもうその必要もなく、茂みに隠れて時が過ぎるのを待っていた。これまでこの前を通り過ぎたのは三人。赤茶けた髪に眼鏡をかけた男と、サルのようなマスクの男。それに変身の仕方もわからないのであろう桃色の髪の女だった。


 ホーキンスが変身し、武器を構えているのには理由がある。森に飛ばされた直後、偶然にも目の前に箱が落ちており、また偶然にも、誰かが変身するところを見たからである。残念なことに木々に隠れてきちんと見ることはできなかったが、ホーキンスは手にしたアーティファクトとベルトで無事変身することができた。その変身者と協力体制を組めたらよかったのだが、すぐに姿を消してしまい話しかけることができなかった。わかっているのは、二メートルを超えている自分よりも長身のものだったことだけである。


 あとどれほど時間が過ぎれば自分は生き残ることができるのか。一介のインテリアデザイナーであるホーキンスにはこの緊張感に耐え続けられる自信がなかった。第一、カードに何か書かなければ帰れなさそうだったから仕方なく願いを書いたのだ。『デザイアグランプリに招待される前の日常』と・・・・・・。あァ、愛しの我が家に帰りたい。精神がすり減り始めたホーキンスの限界が近づいてきていた。


「そこの御仁」

「!!」

「驚かせてしまって申し訳ない。ただ一つ、お尋ねしたいことがありまして」


 半分寝ていたホーキンスは突如かけられた声によって覚醒する。慌てて視線を動かせば、窮屈だろうに身体を縮めて茂みの中を覗き込む坊主の姿があった。


「なんだ。よくおれがいることに気が付いたな」

「あのような化け物がいるせいで、どうにも気配には敏感になってしまいまして」

「それもそうか」


 で? とその姿勢のままで会話を続けようとするホーキンスに対し、坊主は困ったように眉を下げ、ぐいとホーキンスを鷲掴んでそのまま茂みから引きずり出した。


「何をする。せっかくの穴場だったんだ」

「いや少し、話しにくさを感じたもので」


 ホーキンスの安寧を脅かしてまで坊主、ウルージが聞きたかったこととは、なんてことはない変身方法だった。見れば、手には小さなアーティファクトが握られている。


「ベルトのここにセット」

「ふむ」

「そして己の中に潜む変身ポーズを解き放ってこう」

「・・・・・・必要か? そのポーズとやら」

「変身だぞ、必要に決まっているだろう」

「では・・・・・・変身」


 ウルージの周囲に以下略。ホーキンスと似たような装備面積だったが、ウルージの手に現れたのは大ぶりなハンマーだった。本人のサイズも相まって、かなり凶悪な武器に見える。近接戦闘員・・・・・・ホーキンスの脳裏に、一つ案が浮かんだ。


「おれの武器はこのアームドアローだ。狙うのに時間がかかる。そこでなんだが」

「手を組もう、と? 喜ばしい提案だ」

「よろしく頼む」


 ぶっちゃけホーキンスはこのまま同じところで待ち続けるのが苦痛で仕方なかった。


 では生き残るために策を、と一息ついた二人の耳に響いたのは、威圧的な足音だった。ウルージの背後から聞こえるが、ウルージが大きすぎてホーキンスには姿が見えない。それでも咄嗟にアローを構えれば、身体をずらしたウルージの先に参加者であろう一人の男がいた。


「・・・・・・人間か」


 だがアローを下ろしかけたホーキンスの腕を、ウルージが制する。


「このゲームはサバイバル。敵が例のジャマトだけとは、ステラ殿は言っておらん」


 ホーキンスは再び腕に力を籠め、男を睨みつける。だが男は二人の意に反して、両手を頭の近くまで上げて無抵抗を示した。


「そんなにカッカするんじゃねェよ、この異常事態に。おれァ何も喧嘩しに来たんじゃねェ」


 男の手には小型のアーティファクト。不思議なことに、ベルトと比較するとウルージと同サイズなのに手にするとずいぶん大きく見える。そのアーティファクトにあらわされてるのは、おそらく。


「なるほど、自分に攻撃する手段がないから、我々を頼ろうという腹積もりか」

「盾、か。誰だか知らねェが、外れを引いたな」

「ハッそうだよ。だが丁度良いんじゃねェか?近接に遠距離、そこに盾が加わわりャいっぱしの戦略は立てられんだろ」


 ホーキンスとウルージは目配せをし、互いに頷く。手を組むのが早い者勝ちというわけでもなく、自分たちだって生き残りたいのだ。拒否する理由は見当たらなかった。


「では、お前が先を征け。盾だろう」

「・・・・・・そんだけ生き残りたきャ、さぞ立派に戦ってくれるんだろうよ」

「そのようだ」

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