仮想現実

仮想現実


「あなたのアイドル〜」

私は独り劇中歌を口ずさむ。

クランクアップからもう4年経っているが、私はこの歌を忘れることが出来ない。


私は元々Vtuberだった。リアルと仮想が交錯する世界で生きてきた人間だ。

だから未だにあそこに囚われてるみんなと違って戻って来れた。・・・で世間は片付けているがそんな簡単な話でもない。


「私この番組辞めたい・・・」

あの嵐の日、私は自宅で彼女の相談に乗っていた。

元々今ガチ編でのラストはあかねがアクアと恋に落ち、彼女はB小町のメンバーとなる。そんな単純なストーリーだった。


あかね役の子はあかねより更に優しく、そして弱い人だった。そんな彼女はアクアとルビーを騙すことに躊躇し、そして自分を責めていた。

「そうか・・・私が死ねば・・・」

そんなことを呟いたあと彼女は家を飛び出した。急いで追いかけたが彼女を見失った私は無我夢中で助けを求めた。

その中に彼の連絡先もあった。


そして彼女のリアルは仮想に生きている彼によって救われた。


それ以降彼女は撮影に前のめりになった。もしかしたらこの事件からもう既に彼女はあっちで生きるようになっていたのかもしれない。


これを使えると見た制作側は脚本を大幅に改変し彼女を第二のヒロイン枠にした。

幸か不幸かこの事件が「推しの子」の人気を決定づけた。



「サインはB〜 ・・・ハッピーバスデー私」

ルビーが劇中で作り出したヘンテコな替え歌を私は独り口ずさむ。

クランクアップ以降Vtuberも辞めた私の26歳の誕生日を祝ってくれる人は他に居ない。


アクアとルビー、有馬かなとミヤコさんに囲まれて誕生日を迎えたMEMちょの姿はもうどこにもなかった


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