五条戦の日に宿儺の身支度を手伝う小僧の話躾済み版
187_3■ここだけ宿儺から小僧への好感度が https://bbs.animanch.com/board/2589332/ で伏黒宿儺に掻っ攫われて手元に置かれて五条戦当日に身支度を整えるのを手伝わさせられる話
※該当スレの内容からちょくちょく良いですね……それ……となった箇所の要素をお借りしたりしています
※具体的に記載すると「虎杖が受肉宿儺の服を着させられている」「五条が獄門疆から解放後羂索の所飛んでった時に虎杖の奪還を試みるが「俺は大丈夫だから」と擦り切れた笑顔で答えた」「躾の影響で宿儺から"悠仁"と呼ばれると酷く怯える」等の要素があります
※以上の事が大丈夫な方はどうぞ
※問題があれば消します
「小僧、手伝え」
宿儺から端的に告げられた言葉に顔を上げる、その肉体にある呪印を誇示しているのか、そもそもそうだったのかは分からないけれど、基本的に寛いでいる時には上半身をむき出しにしている事が多い。
伏黒は、まで考えかけて、その思考を切り捨てる、それは今思っても何にもならない事で、むしろ、眼前の男にそれを気が付かれれば酷い目に合う材料にしかならなかった。
先ほどまで寄りかかるようにしていた岩に手をついて、折りたたんでいた足を伸ばして立ち上がる、そう言えば、先ほどまで居た筈の裏梅と呼ばれる誰かはどこに行ったのだろうか。
岩の上で座っている宿儺の姿を見上げる、今日は随分と機嫌が良さそうだった。
「出掛けの支度だ、今日は手伝わせてやろう」
その言葉に、胃が重たくなるような気分の悪さを覚える。
黙ったままの俺の様子を気にする事もなく、その四つの目が機嫌良さそうに細められ、まるで子供の駄々を宥めてやっていると言わんばかりに頬を撫でられた。
その指先が触れた先から怖気が走る、体の震えが走るのを何とか抑え込みながら手を伸ばす。
結ばれた腰の帯を掴んで解く、こう言った服は着させれれるようになってから、どういった作りになっているか分かってしまっていた。
解いた帯を一旦岩の上に置いて、気が付けばそこにあった出掛け着の一式の中から黒いインナーを手に取る。
普段ならこんな事は裏梅に任せている記憶なのに、どういった風の吹き回しなのか測りかねた。
「小僧」
こちらの手が止まったのを見て、急かすように声を掛けられる、機嫌の良い、甘ったるさすら含まれているような声を振り払うように、何も考えないように気を付けながら何とか着てもらう。
慣れない手つきでする俺があまりにも可笑しいのか、時折、笑う声が聞こえてくるのをただ静かに受け流した。
次に白い和服、多分個別の名称はあるとは思うけれど知らないそれをまたその腕に通してゆく、右、左、と通すと宿儺は岩の上から下りる。
視線が上から見下げられるものではなく、殆ど同じ位置から向けられるが、それで何かが変わると言う事はなかった。
帯を手に取って、襟に気を付けながら少し屈みながら、先ほどと似たような位置で強く結ぶ。
「今日が何日か分かるか?」
後は袖が多い黒い上に着る和服だけ、と思った途端に落とされた言葉に視線を上げた。
正直、覚えて居ない。
こんな事になってからの記憶はあやふやで、数日だけ経っているような、数年経っているようなそのどちらでもあるような気がする。
視界に、笑みを取られる、楽しくてたまらないと言いたげに吊り上げられた唇に今まで受けた所業の記憶がよぎった。
「12月24日、だ」
「…………ぁ」
自分の口から小さく声が零れ落ちてしまったのを理解する、目を見開いて、思うのはこちらに手を伸ばしてくれた先生の事だった。
あの時、もし、もっと別の言葉を口にできていたら、何か変わったのかもしれない。
いや、もうあの時には多分、手遅れだったのだろう、きっと随分と前から俺は間違えていて、今更足掻いた所で何にもならないのだろう。
ああ、でも、俺では無理でも、先生なら、最強の先生なら、どうにか、宿儺を、
「"悠仁"」
「ひ、……あ……ぁ」
四つの目がこっちを見ている、体が言う事を聞かない、全身が震えて、膝から崩れ落ちた。
視線が降り注ぐ、目が逸らせない、その目にはこちらを窘めるような色が浮かんでいる、歯の根が合わないような感覚に、必死に口を動かす。
だって、そうしないと、もっとひどいめにあうから。
「……ごめ、ん……なさい……」
「よし、今の所はそれで許してやろう、残りも出来るな」
僅かな間だけ一つの目の視線が残った黒い和服に向けられる、必死に体を叱咤させながら、時折崩れ落ちそうになりながらも立ち上がる。
がたがたとみっともなく震える指先で何とか掴んで、先ほどと同じように宿儺の腕を通してゆく。
そんな俺の姿を宿儺は四つの目でじっと見ていた、ずっと見ていた、笑い声を零しはしないものの、笑みを浮かべて、ずっと。
「初めて、にしては上出来か」
まるで褒めるかのように頭を撫でられる、それを受け取りながら、ただ、時が過ぎ去るのを待っていた。
何も考えない、何も考えたくない、視線を伏せながら、与えられるものを受け取る、それだけが今の俺の出来る唯一の事だった。
「仕事をしたのなら、褒美をやらねばな、そら、受け取れ」
そう言って手渡されたのは見慣れないスマホだった、知り合いが持っていた物ではない事を確認して安堵する。
ロックは解除されていて、画面には見慣れない動画配信サイトらしきものが写っていた。
今まで一切外部に繋がるような物は与えられて来なかった、与えられたとしてそれを俺が誰かに連絡を取る為に使えるか、と言うときっと無理だっただろう。
「ここで、映すそうだ、俺とお前のセンセイとやらの戦いをな」
「っ!」
「慕っていた相手の最後だ、見届ける事は許してやろう……あぁ、そうだな、せいぜい、噛みしめろ、"悠仁"」
手のひらからスマホが滑り落ちる、それが地面に叩きつけられるのを追いかけるように、気が付けばあの時のように床に這いつくばっていた。
ぼたりと忘れていた筈の涙が零れ落ちる、とっくに枯れ果てていたと思って居たのに、泣く資格など無いと言う事も分かっているのに、零れ落ちて行く。
ただ、地に伏せながら、涙を零す、己を呪う事すら出来なかった、だから、あの時のように立ち上がる事は出来ない、その事をはっきりと理解してしまった。