絶対主盾領域銀架城
異邦の魔術師に破れた敗北者達は散り散りになっていく。
崩れゆくのは我らが皇帝ユーハバッハが築き上げてきた城。
そして今まで自分が、かの王の為に身を粉にして守り続けた900年というあまりにも長くそして短かった歴史が今幕を終えようとしていた。
「あ…」
気がつけばそこは火の海だった。燃え行く城。そしてここはジルバーンの上階に位置する庭だった。あまり来る事自体しなかったので忘れていた場所だ。
本当なら辺りには見事な白いカサブランカが咲き誇っていたのだろうが、先程の戦闘の瓦礫により所どころが潰されて酷い状態の中。よくよく意識を集中させれば何か自分の頭の下に柔らかい感触がある。そうしていると炎を背にしながら目の前に顔が映る。目が霞んでよく見えなかったがハッシュヴァルトはこの人の事を、知っている。何より忘れるわけがない。
「あら、随分と遅いお目覚めね。皇帝陛下?」
「せっかく私が膝枕してやってるのにぼーっとこっち見たまま動かないから後10秒遅れてたら思わず蹴ってやろうかと思ったぜ」
そう言って此方に目を向けた者が1人、陛下の妹様のマグダレーナ様だ。
ここにいるはずのない人物に思わずは、と息を漏らす。
「なんで、こんな所にッ、早くしないと逃げ遅れ、「五月蝿い」痛ッ?!!」
カルデアは何をやっているんだと痛みが走る体に鞭を打ちいつもは出さない様な声で焦ると顔に平手打ちをお見舞いされる。
「いいから黙ってそのまま寝てろよ。どうせもう時期ここは終わるんですもの。…お兄様には劣るのは当然とは言えお前はこの王国の皇帝であり…そしてこの世界における滅却師達の希望でした。ならば私と共にお前が守り続けたモノの行く末を見届けなさい。」
自分の今までの努力を肯定された様な気になった。
「は、い」
そう言われればハッシュヴァルトは己の忠誠心故にすぐ様言葉を吐く。
「…真面目すぎるって言っただろ。前にも言ったけどホント人の話聞かないよなお前、全く誰に似たのかしら。お兄様の妹とは言え今回カルデアに加担したんだぜ?私」
「まぁ全面的にお前が悪いし後悔もしてないけど…昔の方がまだ可愛げあったわよ」
はぁとため息を漏らす妹様はどこか呆れていた。
そうしてハッシュヴァルトは先程言われた言葉に少しピクリと眉を動かす。
それは過去の苦い思い出。忘れたい消し去りたい記憶。
『可愛いユーゴーや…』
そしてその中にある大事な友達との約束。大事な、思い出。
「かわいいっていわれるのきらいだったんだけどな、ぁ。」
「あ?何私からの褒め言葉が気に入らないっての?」
「ううん、あなたに、いわれるのは、へいき」
幼き日の、まだ兄に連れてこられた子供だった頃の様に眉を下げながら困った様に笑う。
それは大人の青年というにはあまりに純粋で少年の様な笑みだった。
「いつ、か、えらくなって、それで、あなたのやくにたつっていったのになれなくて、ごめんな、さい」
マグダレーナは少しキョトンとする。はて自分はその様な事を言われた覚えがあったか。
「そこまで期待してなかったし別にいいわよ」
しかしマグダレーナは空気の読める女である。流石にこの場でそれを言うのは些か失礼すぎる。
「そっかぁ、」
「けっきょ、く。ばずとなかなおりできなかったなぁ」
悲しそうに、切り捨てた友の事を思いながら声を出した彼の顔は今までの無表情とはかけ離れていた。
「はっ何しみったれた事言ってんだよ。そもそもまだこれから…ハッシュヴァルト?」
それを言い終えると同時に男は目を虚にしてそれ以降動く事はなかった。
「…最初っからそうしろよな」
いつも無表情で何を考えているのか分からない男だったがやっと欲らしきものを見えてきたというのに。
何かと奉仕体質の折り合いの悪い弟の様だと思っていたがここまでくると強情というかなんというか。
「でもまぁ、そうよね。今まで沢山頑張ってたなら飴も必要よね」
既に冷たくなったハッシュヴァルトを近くのまだ壊れていない寝室のベッドに運ぶと優しく乗せる。
そしてそのままマグダレーナはある方向へと歩いていった。
「うーん、飛べば間に合うかしら…」
そうしてマグダレーナが向かう先は勿論今回の旅に同行したカルデア御一行である。