事故
公衆の面前での人身事故、轢かれたデンジと黒瀬。事態の重さにコベニは眩暈がした。
「きっきゅ…きゅっ…きゅっ…」
コベニは冷や汗を滝のように流しながら、運転席のパワーに顔を向ける。いつも傍若無人な彼女も、今回はかなり応えているらしい。パワーは髪をかき上げて自分を落ち着かせた。
「ウヌの車じゃ。ワシのせいじゃない」
「キョ…きょ…」
「まさか人のせいにするのか…!?この…人殺しがァ!!」
パワーは激怒した。コベニの車が起こした事故の責任を自分が問われるなど、許してはならない。一刻を早くこの場を離れなければならない、と運転席から出ると音を立ててドアを閉めた。
「な、な…なにやってんだ。何やってんだてめぇ…」
「ワシは運転してない。アイツのせいじゃ」
「あ…アキ君!アキ君!この人…顔が変わった!」
パワーの振る舞いとその結果にショックを受けていたアキは、姫野の言葉で我に帰った。黒瀬の顔が別人のものに変化していた。玉置が触れた死体の身なりを奪う、殺し屋まがいの事をしているアメリカのデビルハンターであると仲間達に告げた。
「やっぱりのオ〜…!敵の正体に気づいてたのは、ワシだけだったようじゃなあ〜!」
図らずも、パワーは刺客の1人を討ち取った。仲間を殺したわけではないとわかり、アキは胸を撫で下ろす。パワーが一転して上機嫌になり、己の手柄を喧伝し始めた。
「確認の為に互いの悪魔を見せ合うぞ。人の少ない場所へ」
運転席で泣いているコベニを置いて、一行はその場を離れた。
「ちょっとオ〜!!ナニぶつかってんのオー!!」
男は激怒した。乗車中に追突されたからだ。絶対に相手の賠償責任を追求してやる、と意気込んで怒鳴り付けた彼の前に、脳味噌と眼球が飛び出した少女が現れた。
「ハロウィン!」
「ハロ…ウィン……」
「ハロウィン!」
男はハロウィンと連呼した、もはやそれしか考えることはなかった。少女は男の事など眼中になく、恋人達と回転寿司の店舗に入って行った。
雑多な通行人が行き交う歩道上。そのうちの数名が空を見上げる。老人が笑った。
「よしよしよし。一人じゃプレゼントは届けきれないからな」
マキマは迫る闘争の空気を肌で感じながら、人形の死骸の原を闊歩する。
「サンタクロースが日本に来たみたいだね。私はもう少し人形を片付けます。ビームはチェンソーマンの助けに向かって」
「よっしゃあ!!わかりました!」
ビームはマキマの指示に元気よく答えると、姿を消した。マキマは続けて蜘蛛の悪魔プリンシへ、デンジだけはどうなっても助け出すように命令する。ドイツはいろんな悪魔を飼っており、マキマですらサンタクロースが如何なる手段で攻撃してくるか読み切れないのだ。
「今回は規模の大きな戦いになるからね。チェンソーマンについていけずに死ぬ職員もいるはず。できるだけ仲間の死体は回収しておいて」
デパートに入るデンジ達を尾行していた老人が、人形達に命令する。物言わぬ軍隊が腕をブレードに変化させ、デンジ達に奇襲を試みるが襲撃は察知されていた。
「石の悪魔かよ」
「正解だ。アイツらみたいにされたくなかったら離れてろ。石の悪魔は気まぐれだからな」
「人形の悪魔だ…服にでも触れられたら人形のお仲間になっちゃうぜ」
日下部が人形を石に変え、吉田が解説する。
「どうしてコイツらが来るってわかったんです?」
「遠くにいる人達の足音が規則的すぎた。観察すればわかるが、人間の歩き方はもっと個性が出る」
日下部は次々と人形を石に変えていくが、デパートに殺到する人形の数は日下部は捌ける量を超えていた。殺到する人形の群れから逃れるべく、デンジ達はデパートなら2階へ急ぐ。
途中、パワーが人形の群れに捕まってしまった。デンジも加勢に入り、人形達を蹴散らすが2人が人形になる気配は無い。
「なるほど!人形にされるのは人間だけだ!魔人と悪魔は大丈夫なのか!」
日下部が言い切る間も、人形はデンジ達に迫る。その時、中村と呼ばれた職員が飛び出してきた。彼は狐の腕を呼び出し、人形達に攻撃を加える。