事務員の必需品
190その日は、ミレニアムサイエンススクールへと赴いていた。
犯罪者の捕縛に、ミレニアム内で日夜行われている発明品が使えるのでは無いか? と言う提案があったのだ。
無論、技術の流失を防ぐ為にシャーレの管理下で、と言う条件でだったが。
試作品を確認し、いくつかをS.C.H.A.L.E経由で各学園の治安組織でテストをする事なっている。
引き渡しの書類にサインするのだが……
“………書けないや”
インク切れだろうか、ボールペンのインクが出なかった。
「先生、こちらをどうそ」
スッと、ペンが差し出される。
“ショウコ、ありがとう”
ペンの主にお礼をいうと、サラサラと署名し、返却しようとしたのだが
「……そのまま、しばらくお持ちになっていて結構ですよ。まだサインする事もあるでしょうし」
一見、素っ気ないが、彼女を良く知るなら少しだけ、機嫌の良い声で返答があった。
それもそうか、とペンを差し出そうとした手を戻した。
“このペン、何時も使っている物と同じだね?”
「ええ、このような外出先でシャーレとしての署名をする事もあり得る訳ですから。 同じ物を購入して携帯しています。
同じペンで書かれている方が書類の収まりも良いですし」
“大事に使ってくれているようで嬉しいよ”
「はい、私にとっても手に馴染んだものですから」
“私が、シャーレにショウコが来た記念に贈った物だからね”
「………そうですね」
文具の専門店でしか見かけない。
しっかりした作りの、高級感のあるボールペン
彼女が、事務員としてシャーレに来てくれた記念として。また、実用足り得る物を選んで贈った物だ。
その後もいくつかの装備品と、運用にあたるコスト等をショウコと確認すると、シャーレのオフィスへと戻った。
(…………言えませんね、オフィスで使っている方が新たに購入したもので。
常に持ち歩いているこちらの方が『貴方から贈られた物』だ、なんて……)