乙女心は多種多様
「何もない時間に適当に散歩でもしてたら急に使ってない部屋に連れ込まれましたー…いやなんで?」
「わたしがあなたと2人きりになりたかったからだけど?」
薄暗い部屋の中で少々戸惑い気味のマスターと目を合わせる。言葉の割には余裕がありそうなのがちょっぴり意外だ。
「なるほどねー…で、今日は何をご所望でしょうか」
「そうねぇ……今はあなたとキスしたいって気分ね。他には特に思いついてないわ」
「あれ、珍しい…今日はキスだけで良いの?」
「なによー、人のことをハツジョーキみたいに言ってー。たまにはおやつだけっていうのも味わってみたいものなのよ?」
「言ってない言ってない。というか女の子がそんなこと言っちゃいけません!」
「はいはい、わかったわよ…で?してくれるの、してくれないの?」
おふざけの一環ではあったが女の子として見てもらってることに喜びを覚えつつ、彼に視線を送る。ストレートに誘ったせいかちょっと照れ気味なのが余計にわたしの嗜虐心を誘ってる気がする…
「ま、まあキスぐらいなら…」
「もしかして照れてる?」
「…実は少しだけ」
「意外ね。普段はもっとえっちなことわたし達にしてるのに」
「う…それは確かに…」
「ふふっ、やっぱりあなたって可愛いわね♡…っと、話が逸れるところだった」
当初の目的を思い出しながら彼の首に手を回す。本音を言うと向こうからして欲しかったが、わたし達のマスターはどうも求めることを拒みがちな節がある。それはどちらかと言うと、自分から求めてばかりでは負担になるのではないか嫌われてしまうのではないか、という良い意味でも悪い意味でも優しすぎるところが現れてるのだと思う。でもそんな風にいつも想ってくれるマスターだからこそわたし達も全力を持って愛し、愛されようとするのだ。
「じゃあ早速だけどいただくわね。んっ…」
「……」
緊張のせいか少し乾いた彼の唇がわたしの唇に触れる。それと同時に彼を抱きしめる力が少しだけ強くなり、心臓の鼓動が高鳴る。なんだかんだ言ってわたしはマスターとキスする時に特に喜びを感じているみたいだ。
「(…頭の中、すごくふわふわする……マスター、好き♡好き♡)」
普段のわたしからは考えられないぐらい甘ったるい感情が溢れて止まらない。これ以上続けていくと、多分わたしはきっと彼以外のことを何も考えられなくなってしまうだろう………よく考えたらいつもと変わらない気がするが。
「……ぷはっ………マスター♡」
「わわっ!…珍しいね、こんな風に飛びついてくるなんて。もしかして今日のクロは結構甘えたい感じ?」
「んー…そんなところ。だからマスターもわたしにいーっぱい、愛情を注いでね♡」
「…わかった。期待には応えるよ」
「ノリが良くてよろしい。じゃあ最初は何してもらおっかなー…」
恐らくこんな風に2人きりでイチャイチャできる時間は残りわずかだが、残りの1秒まで存分に楽しませてもらおう。だって、恋する乙女は欲張りでわがままで甘えたがりだから───