乖離Ⅱ:ブラボー!ジャマーボール対決!(ChapterⅣ)
名無しの気ぶり🦊

「横筋いいじゃん!」
「軌道も…うん、ボールがいい曲線を描いてる…!」
「祢音さんの努力が実りましたね!」
「やったあ♪ 相手の裏をかいて逃げるのは慣れてるから、家出でね」
「…(羨ま…)」

同じころ、練習開始から約2時間。
冴・シュヴァル・タルマエの指導の甲斐や祢音のポテンシャルの高さ・呑み込みの早さがあってか3人の指導したように祢音はボールをコントロールできるようになっていた。
つまり特訓も結構 成果をあげたということ。
冴に褒めてもらっていたがシュヴァルはそれを若干羨ましそうに見ていた。
「…でも、逃げてるだけじゃ、本当の愛は手に入らない」
「夢も願いも…掴めませんよ?」
「え?」
しかし、それだけでは指導は終わったことにはならない。
特訓を終えて戻ろうとしたところ、冴とタルマエは祢音にそう呟く。
「どんなボールも受け止めて、投げ返さないと」
「…祢音ちゃんなら、どんな球だって受け止められるし返せるって…僕は、信じてるよっ」
「…うん」

自らの願いやその背景にあるものもボール同様に受け止めなくてはならない。
現実にあるものな以上、いつまでも無視して進めることは決してあり得ないのだから。
「…だから聞くけど。…ねえ、貴方達二人から見た桜井景和ってどういう人?」
「私達も普段桜井トレーナーとトレセンで接することはありますが、それが彼の全てじゃないでしょうし気になります」
そのうえで自らも受け止める、デザスターの選択という現状の課題を
ただ個人的な疑問だけで闇雲に景和をデザスターと決めてしまっては全くもって意味がない。
だからこそ、周りから見た景和の印象をすぐそばにいる周りの人間に問うた。
「「それは────」」
そんな二人に対し祢音とシュヴァルが返したことは────
【ジャマーボール前半戦を終えてみてのお二人の感想は?】
「冴さんがデザスターってことは無いと思う。景和のこと疑ってたみたいだけど…」
「別人なのは間違いない…そう、思います…」
((…だって、デザスターはたぶん…))


それから少し後、今度は祢音とシュヴァルがデザイアグランプリ運営からインタビューを受けていた。
…他の組み合わせと違ってどこか歯切れが悪い答え方をしていたのだった。
(…ごめんね、二人とも、それにキタちゃん…。でも、私だって参戦したからには担当トレーナーに勝ってほしいの)
翌る日の朝、リッキーは昨晩大智と打ち合わせたある策を切り出す決意を固めていた。
これのせいであまり寝れておらず、というのは意図的に普段仲良くさせてもらっている誰かを貶めるのは今のコパノリッキーという少女にとってはレースに臨むための準備と同じくらい勇気と葛藤が必要なものだから。
とはいえあまりに時間がなかったのも事実、ゆえにこそあまり寝れなかったというわけである。
「────先生」
「うん…僕達、分かっちゃった。デザスターが誰か…。正解は君だ、桜井景和」

そして大智に合図を告げ、そんな彼がそれをきっかけに告げたことはデザスターの正体。
そしてその名は桜井景和。
大智が仮にデザスターに決めた者ははたして昨晩ジャマトのことで彼に相談を持ちかけ、それを大智自ら二人だけの秘密とした相手だった。
とはいえリッキーには計画の都合上打ち明けたが。
そう、あくまで大智が今回のデザイアグランプリを突破するために決めた仮初の裏切り者にして人柱、それが景和だったということ。
「…ええ?」
「…ちょっとお待ちください、五十鈴先生」
「そうですよ、なんでいきなりそんなこと⁉︎」

全員が集まっているところに大智がいきなりぶっ込んできたので景和本人はもちろん、担当で彼を強く慕うダイヤだって黙っていられるわけは当然無く。
彼女の幼馴染で景和に似た感性の持ち主のキタサンもそれは同様だった。
「前半戦、彼はジャマトへの攻撃を渋ってたよね?」
「それ、私も見た!」
「私もトレーナーさんと同じで見てました…」
しかしだからって動じるほど行き当たりばったりでも甘い性格でも大智はない。
普段の彼の行動の延長線上容赦なく周りを誘導し巻き込んでいく。
今回は冴とタルマエ。
理由としては、前半の最中ジャマトへの攻撃を渋っていたからだと。 これは冴とタルマエも気づいていたようで、賛同する。
「…あれにはきちんとした理由が存在しています!」
もちろんダイヤもそんなことで引き下がれないし納得できないし黙ってはいない。
「とか担当に言わせてるけど、結局のところは僕たちの足を引っ張るためだったんじゃ…」
けれど大智からしてみれば、その程度の発言は何の支障にもならない。
「違う、これには訳があって! 大智君にも話しただろ!?」
「えっ、トレーナーさん⁉︎」
(…いや、何か避けられない理由があるはず!)
(恐らく…五十鈴先生が原因の!!)
そして想定通り、景和が思わず口を滑らせる。
この反応を大智は待っていた。
担当とも切り離させたのもそのため。
ただ、彼の想定と違ってダイヤはあまり想定していなかったが、彼女のこの際の反応はどうでも良かった。
「さあ。何も聞いてないけど…」
「この流れで聞いてないんですか⁉︎」
なので予定通りしらばっくれたし、当然ダイヤはあからさまな嘘だと分かっていても驚いた。
面接官の言葉しゃべったこととか、だいぶ前から知ってたのに話さなかったのは事実だよね。
「何言ってんだよ⁉︎ ジャマトが前に退場したライダーのシロクマさんの言葉をしゃべってたって!」
「…あっ⁉︎」
もちろん景和も動揺したし、なんならさらに口を滑らせた。
これまたこのような状況でなくても気軽に打ち明けるにはマズい経験談を。
「…嘘…?」
「…それ、ほんとなんですか? 桜井トレーナー…?」
当然それを知らない者は困惑する。
なので、祢音とシュヴァルもその例に漏れず。
「あの瞬間にそんなことが…」
キタサンはというと、あのタイミングで起きた出来事そのものに驚いており景和が嘘をついていたとは流石に思っていなかった。
「二人ともなんでそんな大事なことを隠してたの!?」
「戦闘中に騙されて命を落とす危険性があるってことじゃないですか!」
そして最初に大智の思惑にハマった冴とタルマエは当然これを責めた、ダイヤも含めて。
二人とそこまで今回以外で接点がない誰かの反応としてはありふれたそれだが、この状況ではそれが居心地悪く景和とダイヤには感じられた。
「違います! 私達は…
(いや、この状況で何を言っても五十鈴先生の思い通り…なら採るべきは…沈黙!)
「いえ、これ以上語ることはありません…」
しかし思い直してみると、このまま周りに釣られて喋っていくほうがマズい。
下手に何かを言うぐらいなら黙っていたほうが少なくともこれ以上自分からは自分やトレーナーを追い詰めることはない。
そんな具合に判断したダイヤは、景和にはすまないが沈黙することをこの状況における是とした。
「違う。俺じゃない! 信じてくれ!」
「ただ…トレーナーさんがデザスターではない、これだけは信じてくださいっ…!」
とはいえ事実ではなく願望を言うなら問題無かろうと、切実に景和の無実を訴えることも忘れなかった。
「と言っても…お前にはギロリを騙した前例があるからな」
「トレーナーさんはこう言ってますけど、あたしもトレーナーさんも桜井トレーナーがデザスターじゃないって信じてます!」

だが英寿は味方になってくれない。
しかしキタサンは分かっていてあえて突き放していそうだと感じ、彼も含めて自分達は景和がデザスターでないと信じていると告げたのだった。
「まあいい、君のバックルは没収させてもらうよ」
そして大智は、景和のニンジャバックルを没収する。こうして一時的にでも戦闘面でも自分の生存確率を上げる。
狡いと言われればそれまでだが、そもそもが人狼ゲームに似たゲームという騙し合い探り合いといった傍目には狡く見えることもまま起き得るタイプの対決に参戦している現状なので、頭を使うことには元々長けた大智からしてみれば何の迷いも無かった。
また奇しくも、モンスターもニンジャもどちらも前々回のシーズンのデザイアグランプリにおけるラスボスジャマトへの有効打を生み出したレイズバックルだ。
「はいはいはい!盛り上がって来たところで、デザスター投票、中間発表と、行こうじゃないーい」

そこへ狙いすましたかのようにチラミが入ってきた、ツムリとスイープも前回に続き引き連れている。
そして発言通りに空にデザスター投票の中間発表画面を開くと…。
「おいおい、丸ごしなうえにダイヤモンドも怪しまれてるんじゃ流石に困るな…。…しょうがねえ桜井景和、このケケラ様がお前に相応しいシークレットミッションを与えてやる」

本人が呟いたが数日前にも景和を見ていたこのカエルの置物はケケラ
これは置物がアバターとして喋っているのか、それともこういう生物なのか、それは当人にしか分からない永遠の秘密。
ニンジャバックル無しじゃ困るからと、景和のサポーターであることを利用しシークレットミッションを用意する腹づもりだった。
「困るのはこっちだよ、ケケラ。もし景和君がデザスターなら、余計なアイテムを渡して欲しくない」
「推しの1人が不利なのは辛いですけど…でも、ルールなんで守らなきゃですし」

が、そこへ待ったを掛けるようにジーンとデジタルが現れる。迷惑なのはこっちだと。
そう、2人はサポーターとして知り合いである。ジーンの担当のデジタルもその縁で以前からケケラと知り合い。もちろん口が堅いので彼等のことを漏らすこともない
ただのオーディエンスではないからこその関係性とも言えた。
「あいつが?まさか…!」
「プレイヤーも担当ウマ娘達もそうは思ってないみたいだよ。タイクーンに7票入ってる」

そう言って中間発表の表示を見ると景和に7票。全員で10人でプレイヤーの担当ウマ娘も担当以外には投票可能な都合上、1人に集中する得票数は最大9票。
つまり、2人景和に入れていないということになる。
(ということは…トレーナーさんに入れてないのは浮世トレーナーとキタちゃんかな)
そう、ならばその2人はダイヤ的には英寿とキタサンだろうという朧げな確信があった。
そしてこの7票のなかに入れていたのは祢音とシュヴァルもだが、そうなる理由が実は2人にはあった。
「疑いを晴らさなきゃ、脱落はお前で決まりかもな?」
「頑張って、2人とも!」
しかし英寿はそれを匂わせないし、あくまで冷徹に振る舞ってみせていた。
キタサンはあくまで2人の応援に徹していた。
「そんな…!」
「そんなこと、ダイヤが絶対にさせません!」
(──必ず、トレーナーさんの無実を立証してみせる!)
これを聞いた景和は先程同様に動揺し、ダイヤは必ず景和がデザスターでないと証明してみせると堅く心に誓うのだった。
『なんか…あっちの数増えてない?5対5じゃないの?』
『ボールも2つに増えてる』

そんななか「ジャマーボール」の後半戦がスタート、心なしでもなんでもなく、ジャマトの数も使用するボールの数も増えていた。
「いろいろ増えてる…」
(正直、こんな状況でなかなか落ち着いて見れそうにないけど無視しちゃダメ、だもんね…)
さっきの今なのでダイヤは正直微妙に落ち着けていなかったが、1人乱れて場を悪くするのも忍びないという配慮からぐっと堪えていた。
『みんな、くれぐれもデザスターには気をつけてね』
「むっ!」
ただ大智はそれを知ってか知らずか景和を精神的に痛ぶるようなことをほざくので、柄にもなくすぐに怒りが顔に出かけてしまう。
「どうどう、抑えてダイヤちゃん!」
「私からもお願いだよぉ…」
「キタちゃんに…リッキーさんまで…分かりました」
が、幼馴染のキタサンが抑えたのはもちろん、大智と組んで景和を追い詰めたリッキーがわざわざ頭を下げてまでお願いしてくるので、わりとすぐに自身を落ち着けることに成功した。
『SET CREATION』 『『『『『SET』』』』』
「「「「変身!」」」」
『DEPLOYED POWERED SYSTEM』
『GIGANT HAMMER』
『BEAT(ZOMBIE)(MONSTER & NINZYA』)』
『『『『READY FIGHT』』』』
『ENTRY』
そうして5人は同時に変身する。
ただし、景和だけはIDコアとデザイアドライバーのみでの変身。
ニンジャバックルを大智に取られている都合上やむを得ないのだが、ケケラも心配した通りいかにも頼りなさそうな貧相さだった。
そして始まって早々にルークがボールを手に押し込み、ゴールへ向け発射。
これを見逃さなかったナッジスパロウ/大智がパンチングで方向を変えた
「ちょっと先生⁉︎」
「…わざとじゃないにしても、これは…」
が、そのボールが食堂のあるビルへ弾道を描き直撃。当然その部分が崩壊する。
わざとでないにしても、さっきの今でこのやらかしは正直誰の目にも印象が悪く映った。
『ぐっ⁉︎』
「トレーナーさん!」
(桜井トレーナー、自ら率先して…)

しかし、その崩れた部分が食堂の面々に当たることは決してなく。
というのは景和が身を挺して崩れた部分から窮地に陥った子どもたちを庇っていたからだ。
「俺は、大丈夫だから…さあ、奥へ逃げて!」
「トレーナーさん…立派ですぅ…っ!」
正直生身とそこまで大差ないエントリーフォームでどうにか今までの経験で成長した肉体と無理矢理合わせて、どうにか受け止められていたが流石に落ちてきた部分がデカかったので苦しさも普通にあった。
ダイヤもそんな景和を見て、その当たり前だが出すのが難しい勇気とそれに伴う苦痛を察して涙ぐんでしまう。
【SECRET MISSION CLEAR】
「えっ…? 子供たちを守ったから…?」
「やりました!」
「やったね、ダイヤちゃん!」



そして天もそれを見離さない。
この場合はケケラがだが、三人救助するのがシークレットミッションだったようで、景和はご褒美になにかのバックルを入手。
今回はブーストバックルじゃなく、コマンドバックルだった。
「フフフン!予定通り」
「桜井トレーナー推しなだけあって、あの人の長所をよく分かってますねえ」
「確かにタイクーン向きのミッションだな」

自室から見つめるケケラも心なしか満足そうで、推しの特徴をしっかりと把握したシークレットミッションの配置にジーンとデジタルも関心していた。
『皆(子供達)は…俺が守るッ!!』
『SET』
『GREAT』
『READY FIGHT』

ニンジャ以上にとびきりの武装手段と護衛手段を手に入れたなら、もう景和に迷うことはない。すぐさまレイジングフォームへチェンジ
「やああッ!!」
『ジャッ⁉︎』
そのまま直進。
手にしたレイジングソードでとにかくルークを手早く切りつけ攻め込む。
するとキャノンバックルのゲージが満タンになるのも自然と早かった。
ならば…やることも自ずと決まってくる。
「この形態になったってことは…ダイヤちゃん!」
「うん…トドメを決めるつもりなんだ、トレーナーさんは!」
キタサンとダイヤもこの後に景和がどういう行動に出るかは想像に容易かった。
二つ揃ったコマンドツインバックルで取る手段は一つ。
『TWIN SET』
『TAKE OFF COMPLETE JET AND CANNON』

そう、コマンドフォームへの変身である。一気呵成に攻め込むには少々オーバースペック感もあるが、今の景和にはそれがありがたかった。
ちなみに今回はコマンドフォームジェットモードに。先程以上に柔軟に動きルークを圧倒。
動きを繋いで空中へルークを打ち上げ…。
『せぇりゃあッ!!』
『ジャアアアッ⁉︎』
そのまま地上目掛けて叩き落とす。
超高度から叩き落とされたからかジャマトと言えど流石に苦しそうだ。
『これで……ッ!!??』
「あれは…!!」
『────君と一緒にしないでもらいたい』
『ッ⁉︎ 貴方は…!』

が、そんな時ほど油断大敵。
自分が追い込まれていると理解したからか、ルークが豪徳寺の姿に変わってしまった。
セリフ自体は聞き覚えや免疫はあれど、姿形まで豪徳寺のそれに限りなく迫られたものになられてしまっては今回は大丈夫だと踏んでいたはずの景和も手を止めてしまった。
「五十鈴先生が言ってたことってこれか…」
(…でも、にしては桜井トレーナーの反応が変だよね…)
(桜井の反応、ジャマトの知り合いにしてはおかしいような…)
一同が驚くなかダイヤとキタサン、そして意外にも冴とタルマエもこれを見て大智がでっち上げた嘘に疑問を初めて抱いていた。
『させないよ!』

景和が動揺する中、ボールを拾い上げ再びジャマトの姿になるルークに純粋にやらせるかと大智はニンジャの機能で分身しモンスターの膂力で一発複数の方向から殴り無力化しようと試みる。
『やめろ!』
「えっ、桜井トレーナー⁉︎」(タルマエ)
「トレーナーさん…」
(ダメな行動なのかもしれません…でも、責められません


…が景和は大智を払いのける。
正確には無自覚にルークを守ろうと、違うんだと言わんばかりに大智を攻撃、変身解除へと追い込んでしまった。
ダイヤとしてはこれを責められるはずもなかった。景和という男の性格をよく知っていればこそだ。
「ジャッ!」
【GOAL】

しかしだからとてジャマト側がそれを汲んでくれるわけはなく、容赦なくルークが長距離から放った一投により再び5点が加算されてしまった。
「ゴール、また決められちゃった…」
『ちょっと、何してんの⁉︎』
自身をはじめ思わず動きを止めるライダーたちのスキを突きボールを奪われゴールを決められてしまったうえに大智に対する若干の不信感か生まれてきていたとはいえ、明らかにプレイヤーを妨害した挙句に追加点を向こうに許してしまった景和に冴はもちろん、タルマエの心象も思わず少し悪くなってしまった。
『…マズいぞ。負け越したままタイムアップになれば、このエリアが消える』
「あっそうだ⁉︎ マズイよこの状況⁉︎」

プレイヤー側がゲームに負ければエリア丸ごと消し飛ばされるという事実がある以上、英寿もキタサンもこの現状を当たり前だが良いものとは捉えていなかった。
『そんな…』
「トレーナーさん…」
(私が、なんとかして差し上げないと…っ!)

景和は思わずやったことで却って状況や自身への心象を悪化させ、なんなら自身がデザスターでないと証明するチャンスもふいにしてしまったことに呆然としてしまう
ダイヤも先程以上に景和がデザスターではないことを証明せねばと意気込む…というよりは責任感を強く感じてしまうのだった。

