乖離Ⅱ:ブラボー!ジャマーボール対決!(ChapterⅢ)
名無しの気ぶり🦊

『怪しい態度だったライダーがいた。デザスターかもしれないし、警戒しておいたほうがいい』
『ジャマトと戦っている時に目撃したんですが、あれは怪しいです…』
その後折を見て冴とタルマエもデザイアグランプリからインタビューを受けていた。
その発言の中身が誰を指しているかはその最中には明かされなかったが、この内容に当てはまる者もそうはいないと言い切れる程度には関係者も限られていた。
「……」
(こういう時、安心させてやれるのは強いな)
(災害や非常時に惑う人達をすぐに勇気づけられる人…トレーナーさんもそうだけど素直に凄いって思えるよね)
閉じ込められた子供達と、エリア外から呼びかける親達が痛ましく映るゲームエリアの一角、こども食堂前。
景和とダイヤが子供達に食堂の中へ入るように言い、親達には 子供達は必ず守ると約束する。
その様子を英寿と、後からやってきたキタサンは見ていた。
「────お母さんのことが恋しいのかい?」
「心ここに在らずみたいな雰囲気でしたけど…」
そんな二人に話しかけるのはジーンとデジタル、それぞれの推しにそれぞれ異なる反応でそう語りかける。
「あっ、ジーンさんにデジタルさん」
「ハァ…ゲームに備えてイメージトレーニングをしていただけだ」
が、キタサンにはいつの間にかゲームエリアにいたことが、英寿にとっては未だ信用ならないこの男が馴れ馴れしくタイミングを見計らったのか見計らっていないのか分からないタイミングで現れたことのほうが気になった。
「デジタルに君の家族構成を見せてもらったんだけどさ…。浮世英寿の母親は浮世美歌、おかしいな…」
「君が捜してるお母さんってデザグラのナビゲーターのミツメじゃなかったっけ?」
そんな二人の疑問に気づくことはなく、ジーンはタブレット端末に英寿の小学校の入学式の際のものと思われる写真を表示させ、キタサンにとっては既知である質問を英寿にぶつけた。
この状況や疑問に合わせたように美歌の顔を陽光が覆い隠している。
「いや、それは「避せ、キタ」トレーナーさん…」
(やっぱりまだジーンさんを信用してないのかな…)
(あたしはもちろん、祢音さんやウィンさんに話した時の雰囲気も嘘をついてるとは思えなかったから、ほんとのことだと信じてるけど…)
当然知っている身としてはすぐさまその疑問に答えようとするが、英寿はそれを制止する。
キタサンには英寿なりに心を強く許しているので話すことに躊躇いもなく吝かでもなかった。
デジタルも情報通としては信用がおけるという印象なので仮に彼女一人に話すだけなら構いはしなかった。
が、ジーンに対してはその真逆に近いレベルの信用しか抱いていないので彼がデジタルのトレーナーであったとしてもそう易々と自らの出生に纏わる謎を開示してやるつもりはないのだった。
「揃いも揃って物好きなやつらだな」
「ファンなら推しのこと調べるのは当然でしょ」
ジーンとしては推し活しているつもりでしかないので、会話の上でも歯車はまだ噛み合わない。
「なんかすいません…この機会にお二人に関するあたしが収集した情報を整理してましたらつい目に入っちゃって」
その横でデジタルは申し訳なさそうにしている。というのも実のところ、ジーンがここに彼女を伴ってやってきたのは彼女が理由だったのだから止むなしというやつ。
「同じくその場にいたトレーナーさんもそれを見て動いた結果ってやつなんです…すいません!」
「あっいやいやそんな!」
なので推しへの精一杯の誠意と言わんばかりに、それをその全身で示すように顔をくしゃくしゃに歪めながら頭を下げ謝罪する。
ただ、元々デジタルに疑問は感じても苛立ちやストレスは感じていなかったキタサンとしては流石にそこまでしてもらうほどのことではないと感じたので身振り手振りですぐに頭を上げてくれるよう彼女に促していた。
「顔をあげてくれ。…だがジーン、お前は別だ。なんでジャマーエリアの中にいる? 」
「加えて世間には知られてないデザグラをなぜか楽しむオーディエンス…。お前らは何者だ?」
英寿も同様で、しかしジーンには変わらず辛辣というか厳しい態度で接する。
そもそもの話、ジーンも含めたオーディエンスの正体が疑問だった。キタサン・ダイヤ・シュヴァル・クラウン・アースら現代人が"特別"オーディエンスと呼ばれているからには、オーディエンスはまた違った存在なのではという疑問がかねてより胸のうちに巣食っていた。
「次元を旅する観光客とでも言っておこうかな」
「次元を旅する観光客、ですか…?」
しかしジーンは抽象的な発言でそれに反応を返すだけ。
「言葉通りの意味ではないですけど、だいたいそんな感じの意味合いなんです」
「また壮大ですね…」
(ただ、これ以上聞いてもボカされそうな気もする)
デジタルもこれには似た反応しか返さない。おまけに雰囲気的にこれ以上の情報は得られなさそうなのもまだジーンをよく知らないキタサンにも理解できた。
「…ただ者じゃないってことだけは分かったよ」
「君もね」
英寿も同様でこれ以上は時間の無駄と判断し早々に切り上げてサロンに戻ろうと判断した。
「そうですよね…分かりました。じゃあお二人とも、また! 行きましょう、トレーナーさん!」
「ああ」
キタサンももちろんそれに続き、明るい挨拶と共にその場を後にした。
「ますます目が離せないな~、英寿君!」
「キタさんも今後の活躍が楽しみで仕方ないですよぅ!」
そんな二人をジーンとデジタルは、当然だが一方的に極めて微笑ましく温かく見つめていたのだった。
「────冴さん、シュヴァルちゃん、タルマエちゃん、練習に付き合ってくれてありがとう♪」
「知っての通りスポーツをやるのも得意だし、下の子に教えるのにも慣れてるから」

それから少しのち時間帯にして夕刻少し前。
冴・タルマエ・シュヴァルが祢音のコーチとなり、仮想ジャマトを相手にしたバスケットボールの練習。
冴やシュヴァル的にはパスしやすい位置取りが重要だと睨み、祢音に指導していた
そして発言の通り、冴は年下に教えるのは慣れていた。年こそ大きく離れているが弟や妹がいて、そして年下の担当がいてその誰もに指導した経験があったためである。
「祢音ちゃんの頼みなら…うん、喜んで手伝うよ、いつでも。それに…僕も下の子に対する指導経験はあるから…」
シュヴァルは冴のように長女ではなく次女だが、下に仲のいい妹がいて球技の指導経験があるという点では祢音にアドバイスできることはあった。
何より自分の数少ない親友で幼馴染の頼みなら余程でないかぎりは助けになりたかったので、こうして祢音に指導を行っている。
「私個人としては祢音さんと仲良くしたいですし、私もちびっ子に苫小牧やダートレースでの走りかたを教えたことが何度かありますから」
タルマエは祢音同様に一人っ子だったが、ロコドルの仕事柄他所に出向いて幼子も含めた赤の他人に対してアスリートとして指導した経験ならば幾度とてあったので祢音に教えることも然程難しくはなかった。
「シュヴァルちゃんは分かるけど下の子、ちびっ子?」
「妹と弟がいてね。みんな、スポーツやってて」
「私のちびっ子への指導経験は地方巡業にトレーナーさんと出向いた際のそれですね」
「へえ~!」
ちなみにバスケの練習場所はデザイア神殿に常設されているいつものらくがき広場…に見せたシミュレーションルーム。
言ってしまえばARウマレーターとでも言うべき機能を搭載した部屋がデザイア神殿には幾つもあった。以前に英寿がキタサン・祢音・シュヴァルと練習した部屋もその一つ。
そして冴は意外と話してみるとフレンドリー。
突っ走っていくのが信条の人かなと祢音は今まで思っていたが、そういうコツとか理論的な部分も心得ているようで。美人で面倒見も良く、強くて賢い。さながら指導者たる女性としては完璧に近いと言い表しても差し支えはないほど。
芝とダート・中央と地方の違いや冴が現役トップアスリートでありながらトレーナーも熟す超人じみた人間ということもあってトレセンで意外と直接触れ合う機会は無かったこともあって余計にそう祢音とシュヴァルは感じた。
「仲いい姉妹や姉弟って…いいな♪ もちろん見ず知らずの子と仲良くできる子も。私、ずっと一人っ子だし箱庭育ちだったから…」
「…私にも教えて、冴お姉ちゃん、シュヴァルお姉ちゃん、タルマエ先生っ♪」
何より、こうやって家の外で気の合う誰かと触れ合える時間が祢音にはいつもいつも堪らなく楽しく愛おしかった。
本人が表向き意外とさっぱりとしたキャラで通している部分もあるがゆえに。
「「うっ⁉︎」」
((か、可愛い〜…!))
「さすがネコ、甘え上手ね」
「ニャンニャン!」
だからこそ甘えてしまうし、祢音という甘え上手で可愛い子にそう接せられてはシュヴァルやタルマエ、冴でなくてもその頼みを聞く気になってしまうというものだった。
(ダイヤモンドくんとリッキーさんは行ったか…よし)
「…さっきのゲーム、様子が変だったけど、心配事があるなら話してみたら?」
「実は…前に退場した人と同じ言葉をジャマトが…。ていうか前にも同じことがあって…」

同じ頃、こっちは男同士で密会…というのは冗談で景和は、ジャマト、この場合はあのルークが退場者の言葉を話していた事について大智の先導により彼に話していた。今回だけじゃなく、前にもあったとも。
自らの頼みでリッキーがダイヤを自然体を装って連れ出してくれたことも含めて、大智としては願ったり叶ったりだった。
というのはある企みがあったから。
「そもそも脱落者は元の生活に戻れるのに、退場者は戻れないのはなぜか。…君の話が本当なら、ジャマトは退場した人たちの成れの果てかもしれない」
「そんな…」
話していること自体はあくまで本心だが、大智にはこれを利用して景和を今度の投票で脱落させてやろうという魂胆があった。
リッキーもなんとなくだが察しており、心は痛むがルールに従わないわけにもいかず、また自らの指導者に勝ってほしいという気持ちも確かにあったので、この場からダイヤを連れ出すことも了承したのだった。
「────トレーナーさん、どうかされましたか?」
「ううん、なんでも。ダイヤちゃん、この後何か食べたいものとかある?」
「私ですか? そうですね…」

それから数分後、大智との会話を終えた景和はある理由から自らを心配してくれるダイヤに申し訳なさを抱きながらも話を逸らしていた。
『皆が動揺するといけないから、このことは秘密に』
(あれを信じるならダイヤちゃんにも共有しちゃいけないことだし…ごめんね、ダイヤちゃん…)

というのは大智に黙っているように言われたから。初めて聴くことながら信憑性に溢れているように思えた大智の仮説をまあ信じてしまった景和は、そのままそれを黙っているようにという頼みも素直に聞き入れてしまったのである。
「理由は分かるけど…先生ってば、な〜んか悪い顔してるよっ」
「そうかい? だとしたらそれは君の目の錯覚に過ぎないと言っておくよ」
(仕込みは上々、この後が楽しみだ…)

同じタイミングに自らのスペースで風呂に入りにいく準備をしていた大智は策が上手く決まっている現状に思わず顔を緩ませてしまう。
このままで行けば景和は間違いなく脱落するのは目に見えていたから。
「仲間を守ったんだって、ルーク?」
「ジャマトを救うのが俺の使命」
「上出来だ」

それより何時間か前、祢音達が練習を行っていたころジャマーガーデンではアルキメデルが先のミッション前半戦でプレイヤー側を上手く翻弄したことを褒めていた。
「…気味が悪いったらありゃしねえ」
「────! これは…俺のIDコア!」

死者の顔でそれを喜ぶジャマトにもそれを無視して褒めるアルキメデルにも薄気味悪さを感じて仕方なかった道長は、そんな折ひび割れたバッファの、つまり自身のIDコアを見つけた
「ジャ…」
「追っ手か⁉︎」

ならばデザイアグランプリに戻れるかも、あの時やむなしに別れてしまった担当の無事を確認できるかもなどと一縷の希望を抱き密かにジャマーガーデンから逃げ出すも、辺りをランダムに巡回していたジャマトライダーが行く手を阻む。
「くっ!」
「グゥッ⁉︎…ぁガッ!!??」

この状況を邪魔するように苦痛が走る
ドライバーを装着するがひび割れたIDコアの影響からかエラーを吐いていた。
「はあっはあっ…何でだよ⁉︎ おい、動け!!」

その間もジャマトライダーはゆっくり、されど確実にこちらに歩みを進めてくる。
このままでは容易く手折られるは必定。
そう思えばこそ古い知識に頼るように、初期のテレビを叩いて直すように、とにかくデザイアドライバーを叩きまくった。
「動けええええぇーッ!!! 」
『ENTRY』



結果、どうにか起動。
なんとかバッファに変身したがIDコアの状態の影響か複眼が半分光を失っている。
「──ジャッ!」
「ぅぎっ⁉︎」

そしてその影響はスーツにも出ており、変身は出来たけれど端的に言ってボッコボコ。
なまじ今の道長が瀕死の重傷からどうにか復活して1日といった状況かつバックル未装着なのも相まって、赤子の手を捻るようにとまでは行かずとも、とにかくこちらの攻撃は通用しないまま向こうに打ちのめされる状況が戦闘開始から数秒で築かれてしまっている。
バックルのないライダーはやはり、ジャマトライダーと戦うにはきついとも。
意識だって既に飛びかけていた。
『──食うために働くのは人間の宿命ってか?俺はいつでも夢もってたいけどね』
『生まれ育った故郷に、でっかいランドマーク、建てるんだよ!』
『────こんなはずじゃなかったんだ…デザイアグランプリで…』
「…ッ、ああァアアーーーッ!!!!!」
(透のためにも……こんなところで…終われるかあ!!!)






が、そこに走馬灯のようにまず過った唯一無二にして尊敬に値する親友の理想、そしてそれを追いかけた末にはあまりに見合わない無惨な彼の最後がひとまず歯止めをかける。
すかさず無我夢中で学生時代を思い出し繰り出した腕ひしぎ逆十字でミシッという効果音さえ聞こえるかのように勢いよく力強くジャマトライダーの右腕をへし折った。
「オラオラァッ!!」
「ジャッ…⁉︎」

そこから馬乗りになり執拗に殴り続け、どうにかジャマトライダーを撃破した。
泥臭いに尽きる一戦だった。
「はあっはあっ…ぃげっ…!」
「⁉︎ 追加か…ならッ!」

しかし、現状はまだ余談を許さない。
息も絶え絶えに吐き気にさえ襲われながら一歩を踏み出してみれば、同じタイミングですぐに別のジャマトライダーが2体現れた。
思えばここはジャマーガーデン、すなわちジャマトの一つの故郷で本拠地。
いくらでも追加を想定できる環境。
本来はいちいちまともに戦っていたらキリがないような状況。
「ああーーーーーっ···!あぁぁっ!ああっ、がぁっ!はぁ、はぁ···」
『JYAMATO』
「ああぁアアーーーーーーーッ!!!!!」





だがそうも言っていられない。黙っていれば死ぬだけ。ならばやることは十数秒前と変わらない。
依然戦うつもりの道長は、倒したジャマトライダーのドライバーからジャマトバックルを取り外し自らのドライバーに装填、苦しみながら変身
(ヅッ⁉︎ …キツい!!)
当然、死にかけにはまあ容易くキツく感じるレベルに先程より格段の苦痛が道長を襲うが…
(──だが!!)
『──人生、怖いものを怖いままにしたら、得られないものがある。…だから、今ここで挑みたいの』
(────あいつの不屈の冒険心が…)

今度はかつての自らのビジネスパートナーとの想い出が。
『袖を通したからには半端な勝負はできません。私に期待してくれる、全ての方々のために』
『──── そして、さらに強くなるわ。志を1つにして、私のことを理解してくれる。
そんな、貴方と一緒に────!』
(俺の担当の俺への信頼が…)

本当に柄にもなく、一目惚れなどというおよそ自分にあるまじき現象から結びつくことになったあるウマ娘との奮起の日々が。
『──舞台の上でひしひしと感じたの。そんなの受けたら…起こすしかないじゃない?』
『不可能を可能にする逆転劇を────!』
(俺の愛バの諦めない意思が!)

こうと定めた目標への容赦のなさ、執念の注ぎっぷり、そして逆境への熱いチャレンジャー精神や反骨精神は互いに見習うところがあるとさえ思える程度には似ているある大資産家の一族出身の娘の闘志が
『ミッチー…いえ吾妻道長様。今日のお祝いも、これまでも……そしてこれからも…好多謝你。────枯れることのない感謝を、貴方に』
(──サトノクラウンの期待と感謝が!)

そう、もう永劫変わらないとさえ思えるほどに積み重ね蓄積され醸成されたクラウンの自分への信頼が。
『────駄目、駄目よ…死んじゃ嫌だよお、ミッチーぃッ!!!』


…彼女が自分の命の瀬戸際に見せた、年相応どころか不相応な幼ささえ見えたほどの泣き腫らした顔が、枯れそうなほどに張り上げた細く高い悲鳴が
(…そして、涙が…透の死と同じぐらい、どうしようもなく脳裏に焼き付いてる)
(だから────死んでたまるかぁッ!!」
自分の親友の理想や最期と同じくらいには根付き、そして今脳裏に顔を見せたならば耐えられない道理はなく。
フォームチェンジはどうにか完了した。
「ガァアッ!!」
「「ジャア…ッ⁉︎」」


そのまま蔓を出鱈目に前方目掛けて伸ばす。
当然蔓は同方向にいたジャマトライダー2体をいとも容易く貫通し、撃破。
餅は餅屋、ジャマトにはジャマトの力といった具合だった。
「はあっはあっ…」
代償に先程よりともすれば麻痺した体で道長は苦悶しながら変身を解除し、先へと進んでいく。
この先に行けばきっとジャマーガーデンを抜け出せると。
「ぐっ………! これは…!」
「やれやれ…。どこにも居場所なんかなーいよー♪」




────が、そんなことはなく。
開けた場所に出たかと思えば、そこに広がって見えたのは見慣れない山間の景色。
ここから抜け出すには一筋縄ではいかないと早くも再認識させられ、そんな道長をアルキメデルが呆れながら陰から見つめていた。
「ッ⁉︎」
「哎呀、大吃一惊(ああ、たまげた)…ミッチーが作ってくれたストラップに大きなヒビが…まさかミッチーに何かが⁉︎」

それより少し前、道長がジャマト相手に死闘を繰り広げていた最中、ベロバに面会するためのニラムを介した手続きの完了を待ち侘びながら日課のトレーニングに勤しんでいたクラウンは、手にしていたiPhoneに付けていた道長お手製の自身のそれに似た王冠を被った牛のストラップに大きな亀裂が奔ったのを見逃さなかった。
転じて、自分のトレーナーである彼の身に何かあったのかと無自覚な予言めいた反応もしてみせる。
「……いえ、そんなことないわよ!」
(もう少し時間は掛かるけど必ず貴方に辿り着く…だからそれまでどうか無事でいて、ミッチー!!)

が、それも数秒の出来事。
道長の無事を信じればこそ、今こうして彼に辿り着くためにいろいろな手続きを踏んで少しづつ近づいていっている。
ならばそんな自分が、サトノクラウンというウマ娘が、彼の生涯のビジネスパートナーが彼の無事を誰よりも信じないで何とするのか。
そう軽く奮い立ち、クラウンはトレーニングに戻っていくのだった。

