乖離Ⅱ:ブラボー!ジャマーボール対決!(ChapterⅡ)

乖離Ⅱ:ブラボー!ジャマーボール対決!(ChapterⅡ)

名無しの気ぶり🦊


「あら、景和くんじゃない! ちょっと痩せた?」

「食べてますよ。皆、大きくなりましたね」

「うん。皆、本当お兄ちゃん、お姉ちゃんになっちゃって…!」


やはり同じ頃、景和とダイヤは件のこども食堂を訪れていた。

出迎えているのは家主で経営者の大田原まみ、かつてのサトノグループ所属のメイド長である。

そして口ぶりから分かるように、景和とは彼が小さい頃からの知り合いだ。


「それにおじょ、ゴホン!ダイヤモンドさんも昨年に相変わらず元気そうで!」

「サトノ家本邸で私をお世話してくださっていた頃みたいに素直にお嬢様やダイヤ様って呼んでくださらないんですね…寂しいです」



もちろん、ダイヤとも。

サトノグループ所属のメイド長であったからには、ダイヤやクラウン始め、同グループの血族の者の世話を長きに渡って特に行っていた役職ということで。

ダイヤもその縁でよく可愛がってもらい、だからか第二の母のように、祖母のようにまみを慕っていた。


「ふふ、毎年様式美ですね」


ちなみにこのやり取りも様式美である。


「とはいえサエにお嬢様・クラウン様のお世話や指導を託し、その数年前から始めた児童施設の経営に本格的に打ち込んでやはり数年、老体は未来ある子供達の面倒を見るので忙しいですから」


チーム・カペラの牽引や次代のサトノグループの担い手の家庭での育成をサエに任せて、それより前から始めていたこども食堂の経営にかかりっきりになって数年。

全盛期よりは身体能力もスキルも衰えを見せ、されど彼女の人徳や評判を信じてやってくる子、訳もわからず流れ着く子はまだまだ後を絶たず。

だからこそそれにあくまで経営者として打ち込む自分は、かつてメイド長ゆえにダイヤと濃い縁があった時期のそれで振る舞うのはダイヤやクラウンが望んでいない限りは止そうと彼女なりに考えているのである。


「ですね、もちろん冗談ですっ♪」

「まみさんも昨年から変わらずお元気そうで何よりです」


ダイヤもそれはもちろん理解しているからか早々にこの流れを打ち切り、自らのかつての保護者のような彼女の今年の無事を寿いだ。


「ありがとうございます」

「お嬢様も景和くんとサエの指導で徐々に凱旋門賞で崩された調子を取り戻されていると伺っています。一時期は酷く心配しましたが何よりです」


まみもそれを嬉しく思い、またサエや景和づてで入ってきていたダイヤのこの数ヶ月の不調、正確にはピークアウトを迎えたがゆえのそれに向き合えている彼女に心から安堵した。

一時期はそれでちびっ子達に心配されたほどだ。


「いえいえ…とはいえ、同時期に私にも発覚したピークアウトのせいで以前より衰えていっている自覚もあります…」

「なので今は春先のレースから復帰しようと二人で決めて、合間合間にボランティアとかを以前よりも手伝ってもらってるって感じです」


またダイヤ本人は、景和やサエと打ち合わせ春先のレースを目処に復帰する予定でトレーニングを行っており、その間に空いた時間があれば予定が合い次第景和の私事を手伝っているという塩梅である。

キタサンの引退レースに触発された結果のそれだった。


「だから今日も二人して来ているってところです」

「陸くんが今日、あの神山先生の養子になるとトレーナーさんからお聞きした時は本当に嬉しく思いました♪」


ちなみに今日はこの食堂預かりの陸という少年が飛羽真の養子になる日である。

景和もダイヤも以前から陸をよく知り、またファンタジック本屋かみやまの家事以降は自分達やまみにしか口を開かなくなってしまったことも知っていればこそ、それを踏まえて彼の身元を引き受けてくれる者が自分達の知り合いに現れたことが嬉しかった。


「はい、また一人ここを離れて幸せになる子が増え嬉しさ半分寂しさ半分といったところです」


まみとしてはこういうケースが発生するたびに言い表しきれない嬉しさ、そしてそれと同じぐらいの寂しさが胸のうちに去来していた。


「身寄りのない子の成人までの、はたまた仮初の宿木として過ごしてもらえるようにサトノグループ系列の児童施設として始めたこの施設の本懐がまた一つ果たされた…といった具合ですから」


元々、大田原まみという人間は孤児から様々な人間やウマ娘の支援を都度都度集め道を切り開き、果ては天下の大グループの次代の担い手のお世話係にまで上り詰めた人物だ。

…だからか自らと同じように孤児である者、そうでなくとも時間や精神的な面で孤独を抱えた幼子の面倒を見たいと始めたこのこども食堂。

そこから巣立つ者が現れるということはそうした感情を彼女に抱かせるにはいつもいつも十分すぎた。


「俺と姉ちゃんもそうやって姉ちゃんの成人まではここでお世話になってましたもんね…」


ちなみに景和と沙羅もここの出身である。

ジャマトにより両親を失ってしばらくはそれをたまたま見かねたまみの意志のもと面倒をそれはもう愛情たっぷりに受けていた。


「私も、この施設の存在を知ってからクラちゃん共々まみさんに無理を言って何度か連れてきてもらって手伝わせてもらったのも懐かしい想い出です♪」


ダイヤはというと、この食堂の存在を知ってからはまみが引退するまでに何度かクラウン共々彼女に頼み込んで手伝ったことがあり、その意味でこの食堂そのものに対する愛着が深かった。


「そうですね…景和くんや沙羅ちゃん始めとした子供達、それにお嬢様達との想い出も少なからず詰まったこの場所、ずっと守っていきたいです!」


そんないろいろな関係者の優しさや嬉しさが幾重にも連なるように今なお目には見えずとも残るこの施設を、だからこそまみは自らの生が続くかぎり、もちろん可能であれば彼女亡き後も意思を引き継いだ者達の手で続けていきたいと考えている。


「俺やダイヤちゃん、姉ちゃんで良ければいつでも力になるんで頼ってくださいね」

 「今日も臨時で私払いで食材や衣服を追加で持ってこさせていただきました♪」


景和もダイヤもゆえにこそ、もちろん沙羅もこの食堂を陰ながら支えることに躊躇いはまるで無かった。


「ありがとうございます…っ、何⁉︎」


────そんな二人の発言にまみが礼を述べた直後、轟音が近くから響いてきた。


「「「「「「「「「「「⁉︎」」」」」」」」」」

「爆発⁉︎ ちょっと見てきます!」


混乱する一同をよそに外に駆け出す景和とダイヤ。二人にはこの衝撃の原因となっているだろう存在に心当たりがもちろんあった。


「────ジャマト!」

「しかもジャマトライダーですか…」


そう、ジャマトである。

とりわけジャマトライダーともなればこれほどの衝撃を伴う何らかのアクションを一帯に働くことも容易なことはこれまでの経験で身に染みて分かっていた。


「ジャアア…」

「私はまみさんと子供達を避難させます、ですのでトレーナーさんは存分に!」


明らかに敵意を剥き出しにするジャマトライダーを見れば、ダイヤが食堂の者達を避難させようと考え実行し始めるのに掛かる間など無く。


「りょおかいッ…!」『SET』

「変身!」

『NINJYA』

『READY FIGHT』


それと並行して彼女から受けた声援を力に、子供達を守るという想いを胸のうちの原動力に景和は今日もまた、仮面ライダータイクーンに変身を遂げた。


「あっ…景和兄ちゃんがなんかすごいのに変わった…!」

「前に出ちゃダメですよ、陸くん!」


「皆、逃げて!」


すると目撃した陸に驚かれる。

見られたけど大丈夫か? デザグラ自体が知られたわけじゃないからいいのか?

そういった疑問はデザイアグランプリが勝手に解決してくれるので無問題。

…とはいえこの少年の記憶に関してはかつてから付き纏う名もなき"何か"があるかぎりはその例に収まるものではないかもしれないが。


「────ジャッ!!」

「うわッ、いきなり何!!?? というかゴールって…⁉︎」


そんななかいきなりボールを持ちだしてくるのはルーク、今回のジャマトライダーを率いているのもこいつだった。

そんなルークは景和がジャマトライダーと向き合い向かった瞬間を見逃さずいきなりゴール。


「もしやデザイアグランプリのミッションでしょうか…?」


ボールが空に設けられた穴らしき何かに投げ込まれると空中にホログラムのゴールポストが現れる。


「ジャマトが現れたわ。これから第2回戦、ジャマーボールを始めるわよっ!」


その実態は同じ頃デザイア神殿にて流れていたスイープとツムリの説明により明かされる。


「ライダーとジャマトの陣地に別れ、5人チームでボールを奪い合います。ゲームは前半、後半の2回。それまでに相手陣地のゴールにボールを入れ、得点が多かったチームの勝利です」


今回のミッションがこういった仕様のため、空中にゴールポイントが設けられているというわけである。


「お願いダイヤちゃん、トレーナーさんが間に合うまで桜井トレーナーと一緒に無事でいて…」


そしてモニタールームにはゲームエリアがいつも通り様々なカットから映されており、なればこそダイヤがその中にいることはキタサンはもちろん、シュヴァルやリッキーやタルマエにも見て取れた。

だからか、画面上に映る自分の幼馴染が自分のトレーナーが辿り着くまで景和に守られていることをキタサンは切に望むのだった。


『要はドリブルがない、足が使えるバスケみたいなものか』

「先生ってたまに変な例えするよね…解説は教師陣の仲でも上手いほうなのに」


大智のそれは上手い例えになっていないが、移動しながら行うのは間違っていない。


『じゃあ、今回は仲良く団体戦ってことね』

「要は祢音ちゃんの言うようにチーム戦ってことですよね、リッキーさん…」

「うん、そんな感じだよねっ⭐︎」


そしてそれをプレイヤー陣という集団でチームのように動いて行うというわけである。

なので数日プレイヤー全員に寝食を共にさせるのにはこれに対する精神的な慣れという側面もあった。


「はい。ただしゲームに負けたら、ジャマーエリア内の街は滅び人々は助かりませんので、ご注意ください」


無論、ゲームに勝てなければ今まで同様そこにいた人々も消え去ってしまう。

そこは依然として変わらない。


「…来た時から思ってましたけど、アイドル顔負けの美人顔でわりと物騒なこと言いますね、ツムリさん…」

「仕事ですので♪」


タルマエはこのノリを見るのは初めてなので、ツムリのどこか現代人離れした感性に未だ怖さを抱いていた。


「こんなもん、ナビゲーターとしちゃ日常茶飯事よ」

「スイープちゃんまで…」


トレセンではタルマエが見慣れたはずのスイープも、サブナビゲーターとして振る舞っているのを見るのはやはり初めてなので変わらず混乱していた。


「あっ同時変身だ!」

「っていけないいけないロコドルらしくない、何より今はトレーナーさんの活躍に集中っ!」


しかしそれに気を取られているわけにもいかず、そこにキタサンがあげた同時変身への黄色い声に似た歓声が聞こえたので、これ幸いと意識を切り替えた。


『SET CREATION』 『『『SET』』』

『『『『変身!』』』』

『DEPLOYED POWERED SYSTEM』

『GIGANT HAMMER』 

『BEAT(ZOMBIE)(MONSTER)』

『『『『READY FIGHT』』』』


ギーツパワードビルダーブーストフォーム・ナーゴビートフォーム・ロポゾンビフォーム・ナッジスパロウモンスターフォームが前ミッションに引き続きミッション開始タイミングで並び立った瞬間だった。


『────そらっ!!』

『ジャッ…!』


そのまま今度はライダー側の攻撃、まずはギーツ/英寿が先陣を切る。


「開幕からハイライト、ギガントハンマーで一閃!ですね!」


今回は初手から使用しているギガントハンマーで自分が相対している個体のジャマトライダーをぶっ飛ばす。


『私達も!』

『うん!』


残りの3人はそれを横目にジャマト側の陣地へ向かう。


「役割分担…だね」

「適材適所、風水にも通じる理念だね!」


数秒後に英寿も景和にボールを渡して敵地へ。…景和はゴール前でディフェンスかと思いきやとりあえずロポ/冴にパス。

冴はそのままジャマトライダーを躱し、ナッジスパロウ/大智にパス。前回のような独断専行は今回していなかった

直後大智はジャマトライダーのツタの壁に阻まれるが…上空の英寿にパスする。

英寿は そのまま空中で冴にパス。

冴はキャッチすると、ジャマトライダーの顔面に投げつけリバウンドでキャッチし、ナーゴ/祢音へ。


『ジャッ!』

『わわっ⁉︎』

(ここで妨害ぃ⁉︎)


しかし祢音はルークに仕掛けてこられてボールを落としてしまう。祢音の動きを見越していたのか手早い妨害だった。


「…このジャマト、今までの個体よりアスリート向きのやつなのか、それも球技系の…」

「祢音さんの邪魔になるポイントを明確に分かった感じだったもんね…」


ボール系の競技全般ではないが投球という意味で近いものがある野球にトレセンはもちろんこの場では一番詳しいシュヴァルからすればそう見えたはず。側で見ていたキタサンも似たことを感じていた。


しかし、英寿がジャマトライダーに取られる前にキャッチ。時同じくしてルークとの挟み撃ちに合うが、躊躇わず冴にパスを出す。


(ここしかない!)

「────せいっ!!」


それを受け取る冴の動きも澱みなく、ゴールポイントだけを見据え投球、そして────。


『GOAL』

見事、ゴールに叩き込むことに成功した。


「グッジョブです、トレーナーさんっ!」

「今回は我那覇トレーナーのゴールかあ…先生も頑張って!」


タルマエも思わず顔を綻ばせる。リッキーは自分の担当のゴールでないことに一瞬気落ちするも、すぐに切り替えていた。


「ってあれ…なんでこの点数?」

『えっ、3点…?』


しかし一同は揃って点数に疑問を抱く。

というのはジャマトは先の先制ゴールで5点先取し、冴のゴールの決め方はそれに近かったにも関わらず3点というカウントだったから。


『近距離からは3点、遠距離ラインからのゴールなら5点になります』

『だからさっきのジャマトライダーのゴールは5点判定よ』


すぐさま入ったツムリとスイープの解説によれば距離ごとで点数が2種類に仕分けされているらしい。

ジャマトライダーは長距離から決めたので5点というわけだ。


「開幕からジャマトに点数でも先制されてたんだ…」

 

先に説明してほしかったこと以上に開幕からなかなかに覆せないゴールの決め方をされていたことのほうがキタサンにはショックだった。


その間にあるジャマトライダー(Aと呼称)はツタでビルの壁面を切り取って英寿に投げつけてくる。その隙に別のジャマトライダー(B)にパス。


『ジャッ!』

『くっ!』


パスを受け取ったジャマトライダーは、こども食堂の前。景和は近づかせまいと攻撃を仕掛ける。


『トレーナーさん、お気をつけて…!』

「「あっ、ダイヤちゃん(さん)!」」

(無事で良かったあ〜…!)


見守るダイヤにキタサンとシュヴァルが気づき、その無事に安堵するなか景和はジャマトライダーBと依然懸命に戦う。


『…』

『新手か!』


「前々回のラスボスジャマト…桜井トレーナー、気をつけて…!」


そんな景和の前に今回のルークがジャマトライダーを庇うようにして割り込み現れた


『────消防士なんでね。つい人命救助を優先してしまう』

『えっ…消防士? …まさか』


────そのセリフを聞き逃すはずも忘れるはずも無かった。

そう、そのセリフは…


『あの発言は確か…トレーナーさんを初めて助けてくださって間もなく殉死されたという…⁉︎』

(…もしこのジャマトがそうなら、いったいなぜ今になって…というかジャマトだったなんて情報は無かったはず…これは…)


かつて景和と祢音を助けた豪徳寺というプレイヤー、彼が口にしていたもの。

それに加えジャマト側の事情を知らない景和やダイヤからすればただただ信用と疑問を行き来させ、その歩みを止めさせるものでしかない。


「豪徳寺さんのセリフ…」

「…キタちゃんのお知り合いの人?」


キタサンも助けられたわけではないがあの現場にいた手前、豪徳寺がそう言っていたことは記憶に刻まれている。


「リッキーさん…はい。あの時に亡くなられたはずなのにいつの間にジャマトに…」

(そもそもほんとに本人なの…?)

 

しかし直感というべきか、朧げながらはたしてこのジャマトは豪徳寺ではないのではないかという考えがキタサンの頭には浮かんでいた。


『……フッ!』

『あっ⁉︎』


しかし先ほどの言葉が気にかかり、集中力を欠き思わず動きを止めた景和をルークは見逃さずゴール目掛けてボールを投球。


【GOAL】


見事にゴールを決めてしまった。


「あっ、しまった⁉︎」

「これでまた5点追加で、つまり7点差…まずいな…」


長距離ゴールだったので、つまるところ10点。プレイヤー側より7点上回っている状況で、要はマズい。


『ん…?どうした…』

(それにあれはダイヤモンドさん…なるほど、ボランティアの真っ最中だったのか)

(…にしても、デザスター炙りに使えそうな現象かもしれないな、これは)


そんななか、大智がタイクーンの様子がおかしいことに気づく

ジャマトの前で動けなくなってるところを、めんどくさいやつに見られてしまった景和だった。



『前半戦、終了か』

「もうそんな時間…後半に期待してます、トレーナーさんっ!」


ただこの少し後に英寿が長距離から得点し、ジャマトチームの2点リードに抑えて前半戦が終了した。

つまり景和はまったく役に立たないまま前半戦終了となってしまったのであった。

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