乖離Ⅱ:ブラボー!ジャマーボール対決!(ChapterⅠ)

乖離Ⅱ:ブラボー!ジャマーボール対決!(ChapterⅠ)

名無しの気ぶり🦊

【デザイアグランプリが生まれ変わりましたが】


「────このゲームにオーディエンスがいたことは想像はついていた」

「…が、問題は今回から加わった新ルール、プレイヤーの中に、デザスターと呼ばれる、裏切り者がいる…というほうだ」


【キタサンブラック様も同様の考えですか?】


「はい! このルール一つで皆さんの疑心暗鬼をわりと誘発してますからね…」

「あたし達担当ウマ娘はあくまで自分達のトレーナーであるプレイヤーのお助け役。ですからこの疑いとは無関係なぶん、余計にそう感じます」


学園ゲームののち英寿とキタサンはツムリとスイープの案内のもと、デザイア神殿内の一室にてデザイアグランプリ運営スタッフによるインタビューを受けていた。

形式はプレイヤーの眼前に提示される文章に合わせて答えていくというもの。

つまりスタッフがその姿を見せたわけではなく、どこかからプレイヤー側を中継して彼らにコーナー進行に関する指示を出すということだ。

守秘義務が徹底しているようで、スタッフの姿さえ見せないという意味では単にプレイヤーを信用していないだけともプレイヤーの側からは取れるような仕様だった。


「ちなみに…あたしはクラちゃんに教わるまでオーディエンスの皆さんがいることも知りませんでした。えへへ、お恥ずかしいかぎりです♪」


二人がこう述べているようにキタサンは気づいていなかったが、英寿はオーディエンスが存在していたことについては想像が ついてたらしい。

とはいえそれは特にさほど気に留めるべき事項ではなく、問題視しているのもオーディエンス云々よりもデザスターのルールのほう。

このルールに秘められた答えを見抜けるかが、今回のシーズンでデザ神に至れるかを決める一つの要因であると言っても過言ではないのだから。


【お二人からカメラの向こうのオーディエンスへ一言】



『────さあ、オーディエンスの皆は誰がデザスターか見抜けるかな?』

『もちろん、今シーズンのあたし達のハイライトにもご期待ください!』


 と、英寿は不敵な笑みで、キタサンは自信とオーディエンスへの感謝に満ちた笑みで、画面の前の顔も知らない大勢の視聴者へそう語りかける

英寿がデザスターだなんて当人も担当ウマ娘も微塵も思っていないとよく分かるような気力に満ち満ちた笑みだった。


「…これ、景和とダイヤちゃんの手作り⁉︎」

「…すごく、美味しそうです…流石桜井トレーナーにダイヤさん…!」


それから日は明けて次の日、時間帯は朝。

朝食を景和とダイヤが作って 皆に振舞っている。

手っ取り早く仲を深めたり周りの人となりを知るには自分達ならこうだろうと二人して昨晩のうちに協議した結果のそれだった。

実際、祢音とシュヴァルが食いついているので早くも効果は少しありといったところ。


「お褒めの言葉ありがとうございます♪」

「そう言ってもらえるとダイヤちゃんも俺も嬉しい」


二人も素直に驚かれて当然だが悪い気はまるでしなかった。


「作ってくれたことは助かるけど…まさか下剤とか入れてないでしょうね?」

「もちろん、桜井トレーナー以外の皆さんもです!」


その一方でこの状況だからか冴とタルマエは、不正が食事に働かれていないかを気にしてしまっている。

全身にうっすらと不安という鎧を纏っているかのようなそれだった。


「えー酷いよタルマエ! 騙すにしてもそんなことは私ならしないかな」

「ナンセンス、仮にやったとして手口が分かりやすくせこせこしているよ」


リッキーも大智も、自分達がデザスターだったとしてそんな姑息なやり方でやるものかと軽く反論。

やはり自分達がデザスターだと微塵も疑っていなかった。


「そんなことするわけないでしょ」

「今はある種の非常時ですが、だからこそトレーナーさんと私はあくまで冷静に、プレイヤーの皆さんの迷惑にならないよう行動したいと考えていますので」


景和とダイヤも、もちろん他意があって行ったわけではないというふうに釘を刺す。

というか、この二人に限れば自分から誰かを貶めるというやり口は間違ってもやらないのでそもそもがお門違いである。


「むぐむぐ…ゴックン! ダイヤちゃん、桜井トレーナー…うん、二人がデザスターなわけないよ!」

「いや、もしタイクーンがデザスターならあり得る。プレイヤーを妨害するのが、裏切り者の役目だしな」


それを見ていたキタサンはダイヤお手製の卵焼きを二切れよく咀嚼し飲み込むと、景和とダイヤを信じるような旨を明るく勢いよく告げた。

対して英寿はどこか露悪的にも思えるような、具体的には景和がデザスターだろうというような発言をしたのだった。


「ええ〜、トレーナーさんは逆ですか?」

「キツネだからな、騙す手口にも騙される手口にも目を届かせてるってわけだ」


当然、キタサンは自分とトレーナーたる英寿の考えが今回に限っては逆を行っていることを残念がる。同じだと思っていたのだから。


「…でもあたしは、デザスターはトレーナーさんでも桜井トレーナーでもないと思います」

「案外そうかもしれない、そうじゃないかもしれない…まあ状況を楽しめ♪」


なので言い返せば、英寿はそれも含めてこの状況を楽しむことを求めてきた。

もちろん本人は楽しそうである。


「あはは、難しいですね…」


キタサンはまだまだこの状況に順応できていないからか力無くそう返した。


「私達だって普段学園で仲良くさせてもらってる皆さんを好き好んで疑いたいわけじゃないです」

「でも、今は疑わないとダメな状況ですから…ご容赦ください!」


タルマエはというと、先の発言の意図を丁寧に述べたうえで謝罪している。誰も好きで敵を作ろうとしているわけではないのだ。


「あと今は私、大事な試合前はタルマエ以外の他人が用意した飲食物は取らないようにしてるの」

「へえ~、アスリートの人ってそうなんだね」

 

冴も先の発言の真意を告げるが、こちらはタルマエのものとはまた違ったものだった。

いや、違いこそすれそこまでタルマエのものと食い違ってはいない。要は疑わなければいけない状況だからこそ、普段からアスリートとして遵守しているマイルールをことさら意識しているというわけだ。

ちなみに今回はカロリーメイト、アスリートならではの自己管理に持ってこいのお手軽栄養食品である。


「なぜ君達が突然朝ご飯を作るなんて言い出したのか…。興味深い問いだ」

「ダイヤちゃんはもちろん、桜井トレーナーが料理上手で面倒見がいい性格なのも知ってるけどね!」


そして大智とリッキーは二人が料理を拵え振る舞ってくれている理由を気にしていた。

二人としては単に親睦を深めるためというのがやはり大きい要因だった。


「リッキーちゃんはともかく、大智くんって何でもクイズにしちゃうよね」

「五十鈴先生の場合、疑問や難問、謎を常に探しているといった具合でしょうか?」


なので特に強調したい理由でもないぶん、それを気にする大智を不思議に思うのだった。

ダイヤに関してはそれを直接問うてみせる。


「ああ。 あらゆる雑学や知識を網羅した今、僕を最も惹きつける難問は────人の心」


返ってきた答えはなかなかにぶっ飛んでいるようで、極々シンプルな人の心を知りたいからというもの。

幼少期の頃から現在に至るなかで精神という概念だけは思うままにすることが叶っていないという過去があるからか、全人類の記憶を知ることで学習しようという魂胆だった。


「ふーん。でも俺は普通に料理するのが好きなだけだよ。今でも子ども食堂のボランティアとかやってるし」

「私も料理を嗜んでいますのでその延長線上ですね」


景和は、料理が好きなだけ、ダイヤも同様だと返す

またさらりと明かしたが景和は世界平和とまではいかずとも世の中のためにやっていることとして募金以外にボランティアも存在しているというわけである。


「ちなみにボランティアもときどきお手伝いさせてもらってます、サトノグループの系列の児童施設ですので!」


そしてこれまたさらりと明かしたが、この食堂はサトノグループにてかつて務めていた者が退職の数年前から運営している施設。

また、上記以外のある理由からもダイヤとも小さい頃から縁がある施設だった。


「えっ、桜井トレーナーってダイヤちゃんとそういう接点があったんだ⁉︎」

(あたしとトレーナーさんとはまた違った濃い縁があったんだね!)


当然キタサン・シュヴァル・リッキー・タルマエ皆一様に驚いている。


特に英寿に命を救われたことが彼と組むそもそものきっかけなキタサンとしては、自らとはまた別な意味でトレセン入学以前から担当トレーナーと切れない縁が紡がれているという事実に幼馴染として嬉しくも思うのだった。


「さあ…いただきます」

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」

 

大智もそうだが、皆礼儀正しい作法を踏んで食事を始めた。


「グッモーニン!」

「あっチラミさん!」

(クラちゃん以外でサスペンダーをパチンって言わせてる人初めて見たかも、どうでもいいけど)


────その直後、サスペンダーを軽快に鳴らしながらチラミがツムリとスイープを引き連れて現れた。

すぐにクラウンのことを思い出すキタサンだった。


「貴方達のスパイダーフォンにデザスターの投票機能をアップデートしたわ。次のゲームが終わるまでにデザスターと疑う人に担当ウマ娘ちゃん達も含めて投票してちょうだい♪」


今回のシーズンのミッションに必要な機能を実装したことの報告が主な理由である。


「なるほど、得票数で決めるなんてまさに人狼ゲーム…」

(なら…僕と祢音ちゃんは…)


具体的にはデザスターを決めるための投票機能だが、いよいよ人狼じみてきたなとシュヴァルは感じつつ、同時にある不安が鎌首をもたげた。


「シュヴァルちゃん?」

(なんか訳ありなのかな?)


「投票を途中で変えてもOK! そしてゲーム終了時点で全員から票を入れられたプレイヤーは強制脱落よ!」


キタサンもこれを目撃、当然心配するもスイープによるチラミの説明の補足に気を取られすぐに無自覚に頭の片隅に情報を追いやってしまった。


「デザスターではなかったとしても脱落となってしまいますので、皆さん、よく考えて投票してください」


人狼特有の吊し上げはここでも健在なようで、例え犯人でなくてもそうと決めつけられてしまえば問答無用で脱落となってしまうという理不尽なギミックが存在していた。


「ちょっと待ってください! なんでこんな…ライダー同士が足を引っ張り合わなきゃいけないんですか?」

「今さらですけどあたしも同意です。無理に騙し合わなくても…」


当然これに反論する景和とキタサン。

人を助けることは好きでも蹴落とすことは苦手な二人からすれば、どうしても気になってしまう要項だった。


「そういうリアリティーショーだからよ」


チラミはあくまでビジネスライクに淡々と粛々とそう告げる。今さらルールに物申されるほうが迷惑というものだった。


「世界の平和がかかってるんですよ⁉︎」

「む、無理に疑いあう必要は…ないんじゃないでしょうか?」


しかしキタサンはともかく景和はなおも憤り食い下がり、さらには何を思ったかシュヴァルまでどこか上の空でズレた支援砲撃を始める始末。


「あんたらの気持ちは勝手だけど投票しなかった人は棄権とみなして脱落よ、いい?」

「「ッ…⁉︎」」


しかしチラミはなおも揺るがず、このルールに合わせられないのならプレイヤーとしては脱落するしかないというふうに言い放ちまとめて黙らせてみせた。


「トレーナーさん、気持ちは分かりますが…だからこそこの状況を見事ダイヤと貴方でクリアしてみせましょう!」

「ダイヤちゃん…うん」


ダイヤは景和に比べればこうした選定の儀式にお家柄の都合上慣れているからか、彼を労わりつつその背を押すのだった。


「────やれ…。お前こそはデザ神になるんだ、櫻井景和!」

「サトノダイヤモンド、お前もしっかり桜井景和をサポートしろよ? 俺が密かに指名したこいつのサブサポーターなんだからな!」

それをあるオーディエンスが自らの個室にて見つめていた。口ぶりからするに景和とダイヤに一方的に関係がありそうなこのカエルはいったい何者なのか。


「さ、ゲームだ」


また同じ頃、ジャマーガーデンにてアルキメデルは最新の個体のルークへボールを投げ渡す。


「いつまでそんな格好してるんだ?」


続くその言葉に合わせルークはすぐさま衣装チェンジした豪徳寺の姿に。


(相変わらず不気味なほど見た目に関しちゃ瓜二つだな…)


服装以外は瓜二つなその再現性の高さに悍ましさと恐怖を道長は思わず抱くのだったよ


「似合うじゃないかぁ…!」


アルキメデルはご満悦そうである。


「…何する気だ?」

「命を賭けたスポーツ。ヒッヒッヒッヒ…!」


そしてこのルークを使って何を企んでいるのかと道長が問いただせば、返ってきた答えは初耳なそれだった。

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