乖離Ⅲ:デザスターは誰だ?(ChapterⅣ)
名無しの気ぶり🦊「お父さーん…!」
「ママ!!」
これが景和とダイヤが守ったもの。
ジャマーエリアも解除され、子供達も無事に ご両親と触れ合え抱きしめ合う。
「ありがとう、景和くん、お嬢様!」
「まみさんと食堂の子供達がご無事で本当に良かったです♪」
その後、景和とダイヤはまみにお礼を言われていた。ズタボロになりながらも守った甲斐があったと感じながら、同時にゲーム終了後はこの記憶も消されてしまうことを若干だが景和は残念に思った。
「皆さん、お疲れ様でした。見事な逆転ゲームでした。投票締め切りとなります。まだの方、変更したい方、デザスターだと思う方に投票してください。棄権は脱落となります」
(あたし(僕)(私)は…!)
デザイア神殿に戻ると、ツムリから投票終了が告げられる。
投票先の変更、未投票の者が投票する最後のチャンス。
皆、厳しい面持ちで投票する。
そして投票結果。
大智に…1票。
景和に…1票。
「投票の結果、五十鈴先生が脱落よ!」
「やっぱりかあ…うん、でもなーんか私的には憑き物が落ちた気分!」
────そして、続けて3票大智に入り、脱落は彼に決まる。
とはいえ先の発言によりちょっとした後悔が生まれていたリッキーとしては、これは正当な報いだろうと感じられたので不思議とスッキリした気分だった。
「キタちゃん、ダイヤちゃん、ありがとねっ!」
「リッキーさん…はい、トレセンでも変わらずよろしくですっ!」
またそのきっかけを作ってくれたキタサン、自分達のせいで苦しい思いをしていたダイヤに礼と自分達の関係性はこれからも変わらないことを告げた。
(分かりきっていたが…柄にもなく腹立たしい)
(…だがまあ)
大智もまた、苛立ちのようなものは確かにありつつ、しかしそれだけではなく。
「これだから人の心ってのは面白い。…僕を落として後悔しても知らないよ?」(大智)
「もー先生、往生際が悪いよ!」
まだまだ思い通りにならない人間の心というジャンルの奥深さに改めて興味を抱きつつ、自分を落としたことでこの先却って新たな被害が生まれ得る可能性もあることを笑みを浮かべながら告げ、リッキー共々消え去ったのだった。
大智がデザスターでなかった場合、それでいて景和でもないのだとしたら、かなり巧妙に一同の中に潜んでいることになるのだから。
「ここでいいか?」
「ああ。足労だったね、ドゥラメンテ」
「構わない、トレーナーの頼みならな」
同じころ、路地裏で見つけた道長をドゥラメンテに抱えさせたニラムはサマスもそのまま伴って、ジャマーガーデンが現在存在している座標近く、正確には同じ一帯(スペース)内の森に来ていた。
ジャマーガーデンは虚数空間に存在しており、今は現代のとある山岳地帯に座標を固定しているのである。
「本当に宜しかったのですか?」
一応こうして生きているプレイヤーを、死体としてこの森に戻す事が良かったのかとサマスはニラムに確認する。
「退場者が蘇ってしまえば、デザイアグランプリのリアリティは損なわれる」
実際に蘇って生きているのだから、それが本来のリアルではあるが、ニラムにとっての『リアリティー』は『リアル』である必要は無い。
「ええ。クラウンには悪いが、例え彼であろうと既存の規定を乱す輩であるならば最強に至る存在には似つかわしくない」
ドゥラメンテはというと、同室であるクラウンのトレーナーである道長を死体としてここに置き去りにすることに一抹の罪悪感も無いということはなかった。
が、その罪悪感に従ったことにより自らが、道長が属する組織の戒律に背くことになると思えば、その感情は唾棄すべきものだという認識となっていた。
「バッファは死すべきだと…?」
「無論、彼には期待しているよ?」
ならばここでその命を落とすべきかと問うサマスに、先程の発言と打って変わって道長に期待しているとニラムは告げる。
「ジャマトとして蘇り、番組を盛り上げてくれる事をね。うん♪」
「…もし死の淵より舞い戻ったならば、私も彼の実力を認めるつもりです」
森に捨て去るという生者に対する冒涜のような振る舞いを指揮しながらも、それとは裏腹に道長に可能性を見ていた。
そしてドゥラメンテも万が一、億が一にも道長がこの先自分達の前に姿を現すことがあればその時はこのエンタメにおいても強者と認めるべきだろうと感じていたのだった。
「……」
「ドゥラメンテのやつ…デザグラでもニラムの野郎と組んでたとはな…!
「────というか今に見てろ、運営の連中め!!」
────が、そもそも道長はこれらの話をニラム・サマス・ドゥラメンテが交わしたのちに去っていくところまで横目で見ていた。
つまり意識が無いフリをして聞いていた。
要は意識があった。
デザイアグランプリがジャマトと繋がっていたこと、自分たち仮面ライダーと理想の世界が単なる見世物としての価値しかないことを理解してしまった道長の眼には、これまでにないほどの怒りが宿っており……
「浮世トレーナーもキタさんもお疲れ様です!」
「相変わらずの立ち回りに、キタさんの分け隔てない慈愛っぷり…あたしは軽くを現世と来世を行き来してましたよぅ!!…あっ?」
同じ頃、ジーンは自身のVIPルームにまた英寿とキタサンを招いていた。
もちろん今回もデジタルは同席しており、変わらずの推しを前にしての高速早口で、二人に対する感想を述べながら昇天しかける。
「いや死んじゃダメですからね⁉︎」
言わずもがなキタサンには止められていたが。
「ギーツ、第2回戦勝ち抜けおめでとう。キタサンも彼のサポートご苦労様。このままギーツの不敗神話を期待したいところだけど…慢心は禁物だよ」
ジーン本人はというと英寿の活躍、キタサンのサポートに対し労いの言葉をかけ、改めて不敗神話を期待しつつも、油断は禁物だと告げた。
「脱落したナッジスパロウがデザスターだったとは限らないからね」
そう、分かりやすいところであれば大智がはたしてデザスターだったのかはデザ神とそれ以外で最終ゲームまで生き残った一人にしか知り得ない以上、この先も脱落するわけにはいかないのだから。
「やっぱりですか…」
(…なんとなくだけど、デザスターの正体はおそらく…)
って事は、アモングアスみたいに正解・不正解が明かされるわけじゃないらしい。
「…ああ、知ってるよ」
(おそらくあいつだろうな、デザスターは)
それを聞いた英寿とキタサンは、デザスターがはたして誰なのか、実のところ検討は着いているのだった。
「大智君がデザスターじゃない?」
「でも不思議と、いえ普通にしっくり来ますね…」
またまた同じ頃、景和とダイヤはケケラのVIPルームで当人から、大智がデザスターではなかったと知らされていた。
皆やることは同じなようである。
「まぁ一人落とせて数を絞れたから結果オーライだ」
「もうっ、ケケラさんまでそんなこと!」
とはいえそれでもケケラは、1人落とせたから良いと言う。ダイヤにしてみれば、ルールに従っていても作為的に誰かを蹴落とすのは良い気分ではないので、それを軽く咎めていた。
そう、大智に対してさえ実のところは申し訳なさがあった。もちろん景和を蹴落とそうとあんな策を凝らしてきたことは喜ばしく思っていないが。
「良いだろ別に、俺達2人の推しである桜井景和の支持率も上がってる。このまま最終戦まで支持率トップになれば、こいつがデザ神になれる」
しかしケケラにしてみれば結果オーライといった具合で、事実ただ大智を正当に落とせただけでなく、それに連動するように景和へのオーディエンスからの支持率も目に見えて上昇していた。簡単な話、英寿に次いで2位に付けている。
「!…それは…そうですね!」
「誰かを罠に掛けないままそこまで行けるなら、私も全く異論はありません」
(ううん、そうなるように私がトレーナーさんを支えるんだ!)
ダイヤとしても狡い策を介して勝ち上がるのでなければ景和がデザ神となる未来を現実のものとすることに何の躊躇いもなく、何よりそうなるように陰ながらでも彼を自らの手でサポートしていきたいと強く望めた。
「俺が理想の世界を叶えられる…?」(景和)
(…狙ってみるか、デザ神の座を!)
もちろん景和本人の胸にも、仄かに、されど確実に湧き立つデザ神になるという意思があった。
「そのためにも、お前らでデザスターが誰か突き止めろ。お人好しの自分とおさらばするんだ」
そのために為すべきことをケケラが提示したのとほぼ同タイミングで、呼応するように景和とダイヤの目つきが変わった。
退場者を助けるために、己がトレーナーの願いを叶えるために今より非情になる覚悟を固めたかのような目つきだった。
「────ってここは街中!」
(転送されたのね…でも)
同じ頃、ベロバとの取引をどうにか自身の望む形に持って行けたクラウンは、ベロバによりいきなり東京都内の街中に転送されていた。
というのは────
『────サブサポーター』
『! あんた、どこでそれを…いや、ニラムか。あいつもつくづくスポンサーやその血族には甘い…』
そう、独自に知り得たサブサポーターというポジションにベロバが自身を付けたがっているだろうことを見抜き、仄めかすことで、彼女をその気にさせた。
『貴方、人の不幸がお望みなんでしょう?おまけにそのうえでミッチーが推しってことは彼の不幸を望んでいる…違う?』
『はっ、そうですけど何か?』
(まさかマジでぴたりとメリットを当てやがるなんて…)
ついでにベロバのおよそ人としては歪んだその性格、それゆえに道長というクラウンのトレーナーに求めている歪んだ欲求も言い当ててみせ。
『なら貴方がミッチーのサポーターになったのも彼が壊れていく様を見てほくそ笑みたいから、そのあたりの理由よね』
『気持ち悪い…よくもまあそこまで当てられるもんだわ』
だからこそ道長のサポーターに就任したという事実もいつの間にか知り得、彼に自身でさえ制御できないほどに狂っていく未来を見ていることも見事言い当て、そこまで気分上々だったベロバに思わず気持ち悪さを抱かせるほどだった。
『お褒めいただきどうも。人間観察が趣味なものですから』
『悪趣味ね、まさしく。…いいわよ、せいぜい程のいい人形として壊れ果てるまで使い倒してやるから覚悟なさい』
それゆえに、道長同様に使い倒されることを承知で、そうならないように振る舞ってやる覚悟を見せ。
『! じゃあ…!』
『あたしの秘書兼ミッチーのサブサポーターにあんたを指名してやるわ。今さらクレームは受け付けないし、この先であんたが後悔しても外してやらないからそのつもりで』
────ゆえに、ベロバの秘書、そして道長のサブサポーターに就くことができた。
とはいえ秘書のほうはまさか就くとは思っていなかったが
『ッ! 望むところよ!』
『ミッチーに会わせるのは後日よ、今日はもう帰るわ』
『あっちょっと!────
しかし上手く行ったのはそこまで、道長に会えるのは後日と言われ、急に遠ざけられたのだから。
「これでミッチーへの道は確かに太く繋がれた。…I was confident! 待っててね、ミッチー!」
(貴方に…ようやく再会できる!)
────されど、その顔は不服さと、それ以上の満足感に溢れていた。
というのは希望を強く感じられたから。
今回何より成し遂げたかった『道長の現在をよく知る人物との直接のコネクションの確立及び彼の元への案内』、これを無事達成できたからだ。
数日後に待ち受けている再会を心待ちにしながら、されどそこからデザイアグランプリに始まる動乱のことまでは気づくことはなく。
一月半ばのある日の夕焼けの中をトレセンへ向け、どこか軽やかで自信に満ちた足取りで歩みを進めていくのだった。