乖離Ⅲ:デザスターは誰だ?(ChapterⅢ)

乖離Ⅲ:デザスターは誰だ?(ChapterⅢ)

名無しの気ぶり🦊


ジャマーボール延長戦サドンデス。ボールは1つに戻り、先に得点したチームの勝利との触れ込みがツムリとスイープから為されていた。


『僕達が協力すれば、たとえ邪魔されても大丈夫だ』

(どの口で言ってるんだろう…)


なおも白々しく嘘を吐く大智、以前ならいざ知らず今は軽度の侮蔑の目線をダイヤは向けていた。


(俺とダイヤちゃんは…負けないっ!!)


一方で景和は自分達2人はこの逆境になんとしても負けてなるものかとこの数日間で最高潮と言うべきやる気でゲーム後半戦開始地点に、他のメンバーから距離を置いて力強い雰囲気で佇んでいた。


『────目指すは勝利のみ』

「勝ちへGO!です、トレーナーさん、皆さん!!」


『SET CREATION』 『『『『『SET』』』』』

「「「「変身!」」」」


────英寿とキタサンがそれぞれそう呟いたのにさながら合わせるように全員一斉に変身。


『DEPLOYED POWERED SYSTEM』

『GIGANT HAMMER』 

『GREAT』 

『BEAT(NINJYA)(MONSTER 』)』

『『『『『READY FIGHT』』』』』


ロポ/冴はニンジャのほうを前半戦終盤に引き続き、大智から渡されたニンジャレイズバックルを使用している。

代わりというか、タイクーン/景和は最初からレイジングフォーム

ジャマト側も前回に引き続き、それなりの数を用意して挑んでくる姿勢のようで。


そのまま冴とジャマトライダー…両チームの代表者がセンターに立ち、ジャンプボールでゲーム開始。

ボールは冴がキャッチ。


「ああ、あのジャマトってば!!」


…したのだが、ルークジャマトの衝撃波で吹き飛ばされ、ボールを落としてしまう。

依然として頭数は向こうが何十倍も多いし、卑怯でしかない。

 ジャンプボールに勝った事で、前に出ていたギーツ/英寿とナーゴ/祢音は対処が遅れ、パス回しでジャマトチームはライダー側のゴールに近づいていく…。


『ぐっ…!』

「レイジングじゃジャマトライダー数体をまとめて捌くのはキツそうだよぅ…」

「違うよキタちゃん、トレーナーさんの狙いは────


『ハッ!!』

『ジャ…⁉︎』


 ゴール近くの守りについていたタイクーン/景和が、エントリーフォームながら果敢にボールを奪いに行くが…スペック的に厳しい・。

 そこへ、ナッジスパロウ/大智が駆けつけ、ジャマトライダー達を撃破する。

その間に景和はボールを拾う。


『…返せ、また邪魔する気か?』

「五十鈴先生…」


しかし大智は自分がその原因でこの状況を手繰る者でありながら、いやだからこそデザスター疑惑のある景和に持たせては置けないといった感じで、ボールを渡すように言う。


────だが、そうはさせない。

そんなことで揺るがない、怯まない

ただの酔狂で自らの担当と昨晩あんな誓いをしたわけじゃない

何の覚悟もないままスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズを助けたわけじゃない

何も変わるものがないままこの願いを叶えようと自分なりにここまで走ってきたわけじゃない

──これからも走り続ける、願いを叶えてなお先へ進む。

負けたくない英寿(あいて)がいるから

何はなくとも助けたい子供達(誰か)がいる

守りたい沙羅(かぞく)がいる


「…トレーナーさんっ…!」


────この三年で誰に恥じることもなく彼女のトレーナーだと胸を張れるようになった、いつだって張りたい彼女

如何な宝石にもくすまない、どんな迷信やジンクスにも砕けない、今の桜井景和の核を、夢の灯を担うウマ娘ことサトノダイヤモンドがいる


────だから!


『…俺はいつだって守りたいものを守るんだ。────だからこそ、このゲームに勝つ!!』


さまざまな想いを瞬間的に胸中に巡らせ、だからこそ景和はこの先に待つ願いを叶えた自分に出会うために、情けない姿は見せたくない担当のために

まずはこの食堂を滅ぼさせまいとするはっきりと宣言する。


『──ふっ、その意気だ。見てろ…種明かしだ!』

『『ジャアッ⁉︎』』


──その心意気や良し。俺が認めた大君の器。

 そう感じた英寿は、ルークとジャマトライダーを倒さない程度に勢いよくギガントソードで攻撃。

…すると、2体ともが豪徳寺の姿になる。


『嘘…!シロクマさんが2人?』

「えっ……⁉︎」


こうなれば祢音もシュヴァルも否が応でも気づく。


『…まずい』

『やっぱりな』


目の前で最低限の焦りを見せるこの2人…いやさ二体は紛れもなく人間でないと



「ほう、また変異種か」

「種はやがて、この世界に繁殖する。…ジャマトが支配する理想の世界へと変わるのだーっ! ハッハッハッハッ…!」


それを遠方から見つめるアルキメデルだけはご満悦そうに微笑んでいる


『こいつらは人間の姿をコピーしたジャマトだ』

『…え⁉︎』


英寿がはっきりそう言ってやったことで景和も驚きと共にようやく迷いが張れる

ルークとジャマトライダーはもとの姿に戻る


『言っただろ。 退場した者は…もういない』


寂しい響きだが、それこそが今の景和にとっては最上の希望だった。


『お前はデタラメ言って、タイクーンをたぶらかそうとしたんだろ?ジャマトに味方するデザスターかのように仕立て上げるために』


もうこうなれば隠してやるつもりもなく、容赦なく大智にその企みの骨子をずけずけ英寿は申していく。


『…人聞きの悪いこと言わないでよ』


平静を装っているようで僅かにその声に動揺が走っている。

かつて何度かデザ神の座を争った経験がある英寿や冴にはそれが分かった。


「────証拠の音声もありますよ?」

『世迷言を…というかサロンの声が響いてるのか…?』


ダメ押しとばかりに、いやこの状況の舵を大智から明確に取り戻す最上の一手として、かつての嘘に現代においては致命傷となり得る音声という手段を叩きつける。


「スポンサー特権で特別にこのような場を設けてもらいました」

「ダイヤさん…本気だ…」


このためだけにゲームプロデューサーであるニラムに再び頭を下げた。

全ては景和を、何にも変えがたい己が至宝を救うため。これからも2人の夢を駆けるため。


『皆が動揺するといけないから、このことは秘密に』


そして響く声。

ノイズ処理も施されたそれは紛れもなく、九分九厘どころか十割五十鈴大智という青年の肉声に相違はなかった。


『えっ、五十鈴⁉︎』

『大智さん、嘘ついてたんじゃん!』


「一昨日の夜にリッキーさんと部屋を出る少し前、そういえばボイスレコーダーの録音モードを試しに起動したままで出たのを思い出したのです」


要はボイスレコーダーを持ち込んでいたのだ。

必要はないと思っていたが、昨日そういえばと思い返してみれば自らがあの日部屋を出たタイミングは何気なくボイスレコーダーの録音モードを起動したのではなかったか。

そう気づけば迷わず鞄を昨晩漁り、見事に収録が終わりきったボイスレコーダーを片手にしていた。


「クラちゃんからパソコンも借りて持ってきていたので試しに転送して解析してみたところ、トレーナーさんと五十鈴先生の会話も含めて数時間ぶんの音声が収録されて切れていました」


あとはクラウンから何かあった時にと託された彼女が幾つか所有しているノートパソコンの一つ、もちろんPINコードや諸々のパスワードも教授されたことで今はダイヤの掌なそれに音声データを飛ばしダウンロード、それを解析にかけてみれば景和と大智の会話がまるっと収録されていた。


「あとは先程申した通り、夜食を食べ終えたその体でチラミさんとニラムさんにこのデータを理由に掛け合い許可を得て、この状況を待ちました」


そしてその脚で駆け出せば、迷わずプロデューサーとゲームマスターにこのデータを持ち込んでいた。

あとは粛々と売り込み、枠を設け、時を待った。


「────人を欺くなら、自分も欺かれる覚悟はできていますよね?」


これが俗信も陰謀も、その悉くを己が手で砕く100万カラットの輝石。

大君を照らす光、その出所に相応しき至宝。

そう────サトノダイヤモンドだ。


「これは…先生、どういうこと?昨晩は聞いてない内容なんだけど!」

「…どうもしないさ、その通りだけど?」


当然リッキーは動揺する。

これを隠されたまま景和をデザスターに据えるという策に加担していたのだから。

しかし大智は悪びれもしない、いや当たり前のことを成しただけという認識だからさもありなんといったところか。


「デザスターに当て嵌めてしまえば、桜井景和だろうと他のプレイヤーだろうと落とせる。問答無用で1人落とせる仕組みなのに使わないほうがどうかしてるよ」

(それは…そう。もしかしたら祢音ちゃんがいち早くそうなってた可能性も…)


ある事情からこのところずっと内心にデザイアグランプリ絡みの悩みを抱えているシュヴァルには他人事とは思えぬ話だった。


「…リッキーさんにはすまないと思うけど」


そのくせ、今互いに実質的な専属関係になっているリッキーにはそれを黙っていた。


「分かってるなら、そんなズルくてバレたら状況的に苦しくなるようなことになんで私を巻き込んでくれなかったの…」

「…先生の友達で指導相手の私でも信用できない?」


それがリッキーには何より辛くてならなかった。

策がバレたことよりそれが堪らなく、いったい何のために組んできたのか。

そんな想いがこの言葉となって紡がれていた。


「────僕は友人だろうと誰だろうと、心底信用したことはないよ」

「そして赦しを乞うつもりもない、ルールに則っただけだからね」


しかしそれに大智なりに嬉しさや居心地の悪さを感じはしても、黙っていたことのケジメは一人で着けたかった。

──たとえ友人で親しい教え子であっても。


「だからってこんなの、意地が悪いべさ!」

「タルマエさん…」


外野からはそれはただヒールが虚勢を張っているだけに見えるだけ。

シュヴァルはある意味他人事ではなかったけれど、この状況に何も言えなかった。



「すっかりデザスターは五十鈴先生一色な雰囲気ですけど…でも皆さん!」

『ああ、キタの言う通り誰を信じるかは自由だ』


そんな状況に意図して水を差すのは今や皆の愛バとなったウマ娘、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ浮世英寿自慢の妹分ことキタサンブラック。


「キタちゃん…」

「あたしはこれでもお助け大将です、嘘をついた誰かだからって助けないつもりはありません!」


そう、彼女は景和やどこかの銭湯の長男坊並に人を助けることに躊躇いも理由もない、そういう人種でそれが彼女を讃える渾名にもなっているほど。


「もちろん、それで迷惑をかけたこと自体は反省してほしいですけど!」


だから嘘で場を惑わしたことそのものに怒りを示し反省を求めても、それ以上は望まない

誰だって平等に助けられる資格があると信じているし、誰だって助けたい、笑顔で通じ合いたいと願ってこれまでもこれからも走る。

今は自らの最高の理解者たる世界スターと共に。


『…ふっ、担当に似たのかな』

「キタちゃん…うん、そうだよね!」

(それでこそ私の自慢の親友で幼馴染だよ)


英寿のことは気に入らないけれど、キタサンブラックという一人の少女のことはかねてより、そしてこれからも悪くないとこの状況ながら大智は不覚にも感じてしまっていた。

ダイヤも、そんな親友で幼馴染を見て不思議と大智に対する悪感情は一時でも消え去っていた。


『タイクーン。食堂のディフェンスは任せろ!』

『…ああ! ゴールは俺が決めるッ!!』


なので、それを見た英寿は担当の変わらなさで勇ましさに胸を高鳴らせ、今は自分が認めた大器たる青年の支援をしてやるかと柄にもなく荒ぶってみせる。

証明してみせろと言いながら、何だかんだ英寿は最初から景和のことを信じてくれていた

 

『くっ、また…!』

そのままジャマト側のゴールを目指す景和だがしかし、レイジングフォームのまま、それもボールを持ちながらで、行く手を阻むジャマト達の全てを退けるのも難しい


『────やっぱり私は…景和を信じたい!』

「…僕も、桜井景和ってトレーナーさんを、ダイヤさんの信じるあの人を信じたい!」


そんな奮戦する景和を見て、そう思う祢音、シュヴァル。

しかしそんな声援虚しく景和はジャマトに囲まれてしまう。


「景和!」

(名前呼び…)「ああっ!」


────しかし、事はそんな窮地で終わらない。

先程からの流れで景和を内心すっかり認めた冴が声をかけながらパスを望む。

ならば迷わず希望の一手を返す。


「これは…!」


冴もパスを受け取ると、代わりにニンジャバックルを投げ渡してくれる。

この状況で景和に考え得る最高の手札たるレイズバックルが共に揃った。


『TWIN SET』

『TAKE OFF COMPLETE JET AND CANNON』

『READY FIGHT』 


────ならば。


「決める気だ、桜井トレーナー!」

「…ううん、キタちゃん!」

「えっ?」


────周囲の予想を裏切って、しかし応えて。


『REVOLVE ON』

『SET』

『NINJYA』

『READY FIGHT』 


ただの人懐っこいタヌキ顔の青年は銀翼の羽を背に、自己犠牲も厭わない覚悟の証のような多彩さを秘めた忍の力を下半身に宿す仮面の戦士に生まれ変わり、その溢れる加速で地を瞬く間に低空飛行で駆ける。


「────これが今回のトレーナーさんの狙いだよ!」

「コマンドニンジャかあ…! 空中のゴール狙いだね!」


仮面ライダータイクーン、コマンドニンジャフォーム。考えつきそうで考え付かなかった新フォームはこうして誕生した。


そのままジャマトライダーのツタ攻撃を避けてビル壁を駆け上り、かなり上の階まで来るとビルの中へ逃げ込む。

 ここからは缶蹴りでも見せたニンジャパルクールと言わんばかりに鮮やかに駆け抜ける。

そのままビルの外に出ると、英寿が作ってくれた足場に着地し、ジャマト側のゴールへ向かう。

向かってくるジャマトライダー達を、祢音と冴が請け負ってくれる。

ゴール前にルークが待ち構え、高密度のエネルギー波を放ってくるが…景和はスピードを乗せながらレイジングソードとニンジャデュアラーを交差させ、それを四方に受け流す。

周囲がそれによりさらに凄惨とした状況と化した


「…リッキーさん」

「…何、キタちゃん?」


その最中にキタサンはリッキーに。


『────お前達2人に問題だ。誰かを疑わせるか、それとも信じさせるか…最後に勝つのはどっちだと思う?』

「もちろんあたし達の答えは決まってますよ!


英寿は大智に問う。

疑心暗鬼と信頼、はたしてどちらが勝利に己を誘ってくれるのかと


『…ふふ、そんなの…♪」

『…正解は…』


リッキーも大智も分かっているようで、かたや楽しそうに、かたや歯痒そうに答え────


『うおおーーーーっ!!』

 「マスクも割れることさえ厭わないがむしゃらな移動…トレーナーさん、ゴールはもうすぐです!」


その声はマスクさえ割れるほどに正面突破を図る景和が自身を奮い立たせるべく張り上げた叫び声に容易く呑まれて消えた。

『…らあっ!』

「桜井トレーナーがニンジャの力で分身した…」

「つまり撹乱目的!」


そのままニンジャの機能で四人に分身。

存在そのものをフェイントにして

ゴール前に待ち構え、自身に混乱するルークに連れ立って最後の加速。


『これで────

(お願い、届いて!)


直前で瞬間、一人に戻る。

そのまま右手に構えたジャマーボールを勢いよくゴール目掛けて振り投げ────


【RIDER, team WIN】



見事にゴールイン

そしてジャマト側をこれにて上回り、延長戦終結。


「「…やったあ!!」」


思わずキタサンとダイヤ、仲良き幼馴染二人も思わず黄色い声を上げる。


「良かったね、ダイヤちゃん!」

「うん、キタちゃん…トレーナーさんも本当に…お疲れ様ですっ!」


互いに喜び合うのもそこそこに、今回最大の功労者である景和に時間も考慮して短く、されど最大限に感謝と喜びを込めた労いと祝福の言葉を送る。


『はあっはあっ…! はは、ありがと…』


どこか枯れた声で、されど確かな嬉しさを滲ませながらそう景和はダイヤに笑顔で返したのだった。


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