乖離Ⅳ:ジャマトからの宅配便!(ChapterⅤ)
名無しの気ぶり🦊
「「ぐぁっ⁉︎」」
「「祢音ちゃん(トレーナーさん)⁉︎」」

ナーゴとロポが戦っていたほうの配達ジャマトがパイナップル爆弾を持っていた。
そのパイナップル爆弾で今まさにナーゴとロポを攻撃している。
「トレーナーさんっ!」
「ああ、パイナップルがいた!」
担当ウマ娘達が思わず悲鳴を上げた、そんな窮地。
されどパイナップル爆弾に気づいた景和とダイヤが参戦。
「ジャジャッ!」
するとそれに気づいた配達ジャマトは廃工場に逃げ込み、扉を閉めてしまう。
「逃げやがって!」
「こちらからは開けられそうにありません!」
景和が扉を壊そうとするが、ニンジャデュアラーでは壊せそうにない。
『ニンジャストライク』なら…とも一瞬思慮するが、とはいえ時間も無いので、
景和は────
「ダイヤちゃんッ!!」
「⁉︎ …すいません、タルマエさんっ」
「えっなんで羽交締めっ⁉︎」

ダイヤになぜか目配せ。
その意図を即座に恐れながら汲み取ったのか、ダイヤはタルマエを羽交締めにしてみせる。
当然タルマエは困惑していた。
「そのバックル貸せ!」
「きゃっ⁉︎ ちょっと…!」

並行して景和は普段の彼らしくもない荒々しい口ぶりと挙動で冴のデザイアドライバーからゾンビレイズバックルを強制的に排出、驚く冴をよそに必殺技を放つ構えに移っていた。
それだけ家族の危機とは桜井景和という人間にとって度し難い出来事なのである。
「…これがしたかったからなの、ダイヤちゃん?」
なんとなくだが、理由(わけ)を察したタルマエは羽交締めされたままでダイヤに確認を取る。
「はい、トレーナーさんはご家族や私の安全のこととなると見境が無くなることはよく知っていますから…本当にすいません…」
「…ううん、気持ちは分かるから今回は見なかったことにしとくよ」
それに答えるダイヤも辛そうで、どこか申し訳なさそうでもあった。
その人柄も相まって沙羅のことはダイヤも実の姉のようによく慕っていて、だからこそ此度の危機も黙ってみてはいられず現在の景和の振る舞いにも理解を示せるが、とはいえこんな乱暴なことをしなくてもいいのではという迷いも確かにあったのである。
『GIGANT STRIKE』
「はあッ!!」
その間に鳴り響く必殺技の音声、それと共に蹴り上げるように抉るように足を勢いよく斜めに振り上げる。
「足のクローで壁を切り裂いた!」
上半身同様のパワードディストリビューター、そして下半身用のパワードビルダーに備わったジブサイ。今回はその両方に備わったアームドクローが景和の脚の動きに連動した構えで輝きながら壁を鋭く素早く切り裂いた。
「ジャジャッ⁉︎」
「逃すかよ…!!」
しかし該当のジャマトはなおも生き足掻き、けれど家族の生が懸かっている今の景和にそんな振る舞いが哀れに映るわけもなく。そもそもが人でない何かのそれに動揺するわけはなし、この状況ならなおのこと。
『SET』
『DUAL ON』
『ZOMBIE&NINJYA』
『READY FIGHT』
口調に連なるように息も荒く、冴から奪い取ったゾンビバックルをパワードビルダーと付け替えリボルブオン、ゾンビ忍者フォームに変身。
「ジャアアッ!!??」

現在の景和のただならぬ気迫と相まってかつて忍者だった屍人が現世に現れ出でたかのようなおどろおどろしい雰囲気を放ち、そのまま四方八方から攻め立てていく。
『NINJVA ZOMBIE VICTORY』
「「「「────これでッ!」」」」
そうして数秒、一気に弱々しくなったジャマトをさらに追い立てるように、いやさ絶命狙いでバックルのレバーを操作。
必殺技発動を告げる機械音があたりに響く。
「ジャア⁉︎」
「「「「ハアアアッ!!!」」」」

瞬間、幽鬼のようなタイクーンが4人に増殖。
「ジャアアアアアアアッ!!??」

さらに攻勢、取り囲み切り付け…そこから一度距離を置いたかと思えば、4人してバーサークローを地面に突き立てた。
「うわあ…分身して四方からゾンビの爪で押さえ込んで4人でライダーキックとか容赦ないよ、桜井トレーナー…」



すると巨大なゾンビフォームの左腕が何本か、そのままジャマトを見せしめにするかのように体を掴み景和の近くまで。
ならばと右脚に纏った輝きと共に勢いよく跳躍し────文字通りの一蹴、工場奥近くまで配達員ジャマトは吹き飛ばされ爆発四散。
思わずタルマエも唖然とするくらい殺意に満ちた一連の流れ
「それだけ義姉様が大切なのです、トレーナーさんは…」
しかしダイヤだけは、やはりその裏にある感情に強く共感できていた。
「「……!」」
すると、倒した配達ジャマトから赤いコードが出てくる。つまり赤いコードが沙羅を縛る爆弾のエネルギー経路ということが判明したと同義であり。
ゆえに晴れて姉を助けにいく準備をほとんど終えることとなった景和はそれを見届けていたダイヤと互いを見つめたかと思うと、2人揃って桜井家に向け他に目もくれず駆け出す。
それに気づいた祢音とシュヴァルも急ぎ、その後を追うのだった。
「「────ハアッ!」」
「──あれから一時間、まだ決着は着かない」
「…特に吾妻トレーナーのほうは明らかにあのバ
ックルによる負荷を受けてそうなのにこれだから、なんかもう怖いよ…」

日も暮れゆく中、廃工場内で戦う2人のライダー。キタサンもときどき場所を変えながらずっとこの戦いを見届けている。こうした自分も近くで見届けられる戦いに限るが、それでも英寿から目を離したくないという想いからキタサンは数時間前にこの場に残ることを選択した。
だがここまで長く続くとは流石に思っておらず、とはいえその技術巧者な事実を思えば英寿に関しては戦闘が長引いても上手く捌くだろうと予想はできていたのでそこまで違和感はなかった。
なので予想外の要素が強かったのは道長に対して。ジャマトバックルのスペックが高いのか、彼自身は苦痛を感じながらではあるが、英寿と互角に戦っている。前シーズンのラスボスジャマトに負わされた傷も癒えきっていないだろうによくやるものというべきか。とにかくキタサンには恐ろしく写っていた、その渋とい有り様が。
「らあッ!」
「うっ⁉︎」
「トレーナーさん⁉︎」
そんななか道長が英寿を蹴りつけ吹っ飛ばすと、英寿が倒れ込んだ先は足場が途切れていて。
なので落ちそうになるところを英寿はなんとか淵を掴んで耐える。がしかし、その掴んでいる手を道長が踏みつけようと…
(────いや、トレーナーさんならッ!」
しかしキタサンブラックという浮世英寿のある種一番の追っかけでファンなウマ娘にはそれは窮地に映らない。思わずなんとかしてくれると声を荒げた。
「ふっ♪」
(その期待、裏切るわけにはいかないよなッ!」
無論、担当ウマ娘のその声が耳に届かない英寿ではなく、そこに込められた想いを察せられないような愚鈍ではなく。
すぐさま逆転の一手を解き放つ。
「な⁉︎」
落ちながらではあるが道長の挙動を鏡で確認し、先んじて銃撃して撃退。
ここまでは読めていなかったのかダメージをくらうと共に一瞬だが道長は唖然とするのだった。
「因縁の二人がやり合うなんて感慨深いねえ」
「今は敵ながら、吾妻トレーナーも天晴れでしゅ!」

この英寿と道長の戦いを見ていたのはもちろんキタサンだけではなく。
「感慨深い」と言いながらジーンやデジタル、その他のオーディエンスも見ていた。
趣味が悪いと言われれば反論はできないそれだが。
「「────ッ!」」
「勝手に入って来られちゃ困るな」
「…すいませんけど、厄介オタクはノーセンキューです」

────するとそこへ響く軽快、しかして不快な足音。
スチャッ!という擬音が似合うような挙動でレーザーレイズライザー、そう呼ばれるサポーターに特有の銃型装置を構え表情を引き締めるジーンとデジタル、隙のないトレーナーとウマ娘だった。
「ここは健全にライダーを応援するオーディエンスルームだ。ジャマトのスポンサーが来ていい場所じゃない」
「何の用なんです、ベロバさん?」


そしてあくまで拒絶するようにその名を告げる。そう、やってきたのはベロバ。どこか楽しそうにキャンディを噛み砕き、いそいそとチェリービーンズを取り出し頬張っている。
悪徳オーディエンスとして名を馳せたジャマト育成陣のスポンサーがそこにはいた。
「あはあ♪ 理由が無きゃ来ちゃいけない?」
「当たり前だろ、君に限っては」
元来スポンサーという地位の都合上、気軽に他プレイヤーに干渉されては困る存在なベロバはしかして自分の好きなように動くので運営からしてもオーディエンスからしてもいい迷惑な存在という共通認識が強かった。
「アハハハ…おあいにく様ぁ! 私にもライダーの推しができたから」
「…誰?」

とはいえ今回のベロバはここに顔を出す理由があり、それはサポーターになるほどにもオーディエンスとして推したいプレイヤーができたからというもの。
しかしジーンとデジタルには誰それな状況なので思わず問いかける。
「あ、吾妻トレーナーですかあ⁉︎」
「じゃあ、あの姿もあそこにいるのも…?」

モニターの道長を指差すベロバ、当然ジーンもデジタルも困惑してしまう。正確にはジーンは驚きの情が強かったが。
「へぇ…」
「あと、あんたの推しの担当みたいにあたしも推しの担当をサブサポーターにしたから、その意味でもざまあ!って感じね」
「「!」」
ここにきてさらに燃料が投下される。というのはベロバが推しプレイヤーのサブサポーターまで決めたと告げたから。そこまで固めるからには、相当に道長に入れ込んでいるのは2人の想像にも難くなかった。
「担当…つまり、サトノクラウンか」
「うええエッ⁉︎ いやクラウンさんがジャマト側にい⁉︎」
そう、クラウンがサブサポーターということで。ジーンはともかく、ウマ娘推しなデジタルとしては驚愕の一言に尽きた。今こうして道長がプレイヤーの妨害をし、それをサポーターとして推すオーディエンスがベロバという悪徳スポンサーな事実がそれに拍車をかけていた。
「何を呑ませたんですか!」
「推しの安全よ、というかそもそもあいつが直談判してきたから指名してやったんだから.あたしはこれに関しちゃほとんど何もしてないわよ」
しかし信じることは難しく、ベロバが無理矢理な要求を呑ませるだけ呑ませてサブサポーターにしたのだろうと踏む。
けれどベロバが返した答えは純然たる事実。一応予定はしていたがクラウンのほうがそれを見抜き自らをアピールしてきた、それはもう気持ち悪いぐらいに。
だから選んでやった、ただそれだけ。
「く、クラウンさんが自分からあッ⁉︎……いやでも、無くはない、んですかね…?」
「彼女、トレーナーさんへの想いはまた相当に強いですし、そこに持ち前のあの企画力と用意周到さ、チャレンジャー精神が合わさればあるいは…?」
そこまで聞くとデジタルも一瞬戸惑うも、すぐに納得の情が顔を覗かせてしまう。もとよりクラウン顔負けの無自覚プロファイラーなデジタル、極まったオタクの一つの頂点な彼女は推しを構成する材料からこの状況はさして違和感がないものだと気づいてしまった。
「ほぼ正解言ってんじゃないのよ」
「…なるほど、つまりトゥインクル・シリーズで生まれた日を同じくした同期とそのトレーナー、そのサポーター、揃いも揃って向かい合う形になったわけか」
英寿と道長、キタサンとクラウン、3月生まれであること・善人であること以外は対照的な2組がつまりは所属する勢力まで対照的になったということ。そこにジーンは一種の感動を見出していた。
「面白い! ────まあ、君の好きにはさせないけどね、ベロバ」
「ふん、せいぜい余裕こいてなさい。近々思う存分ぐちゃぐちゃにしてやるから、デザイアグランプリを…ね♪」
けれどだからってベロバを放逐しておくつもりはなかった。彼女が端的に言って邪悪と定義できる存在なことに変わりはないのだから。
次に会う時は戦う時になるだろうという直感めいた予感も不思議とあった。
「えっ、それh「じゃあねえ♪」って帰りやがったあっ!」
「トレーナーさん、なんか暗雲が少し立ち込めてきましたね…」
「俺達の推しとその担当なら問題ないでしょ」
そしてベロバは帰っていく。正確にはすぐにどこかへ消えた。
それも含めてデジタルはさっきからの流れにこの先への不安を抱かずにはいられなかった。ジーンはどこか楽観視しているが。
「それに…いざとなれば、俺達とキタサンがこれで出ればいい話だ」
「やっぱり…キタさんにも?」
「ああ、むしろピークアウトによる衰えを補うにはうってつけさ」
というのは自分やデジタルが既に有し、そして今度キタサンにも授ける予定のある力を思えばなんとかなるだろうと想定しているから。
とはいえ、キタサンの同意を得られる前提かつベロバの持つ戦力がこちらを上回らないものであること前提のだいぶ楽観的な想定なのも事実。なのでこの少し先に待つ騒動には未だ気付かぬままだった。
「義姉様っ⁉︎」
「ダイヤちゃあん、景和あっ!!」
「それに祢音ちゃんにシュヴァルちゃんも!」
その頃、景和とダイヤ、祢音とシュヴァルは桜井家に到着。この間不安に揉まれっぱなしだった沙羅は最初以上に震えた大声を上げてしまう。
「助けて! このパイナップル、今にも爆発しそう!」
「すぐなんとかしますっ!」

パイナップル爆弾は膨れ上がり爆発寸前…それもそのはず、時間はもう30秒しかない。迷っていれば皆死んでしまう、その程度に短すぎる時間だった。
「トレーナーさん。この2択なら…答えは!」
「ああ、答えは…赤だ!」
なので景和もダイヤも躊躇わない。
先程配達ジャマトが残したコードの色から、切るべきは『赤』だと判断し、ニッパーを握る。
一瞬自分の判断に自信が持てないのか、コードにニッパーを当てて切るのを躊躇うも時間が来ればどのみちアウトだと思えば即座にそんな悩みは失せて消える。
「ああーっ…!!」
「くっ…⁉︎」
「ああっ…!」




…残り5秒というところで、意を決してコードを切る。
────景和に、ダイヤに、沙羅に緊張が走る。運命の一瞬。
その結末は────
「やった…!」
「やり、ましたあ…っ!」


────成功という形を迎えられた。
タイムリミットを過ぎたが爆発はせず。
パイナップル爆弾は消滅した。
なので思わず景和とダイヤが溢す安堵に満ちた発言、無理もないものだ。
「助かった…!」
「なんとか…なった…!」

祢音とシュヴァルも当然肩の荷が降りたような気持ちになっている。へたり込んでいるぐらいなので相当である。
「もう…普通 開けないでしょ こんなの」
安心したのでようやく景和は今回の件で沙羅にツッコミを入れる。そもそも沙羅が受け取らなければ景和がここまで必死になることはなかったのも事実だから。
「だって…おなかすいてたんだもん…」
「ふふ、義姉様らしい素直な欲求ですねっ♪」
とはいえ沙羅も彼女なりに思うところあっての行動だった、しょうもない理由と言われればそれまでな理由だがダイヤにはそれが可愛らしく映った。
「でっしょ! 私ってば素直さが売りですから!」
「すぐ調子に乗る…まあ、助かったからいいけどさ」
自らを普段から慕ってくれる可愛い義妹にそう言われてまず悪い気はしないので、沙羅も途端に饒舌になる。
景和もそんな実の姉を見て若干呆れつつ、けれどいつも通りなので悪い気はまるでしなかった。
「というか、パイナップル嫌いだったじゃん」
「それは過去の話、何年か前から実は嫌いじゃないもん」
「なかなか食べる機会がなかっただけでね」
そしてさらりと明かされたが沙羅はパイナップルを苦手で、しかし今は食べられるようになっているという事実。桜井家はなかなか姉弟揃ってパイナップルを食べる機会にここ数年恵まれていない家庭だった。
「ちなみに…ダイヤは存じ上げてますっ♪」
「えっそうなの? なら…本当だね」
そしてダイヤは沙羅とパイナップルを食したことがあるので知っていたというわけである。
「ダイヤちゃんには甘いねえ、景和♪」
「いや、単に信用できるだけだってば!」
景和もダイヤの発言ならば信用できたし、それを見た沙羅はダイヤはことを無意識に愛でている景和を微笑ましく思った。
(そろそろ…⁉︎)
「────あっ…ううっ…! うっ…うわああアアーっ!! ぁっ…!」

その頃、夜まで続いた英寿と道長の戦いは終局を迎えた。
…というより夜まで続いた道長が一方的に苦しみだして終局を迎えたというのが正しかった。
「流石に限界だったんだ…でも」
英寿が必殺技を発動しようとしたところで道長の体の限界が来て変身解除。
限界の理由は誰の目にも明らかで、長時間戦いが続いたことによりジャマトバックルから来る負荷に耐えられなくなったというものだった。流石に無理が祟ったのである。
「…大丈夫か? そんな物騒なバックル使い続けて…人間捨てる気か?」
「そうですよ、明らかに人体に異常を齎すバックルじゃないですか!」


英寿も思わず変身解除し、道長の容態を心配する。キタサンも同様で駆け寄って抱き起こそうと構えた。物騒なバックルって言い回しが しっくりくるジャマトを使用している今の道長が普通ではないと共に感じていた。
「────無問題。心配無用よ、浮世トレーナー、キタサン」
「…クラウン?」
「えっ、ええええええッ!!??」

──────それを声で制した者がいた。
そう、クラウンである。
しかしこの状況においては英寿とキタサンに対してただ困惑を招くものでしかなかった。
「クラちゃん、なんで⁉︎」
「訳は言えないわ、悪いけれど」
そう、なぜ道長を助けたのかということ。
この状況で彼を助けるということはともすればジャマト達に味方することと判断できてしまう。クラウン側のわけははっきりしているが、それを説明しないのだから余計にである。
「…なんか訳ありそうだな」
とはいえ英寿はそれをなんとなくだが察せていた。
「ミッチー、立てる?」
「余計な、世話…くっ!」
「無茶しないの、貴方は私のパートナーなんだから」
その間、クラウンは傷ついた道長を立ち上がらせる。道長としてはパートナーで担当ウマ娘である彼女に面倒をかけさせたくなかったが、この状況ではそう言っているほうが手間だと分かりもしたので差し出されたクラウンの手を弱々しく握った。
「…じゃあね、浮世トレーナー、キタサン」
「ギーツ…お前を倒すのは…時間の問題だ」

そうして2人は暗闇の中へ去っていった。
これで会うことはないなんて決して有り得ないだろうと思わせるような発言と共に。
「と、トレーナーさぁん⁉︎」
「落ち着け、ひとまずタイクーン達にも相談と行こう」
「は、はい…」
(クラちゃん…なんで、ジャマト側に?)
当然キタサンは涙ながらに動揺したけれど、英寿はそれを読めていたので宥めて、現状に引き戻した。
数時間続いた英寿と道長の戦いは、こうして英寿とキタサンに嫌な疑問を残す終わりを迎えたのだった。夜の闇がそれをどこか怪しげに彩っていた。
「南南東…南南東…」
「こっちだぞ、トレーナー」


同じ頃、ニラムは呑気に南南東を方位磁針で調べ、しかし間違っていたのでドゥラメンテのアドバイスのもと恵方巻を食べ始める。
そう、今日は節分の日だった。
「ニラム様、ジャマトのスポンサーおよびサトノクラウン様がバッファの復活を支援しているとの情報が」


すると、サマスがベロバが道長を支援の情報を報告してくる。ここに来てようやく、ベロバ側の事の次第が明るみに出てきたというわけである。
「そいつは面倒だなぁ」
「クラウン…単にトレーナーに惚れた弱み…だけではないな、あいつなら」
要は面倒な事態が発生したということで。しかしニラムもそこまで不安げではなく、またドゥラメンテはクラウンが並々ならぬわけで運営に敵対することを選んだのだろうと確信していた。
ちなみにあまり馴染みはないが、恵方巻は食べ終わるまで喋ってはダメである。そのせいでいずれ不幸が起きるなどとも言われたりもする。
「デザイアグランプリの進行を妨げるようであれば、対応するようゲームマスターに伝えますか?」
そしてサマスはベロバに対して対応するようにチラミに伝えるかどうか尋ねる。放っておいて大丈夫な事態ではないと理解できていたためである。
「スポンサー絡みとなると事は複雑だ。その時は、私が」
「私も同行しよう」
されど複雑な事態でもあるため、ゲームプロデューサーであるニラムはもちろん、そのサポートデバッガーであるドゥラメンテが出向くこととなった。
「! それもそうだね、クロウシアの試験運転も兼ねてみるか」
最近ドゥラメンテがサポートデバッガーという役職に就いた際に彼女に授けたある変身システムを試すという意味合いもあった。
「ドゥラはともかく、プロデューサーが直々に?」
ただ、それにサマスは疑問だった。結局のところ危ない行動だと感じていたから。
「興味があるんだよ、この世界のリアルに!」
「この番組を番外から壊しかねない最強の芽など早めに摘み取っておくに限る、それだけです」

しかしそれでも2人の気持ちは変わらず、またニラムに関してはこの世界をもっと見ていたいという理由もあった。
「「…」」
((祢音ちゃん(さん)…))
その少し後、サロンにて意味深な面持ちで何かを見つめる冴とタルマエの巣ががあった。
見ていたのは2人がそれぞれの片手で持っている1枚のカード。
そこには
『デザスターミッション』
『他のライダーにジャマト爆弾を命中させろ』
という表記が為されている。


これが何を意味しているのか、それはまだ分からないまま夜は暮れていくのだった。

