乖離Ⅳ:ジャマトからの宅配便!(ChapterⅣ)
名無しの気ぶり🦊
「まさか参加者の家族が狙われるなんて…」
「これが…デザイアグランプリなんだ…」
参加者の家族が狙われたという事に、冴はいくらか恐怖を覚え、そしてそれはタルマエも同様だった。
「あっ…そういえば、冴さんにも、弟と妹がいるって言ってたよね」
「うん、確か練習のときに…」
それを聞いた祢音とシュヴァルは冴には下の兄弟がいると先日言っていたことを、するりと思い出していた。
「自分の家族が標的にされたらって想像したら…とてもじゃないけど冷静でいられない」
「私も故郷の家族、仲のいいおじさんやおばさんがこんな目に遭ったら…黙ってる自信はないです」

このトレーナーとウマ娘に共通するのは家族や身近なものを背負っているということ。
ゆえに、その者達が今回のような出来事で仮に酷い目に遭うのであればなりふりなんて構っていられるわけがないと冴もタルマエも考えていた。
「うち、沖縄料理屋なんだけど。父親が病気で倒れて経営が回らなくなって…」
「でもスポーツで全国目指してる下の子たちの夢をかなえさせてあげたくて…。年齢で衰えない身体能力さえあれば、私もずっと現役で稼いでいられるから…」







冴のほうは写真を持っていたのか祢音とシュヴァルに見せてくれる。そしてその傍ら、なぜ自分がデザイアグランプリで今の願いを掲げているのかを真剣な面持ちでゆっくり語って聞かせた。
「家族を養うために…?」
「うん。だから…負けられないんだ!」
要は家族のためである。決して自分の名声が欲しいというような利己的な目的ではなかった。
「私はそんなこの人に故郷のために頑張る自分が重なったのもあって、トレーナーさんとしての指導を望んだんです」
タルマエが冴に師事している理由も家族という、自らにも通じる存在のために冴が命を懸けているから、それに当時共感したからだった。
「そうか、家族と故郷…」
(…僕とは似たもの同士だったんだ…)
そしてシュヴァルもそんな二人に自分をどこか重ねてしまう。劣等感は感じこそすれ、家族を大切に思っていないなんてことは万に一つもなかったのだから。
「シュヴァルちゃんもだけど、そんな風に家族を想えるって、うらやましいな…」
「祢音ちゃん…」
「祢音ちゃんの家族は?」
「うちは、ちょっと…特殊だから」
「はい、祢音ちゃんのご両親は愛情はあると思うんですが…」

けれど祢音は家族に対し、今の境遇ゆえにしがらみや束縛感、鬱陶しさをそれなりに強く抱いており、だからか3人が羨ましかった。
というかシュヴァルに対しては今までも幾度かそんな眼差しを向けたことがあり、シュヴァル本人も誘拐未遂事件で出会った頃からその事情をよく理解しているため同情や嬉しさを感じこそすれ煩わしさは感じていなかった。
その度に頬を緩ませたものである。
「…そう」
そんな祢音を冴とタルマエはまた意味深な目で見つめている。何か思うところがあるようだった。
「フルーツにも種類があるようだな」
「今私達が分かってるところでスイカ、リンゴ、パイナップル…3種類ですね」
その少し後英寿は、配達ジャマトが運ぶフルーツにはいくつか種類があるとキタサンや景和達に解説していた。
「うちに仕掛けられたのはそのパイナップルだった。…ってことは、パイナップルの爆弾を使うジャマトを見つければ…!」
「沙羅さんをあたし達が助けられるってことですね、トレーナーさん!」
すると景和やキタサンが思いついたのは沙羅に仕掛けられたのがパイナップルの爆弾なら、パイナップル爆弾を運ぶ配達ジャマトを見つければ解除のヒントが得られるということ。
至極当然だが、この状況で頭がいつもより冴えているというのも理由としてあった。
「ああ。問題は、俺たちに爆弾を投げたデザスターが誰か…」
「ジャマトの仕業と考えるには明らかに不自然な位置から、あたし達四人のところに転がってきたっぽいですからね…だとすると…」
なのでそこは殊更問題ではなく、目下のところの謎はやはりデザスターが誰かということ。
先程のリンゴ型爆弾も恐らくデザスターの仕業と英寿ら四人が考えていればなおさらの課題だった。
(ナーゴ(祢音さん)かロポ(冴さん)しかいない…)
推理する英寿達。
とはいえもうこの時点でデザスターは冴か祢音の二択になってしまっているし、あのバレないようで明らかに不審な投げ方をしたとあっては、デザスターはめちゃくちゃ墓穴掘っているようでもあった。
「デザスター投票、中間発表よ」
「英寿様に2票、祢音様に2票、冴様に2票。そして、未投票が2票となっています」


そして更に少し後、デザスター投票の中間発表が行われた。
沙羅という家族が人質にされている景和に投票する者は流石に いなかった。
そして前回同様、英寿とキタサンは様子見の未投票だ。
これにより、先程まで親しくしていた祢音か冴のどちらかが、相手に入れているという怖い図式が生まれたわけである。
「今は私達が足を引っ張り合ってる場合じゃないよ。 沙羅さんを助ける方法を探そう」
「僕達からしても、沙羅さんは大事な存在ですから…」
そんな祢音もシュヴァルも、むしろ自分は疑わしくないと言わんばかりに今現在窮地の景和とダイヤを励ます。とはいえこれは彼女達の偽らざる本音でもあった。
景和「ありがとう、祢音ちゃん、シュヴァルちゃん…」
「お二人の助けがあればきっと義姉様も助けられるはずです…」
そんな二人の善意を景和もダイヤも喜ばしく感じた。自分達だけでこの状況をどうこうできるとは考えておらず、だからこそ助けてくれる誰かは多いに越したことはないからだ。
「……?」
「うーん…」
(デザスターだとしたらあり得ない余裕…いやでも────)
一瞬こう言うということは祢音が未投票なのかなと彼等なら感じるだろうが、英寿とキタサンはそうではなかった。
『なるほど、得票数で決めるなんてまさに人狼ゲーム…』
『シュヴァルちゃん?』
(なんか訳ありなのかな?)
何より、ジャマーボールゲームの最中にシュヴァルがデザスター投票に対し、何か不安そうな目線を送っていたのをキタサンはもちろん、彼女は気づいていなかったけれど実は見ていた英寿も忘れてはいなかった。
(…シュヴァルちゃん、この間今回の件に関して意味深な表情を浮かべてたのをあたしはまだ覚えてる)
(あれも…祢音さんがデザスターだったからとするといろいろ腑に落ちる)
あれを踏まえるなら、デザスターが祢音という可能性は高まる。ここまでの二人の振る舞い、その全てとは言わずともだいたいにはデザスターとその担当だからという理由が付けられる。
(と、キタは考えてるだろうな。まあ俺も似たところだが)

英寿も似たことを祢音とシュヴァルに懐疑的な目線を向けながら考えていた。
『『SET』』
「パイナップルを使ってるジャマトを捜すぞ」
「ああ!」
「「変身!」」
『GET READY FOR BOOST & MAGNUM』
『NINJYA』『DEPLOYED POWERED SYSTEM』
『GIGANT ARMS』
『READY FIGHT』


それから1時間ほどのちゲームが再開され、パイナップル爆弾を運ぶ配達ジャマトを探すため英寿と景和は開幕から変身して挑む。
時間ももう50分弱しかなかった。
「あそことか怪しそうです!」
「よし!」
キタサンがすぐ荷下ろししている配達ジャマト、側に置かれている果物型爆弾の置かれている箱を遠方から見つける。
「くっ、ハズレか…」
「でも落ち込んでいる暇はありません!」
「ダイヤちゃん…うん!」

なので英寿と景和で撃破して箱を確認したが、その中には沙羅を苦しめているパイナップル型爆弾と思しき代物は無く
つまりはハズレ。
「待てッ!」
「「「ジャアッ⁉︎」」」





その後間もなく逃げる配達車を見つけ追いかけるが、ジャマトの一体がフルーツ爆弾を投げて妨害してくる。
が、タイクーン/景和は分身で配達車を切り刻んで止める。
「吾妻トレーナー、なんで邪魔を⁉︎」
「本当に生きてらしたんですね…」

その流れで止まったトラックの荷台に四人で飛び乗りパイナップルが あるかどうか探していると…同じ道の奥から重々しい雰囲気と共に現れたのは道長だった。
「道長さん! 本当に無事だったんですね…!」
「────お前らの相手は俺だ」

目的はもちろん、英寿達の妨害。
そう、あれから道長はクラウンの祈りと誘導虚しくベロバの提案に乗ることにしたのだった。
そしてまず出された指示が英寿達の妨害というもの。沙羅が死ぬことで生まれる不幸を味わいたいからという悪意に満ちた理由で命じたのは言うまでもない。
「「えっ⁉︎」」
「やっぱり…なんか変だと思ったらあたし達の邪魔しに来た感じですか…なんでですか!」
景和とダイヤは驚く一方で英寿とキタサンはそうではなく。一足早く道長と再会していたからか、その時と放つ雰囲気が別物に近くなっていることを瞬時に察せた。
「お前らに話す必要はねえ」

そして自身が敵対する理由を話してやるほど、道長も親切ではなく。
『JYAMATO』
「ぐうッ⁉︎…変身…!あゝアアアアーーッ!!」
「「「「⁉︎」」」」


前回同様、苦痛に喘ぎ辺りに響くような怒号にも似た悲鳴をあげながらバッファジャマトフォームに今回も変身を遂げた。
もちろん今回も複眼が片方潰れ機能していないままである。
そして当然だが、四人にはこの姿もそのためのレイズバックルも初めて目にするものだった。
「何あのバックル⁉︎ …凄く殺意に満ちたような…」
(命を削って、人であることをやめて、あたしにはそんな雰囲気に見えるよう…)
だがクラウン同様、初見であってもで人体に有害だと理解できる程度の毒々しさと禍々しさは理解できた。できてしまった。
「────あゝアッ!!」
「ダイヤちゃん⁉︎」
「キタちゃん⁉︎」

そう唸りながら太く長い蔦をキタサンとダイヤ目掛け放つ。苦しみゆえ理性的ではないからか、道長本人も意図してはいなかったがこの場にいる都合上巻き込まれる覚悟はあるだろうとは踏んでいたため、当たっても止むなしと考えていた。
そしてキタサンとダイヤは互いを庇いあうように駆け寄り抱き合い────
「────ぐうッ…!」
「「トレーナーさん(桜井トレーナー)⁉︎」
「…何、するんですか!!??」
────しかし、景和が背を向けてまでガードしたためどうにか無事だった。もちろん景和本人も瞬間的に土遁の術のようなものできょだいな土壁を二枚ほど貼って勢いと威力をある程度殺したうえで受けたため、自身へのダメージも怒り心頭で喋れる程度には抑えられていた。
「どういうつもりか知らないが…相変わらず血の気が多いな…」
「────いや、俺達それぞれの教え子に分かりやすく手を出すあたり、理性も捨て去ったか」
英寿もこの一連の流れを見て油断はもちろん、容赦も同情もしてやれないと踏み、自らの身をもって食い止める覚悟を決めた。その言葉一つ一つも重々しい雰囲気を纏っている。
「黙れっ!!」
「おっと、ここは通さんぜ?」
それでもなお、いや当然に継戦の意思と闘志を見せる道長を前に立ち塞がり、余裕そうに煽ってみせる。
「お前らは先に行け!」
「「英寿(浮世トレーナー)…頼んだ(頼みました)っ!」」

そして景和・ダイヤ・キタサンに先に向かいパイナップル型爆弾を運ぶジャマトを見つけだすような意味合いの指示を短く、だがしっかりと飛ばす。
景和もダイヤもそれを確かに汲み取り、感謝しながら先へ駆けていった。
「あたしは残りますからね!」
しかしキタサンだけは英寿の安全を案じ、その場に残ると決意した。
「知ってるよ! せいぜい陰からこいつの異変を目に焼き付けといてくれ!」
「了解ですっ!」

英寿もそれは読めていたからか、近くの物陰から今の道長の様子を観察し彼女なりに分析するようにキタサンに信頼ゆえの指示を飛ばすのだった。
