乖離Ⅳ:ジャマトからの宅配便!(ChapterⅡ)
名無しの気ぶり🦊

「第3回戦、時限爆弾ゲーム。仕掛けられた時限爆弾を見つけて解除してください」
「今回は探索に限り担当ウマ娘も参加OKよ」
そして少し後、次のゲームが始まった。
第3回戦となる今回は時限爆弾ゲーム。
「りょーかいっ、スイープさん!」
「当然爆弾を配達しているジャマトもいます。仕掛ける前に止めてください」
「物騒な郵便配達…」

仕掛けられた時限爆弾の解除が目的ということになる
また、配達ジャマトが追加の爆弾を運んでいるので、そちらは仕掛ける前に倒す。
『BOOST』
『NINJYA』『DEPLOYED POWERED SYSTEM』
『GIGANT ARMS』
『BEAT&MONSTER 』
『ZOMBIE』
『『『『『『『READY FIGHT』』』』』』』

配達ジャマトのもとに到着した英寿達プレイヤーは、変身してゲーム開始。
それにたまたまだが合わせたように再び宅配ジャマトがやってきたので、英寿が華麗なアクションでまずは一人倒してみせる。
【SECRET MISSION CLEAR】
「あれっ、いきなりトレーナーさんへのシークレットミッション?」
すると早々なそのプレイか条件だったのか出現したシークレットミッションクリアの表記。
見ると『最速でジャマト一体を撃破する』というもの。それは他のプレイヤーと比べての最速なのか、今までのゲームの中で最速記録という事なのかまでは分からない。
「なるほど、これがサポーターからのプレゼントか」
「ありがたいですね!」

が、この状況では渡りに船。迷わず躊躇わずデザイアドライバーの右スロットにセット。
『REVOLVE ON』
そしてすぐさま流れるようにリボルブオン。
そのままスイッチオンとばかりにバイクのようなスロットル、ブーストスロットルを捻り──。
『DUAL ON』
『GET READY FOR BOOST & MAGNUM』
『READY FIGHT』
使い慣れたその組み合わせ、マグナムブーストフォームに変身完了した。いつもの装備に心なしか英寿も嬉しそうで、またキタサンにはそのマフラーが英寿の感情を表すように揺れているかのようにも見えた。
「心ゆくまで暴れな、ギーツ」
「存分にキタさんや皆さんを守ってくださいな!」
ちなみにこのシークレットミッションはもちろんジーンとデジタルの計らい。
サポーターが設定する都合上、ミッションの難易度も弄ることができ、結果激ムズなものから今回のような推しが達成しやすいレベルのものまで自在に設定が可能となっている。
「お、やっぱりマグナム似合うね」
「浮世トレーナーと言えばマグナムブーストですねっ♪」

景和もダイヤも英寿と言えばマグナム、そしてブーストの2種の姿とバックルだなぁと言わんばかりにしれっと称賛してくる。
「どうも。そういうお前もニンジャ、意外と合ってんな♪」
「トレーナさんがあげたパワードビルダーとクローバックルもいい感じにマッチしてますね!」

それに当然英寿も悪い気はしない。
ので景和にはニンジャが似合っているなと、それに追随するようにキタサンは英寿があげたパワードビルダーとクローも景和には似合っているなと褒めてみせる。
戦闘中ながら和やかな雰囲気が流れていた。
「あれっ?」
「ん? リンゴ…? えっ? なんで?」
「というか、私達の後ろから…?」

──かと思いきや、ジャマトの気配もしない方向からなぜか転がってきたリンゴがあった。
それはつまり、果物爆弾を探している最中な都合上取り扱い注意な代物の可能性もあるということであり。
「「「うわわッ!!??」」」

勢いよく四人を巻き込んで爆発!
「イテテテテ…ダイヤちゃんもキタちゃんも無事か。にしても爆弾、どこから来たんだ…?」
(うわぁ…トレーナーさんの胸筋、意外と硬い…流石スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ…)

英寿はすかさずキタサンを抱いて転がり、景和はダイヤを抱きしめるように庇っていたのでライダーになっている状況ということも踏まえて大したダメージはあまりなかった。
キタサンは意外と鍛えられた英寿の筋肉に少し驚き見惚れるという意味でダメージは受けていたが、特段問題はないものである。
「後ろのジャマトは全て倒したはずだが…」
「あたし達の後ろから来たのも気になりますね…」
((……やっぱり))
そしてこの状況、ジャマトがいない方向から転がってきたリンゴに、当然英寿もキタサンも景和もダイヤも少なくない不可解さを覚えていた。
「「……⁉︎」」
((嘘…⁉︎))


そんな四人をロポ/冴とタルマエが見ていた
はたして二人の仕業?やはり彼女が?
狼が犯人か。地味な嫌がらせか?これで倒せると思ったらと頑丈だったのか?
これに気づいていた者がいたからそう思うこと間違いなしな意味深な表情を二人して浮かべていた。
ちなみにその後、残っていた配達ジャマトの撃破に あたるが数体逃がしてしまう。
ただ今回は全滅がクリア条件ではないので、ひとまずは良しとプレイヤーやウマ娘達も割り切ったのだった。
「「はぁ…」」
しかし冴とタルマエは仕掛けられた爆弾の情報は得られなかったと言わないばかりに肩を落としてしまう。先程と打って変わったような振る舞いだった。
「いや、分かりましたよ」
「はい、キタちゃんや私が見た限りでは」
が、そんな二人を励ますようにキタサンとダイヤがその悩みを打破できるかもしれない情報を仄めかす。
「ああ、ジャマトが使ってたのはフルーツ形の爆弾だったな」
「「フルーツ…」」
英寿もすかさず提示する。この状況、デザスターを探るためだからと疑心暗鬼になるよりは爆弾の情報を出し合ったほうが余程得策だろうと踏んでのそんな反応。
それに何か景和もダイヤも頭に過ぎるものがあった。
「ん、フルーツ…何だろう、何か思いつきそうな…」
「どうしたの、ダイヤちゃん?」
「ああうん。なんかねキタちゃん、さっきそれっぽいものを見たような…」
そう、果物爆弾の果物の要素をゲーム開始前に何か耳にしたような気がしたのだ。
それも頭にすぐぼんやりと過ぎるあたり、大して時間も経たないレベルに少し前のタイミングで聞いたような。
「タイムリミットの日没までに見つけないとね」
「日没…。どこかで…」
冴が口にした日没というワードにも何か引っ掛かるものがあった。これまた少し前にも聞いたことがあるような、そんな響き。
「「────まさか⁉︎」」

────そう、それは景和にとっての家族の、ダイヤにとっての義姉の危機を示していて。
英寿が示唆した『フルーツ型の爆弾』という形状により景和とダイヤは『日没』というリミットも併せて、間違うこともなく沙羅が頭を過ぎる。
今朝方謎の配達員から受け取った日没が賞味期限のパイナップル(果物)。
あまりに今回のゲームの取り扱い注意品、その条件に当てはまりすぎていた。
「「姉ちゃん(義姉様)⁉︎」」
「あっ、景和、ダイヤちゃん…これぇ、外れないィ…!」


ダイヤ共々逸る気持ちを抑えきれぬままに桜井家に景和が戻って来てみると、そこにはパイナップル型の爆弾から部屋を埋め尽くさんばかりに長く長く飛び出た赤と青のケーブルのような蔦のような何かに巻き付かれた沙羅の姿が。
食い込みや締め付けもキツいようで、元々非力なほうである沙羅一人では泣きっ面に蜂という状況だった。
「……ってええーっ⁉︎ な、な、な…なんで⁉︎」
「英寿様に、キタちゃんに祢音ちゃんにシュヴァルちゃん⁉︎…ごめんね、散らかっちゃってて」
そんな折に友人を大勢連れて可愛い弟が自分を助けにきてくれたとあれば、別種の緊張や興奮が襲い思わず捲し立てるのも桜井沙羅という人間ならば無理はなかった。
縛られているのに冷静、ある種の大物の器だ。
「そんなこと言ってる場合じゃないって!」
「早く解除しないとです!」
とはいえ、それは非常時でなければ全然許されたし笑えたもの。つまり今現在の状況はまるでそうでない、危険と波乱に満ちた状況だということだ。
景和は無理やりケーブルを引っ張り、ダイヤは彼女らしからぬラフな服装にこれまた似つかわしくはない軍手を両手に嵌め、このケーブルを断てるような脆弱な部分がないかとケーブルの全域に目を向けている。
「キタもそうだが、お前ら待て。爆弾だとしたら丁寧に扱わないと危険だ」
「あっすいません! ですよね、触ったせいで爆発って可能性もありますもんね…」
それでもなおケーブルを引きちぎろうとする景和を、爆弾なら慎重に解体しなければ危険だと英寿は止める。その言葉に景和同様流行っていたキタサンは思わず手を止め震え出す。
「確かに」
「細心の注意で臨まないといけませんね」
共に桜井家に来ていた冴もタルマエもこれには全くもって同意。
「それにその2色の線、切るほう間違えたら爆発するかもしれないぞ」
「まさかあたしが生きてきてコナンの映画みたいなことを現実で体感することになるなんて…」
加えて2色ケーブルがあるならば、あり得る可能性はどちらかがブラフ、凝縮されたロシアンルーレットじみた危険なギミックだというもので。
およそ生きてきて経験もしない者が人間なら多数派だろう映画のピンチのようなこの状況、容易く人命を潰せてしまうこの現状にやはりキタサンは怖さを抱かずにはいられない。
「そうだ、赤と青、どっちを切れば…」
「間違えれば、義姉様が死ぬ…そんなの、絶対嫌ですっ!」
そう、時限爆弾を解除しようにも、爆弾から伸びている赤と青のケーブルのどちらを切断すればいいのか分からない。
要はそういう課題が立ちはだかっているのだが、景和もダイヤも姉(義姉)の生死が今日一日の間に懸かっていればこそ悩むべきか躊躇わずどちらかを切り捨てるべきか、その手に力が籠ること抜けることの繰り返し。
「何故、こんな危険なゲームに祢音とシュヴァルさんをエントリーさせたのですか!?」

同時刻、この様子を鞍馬夫婦が見ていた。
オーディエンス部屋で、ゲームを見守る光聖と伊瑠美は連れて来られていた。
「世界平和に貢献すれば、祢音はもちろん、あの子を小さく頃から慕ってくれてるシュヴァルさんの理想が叶う。自立して生きていくいい機会じゃないか」
当然、伊瑠美は 愛娘の祢音とその親友であるシュヴァルに危険なことはさせたくないので、光聖に異論をぶつけるが、あくまで予定調和とでも言わんばかりに淡々と受け答えを行っている。
「だからって、何もうちの子と私達と仲のいい夫婦のお子さんがやらなくたって…!
「大丈夫、まだ明かしていないが心強いサポーターがついているからな。じゃあ、私は仕事に」
それでもやはり食い下がる伊瑠美に光聖が告げたのは祢音にもいるはずの、いやいることがこれにより確定したサポーターの存在。
シュヴァルが今回のシーズンのナレーション時点でサブサポーターと評されていたことから分かるように、既に裏でいろいろと彼は動いている。
「あっ……」
「もしかして、伊瑠美さんから…?」
その後間もなく伊瑠美から説教じみた心配の電話が祢音のiPhoneに届く。横で見つめるシュヴァルも、伊瑠美の祢音に対する接し方はよく知っているからか不安げな表情を浮かべている。
「うん、そうみたい。おおかた私とシュヴァルちゃんがこんなことしてるのが嫌なんだろうね」
「…もしもし」
とはいえ無視しても延々とかかり続けるのも知っているため、嫌々でも通知を切るわけにはいかない。
祢音は、シュヴァルにどうしようもないと言わんばかりの微妙な表情を浮かべ、ため息をつきつつ電話に出た。
「パパが何と言おうと、こんな危険なショー、ママは認めません!」
「シュヴァルさんまで巻き込んでいるのに、もしそのまま二人ともいなくなってしまったら…!」
(…相変わらず、祢音ちゃんのことには病的なまでに心配性だな、伊さん)
これに関しては伊瑠美でなくても、人の親なら当然の感覚と言えるもの。
そして、そのまま伊瑠美は時限爆弾のあるような場所から二人に離れるように告げる。
その言葉で、オーディエンス部屋で観ていると気づいた祢音とシュヴァルは驚く。
「──そういうわけにはいかない。助けたい友達がいるから」
だが、こちらにだって引き下がるわけにはいかない十分な理由がある。だからこそ拒絶した。
『友達なんてどうでもいいでしょ!』
「どうでもって…! それこそシュヴァルちゃんは私の親友で幼馴染です!」
が、なおも伊瑠美は喚く。結果、幼き頃の特別な危険により堅く結ばれた親友を大切にしている祢音に言ってはならない一言を思わずでも言ってしまう。これには黙っていられるわけがなかった。
「だからよ! 友達は一人いれば十分だし、それにあなたには結婚を約束した お相手が居るんですから!」
ただ伊瑠美からしてみれば、それは自分の想定内だからOKという認識、でなければ許さないことといった具合で誘拐という出来事に酷く囚われていて。
(…遊びに行くたびに僕のことも可愛がってくれる伊瑠美さん…でも、こうやって祢音ちゃんの生き方を束縛するのだけは…いただけないや)
だから友達は助けなくてもいいと言えてしまうのは今のシュヴァルには我慢ならなかった、トラウマがあるからなのは理解できても。
「────私は認めてない。友達と遊ぶ事も、恋愛する事も禁止されて、私の自由を何もかも奪って…!」

その想いとさながらリンクしているかのように祢音もまた思いのたけを自らの母にぶつけていく。幾度目になるか分からないそれは、しかし前回以降は強い自信に満ちていて。
「…これは、あなたの幸せのためでもあるんです!」
「…それはやりすぎだと思います、伊瑠美さん」
「シュヴァルさん…」
本質的には祢音という愛娘の幸せを願っているがゆえに、そうした祢音の偽らざる想いに最近は共感できるからか伊瑠美は大した反論もできない。
おまけに今回は娘の親友の援護射撃まで加わると来た。
「誰かの幸せはどこまで行ってもその人が手に入れなきゃいけないもの。だから…祢音ちゃんの幸せは、祢音ちゃんのものだって…僕は、思います」
「ッ、それは……」
娘同様に譲れない想いに満ちたその発言になおさら何も返すことはできない。親として娘の幸せを何にも増して強く望んでいればこそ、理解できるものでしかなく。
「────お母様、自分の幸せは自分で叶えるって、私決めたから」
「…僕もそんな祢音ちゃんを、僕の一番の親友で幼馴染を、僕のオンリーワンのトレーナーさんを側で支えたいって思って、ます…」

お互い悪意があるわけじゃないと分かりきっているから、きちんと話し合えば分かり合えるかもしれないし話し合った結果そうならなかった現状なのかもしれない。
とにかく、祢音とシュヴァルの決断をこの場の誰も、自分自身でさえ咎められない。それほどに純粋で迷いのない輝きを今の二人は放っている。
「…二人とも、大丈夫?」
「いかにも揉めてましたけど…」
そうして母を言葉に詰まらせたまま祢音が電話を切ると、途中から聞いていた冴とタルマエが心配して二人に声をかける。
「…うん」
「僕も祢音ちゃんも…大丈夫、です…」
もちろん、今すぐ肯定してもらえるわけじゃないなんて分かりきっているので辛いけれど、されどそこまでメンタルに来るものは今はない。
最近は変わらないやり取りなのだから。
(鞍馬財閥、それと仲がいいグラン一家…アスリートとして名を馳せる仲で一度名前を目にしただけだけど…凄い一族だって思った)
────そんな祢音とシュヴァルを見ていて、冴はもちろん。
(でも、その実態は…うん、ヴィルシーナさんもそうだけど、極々私やトレーナーさんと同じ、当たり前に悩んで幸せのためにもがいてる人間の家族とウマ娘の家族なんだ…)
その担当ウマ娘であるタルマエもまた、自らが置かれた境遇にどこか似たものがあると、身分的に遠い位置にいる高嶺の花ではなく、どこかにきっといるような自分達と変わらないような悩みを秘めた少女達なのだと。
そう、感じるに至っていた。
