乖離Ⅳ:ジャマトからの宅配便!(ChapterⅠ)
名無しの気ぶり🦊


ジャマーボールゲームおよび大智がその中で凝らした策を暴かれ投票により脱落してから一日。
小休止となったその間に祢音とシュヴァルへインタビューが行われた。
【デザスターは五十鈴大智さんではありませんでした】
『みんなで投票した大智くんがデザスターじゃなかったなんて…』
『…正直、祢音ちゃんも僕もそのせいもあって不安がまだあります…』
相変わらず直球な質問に対し、祢音がどこか他人事として慣れたように淡々と薄ぼんやりとした答えを返す横で、シュヴァルは逆にそう渦中に未だいるかのような雰囲気で返答を返している。
【残った4人の中に裏切り者のデザスターがいます】
『ちょっとパニックですけど…とりあえず、今度こそデザスターを突き止めないとですね』
『早く解決するに越したこと…ないですから』
そして次の質問には二人揃って何か思うところがあるような表情で返答を返したのだった。

「ハロー!!」
そして次の日の朝。
朝食を摂り終えて少しした直後の英寿やキタサン達の前にいつも通り陽気なノリで現れたチラミ。次のゲームのルールを行うためだった。
「「うるさいですよ!」」
「あら酷いわぁん♪」
当然、彼の声をうるさいと感じた冴とタルマエにツッコまれる…
「ルールは二つ。まず、最終戦が終わった時にオーディエンスの支持率がトップであること!」
まぁ、そのツッコミも気に留めず、今回のデザグラのルールを改めて解説。
自分でやっていることに関しては、特に深い意味はないそれである。
「ただし、デザスターを見破れなかった場合はデザスターがデザ神の座を横取り。フッフッ…!さて、誰かしらぁ!?」
これだけの説明だとシンプルだが、当人達はなまじ知り合いがいるからというのもあってかやりにくさもあった。
「ん…義姉様?」
「ほんとだ、しかもなんでダイヤちゃんのほうに…」
「とりあえず出てみますね」
そんな折だった。
ダイヤの電話宛に沙羅からの電話が入ったのは。なぜダイヤのほうに当てたのか、本人も景和も一瞬疑問符を浮かべたがとりあえず出てみることにした。
「もしもし義姉様、私です、ダイヤです!」
「トレーナーさんも隣にいます、何かありましたか?」
万が一の非常事態をも想定し、努めて気丈に振る舞う。ダイヤらしい振る舞いだった。
「けぇわぁ〜、ダイヤぢゃぁ〜ん!!」
「! どうされました、義姉様⁉︎」
すると聞こえてきたのは姉(義姉)の悲鳴。それも並々ならぬものだったので、ダイヤも思わず電話越しに呼びかける。
「私、もう生きていけない…」
「姉ちゃん、何があったの⁉︎」

何やら自らに終わりを悟ったかのような諦めに満ちた返事。
これは只事ではない。そう判断したなら黙っておけるわけもなく、景和が躊躇わず問いかけると────
「包丁で切れないよー!」
「「……ええッ…⁉︎」」


その内容はというと、景和とダイヤに調理の助けを求めるなんともこの状況では期待外れなもので二人の肩の力は当然抜けた。
「あはは! 相変わらずほわほわしてるなぁ、桜井トレーナーのお姉さん」
「声が笑いごとじゃなかったから心配したよ…」
側で二人を心配そうに見ていたキタサンとシュヴァルもこれには驚きより安心感のほうが勝っていた。
「ふふ、でも義姉様らしいです♪」
「ダイヤちゃん優しいね…姉ちゃん、そんなことでいちいち電話してこないでよ…」
ダイヤも分かってしまえば沙羅らしいと微笑ましく、また景和も慣れた素っ気ない反応に戻っている。
ちなみに部屋は凄く散らかっている。
「で、何を切ろうとしてるの?」
「どなたかからのお中元の品でしょうか?」
なので何を調理しようとしていたかを二人とも気にする。慣れないことをしようとしているのだから当然と言えば当然だった。
「ダイヤちゃん相変わらず賢いねえ。うん、寒中見舞いの果物だよ。部屋に届いてたやつ。今度、二人が帰ったら切ってあげるから!」
「ダメだよ。期限が「本日の日没まで」って書いてあるんだから」
そう、切ろうとしているのは今朝方届いた寒中見舞いのフルーツ。
いきなり届いたのだが、その時分は当然沙羅しかおらず、景和にはあとで電話連絡を入れたため知っているというわけ。
ちなみにその際の配達員はドア越しに見えた限りでは帽子を目深に被っており、おまけに連絡を一言寄越すとすぐさま荷物を置いて立ち去ってしまった。
「そうなんですか?」
「うん、貼られたでっかい紙にそう書かれてたんだ」
聞けば、それが寒中見舞いのフルーツだと分かったのも賞味期限が分かったのも梱包用ダンボールにでかでかと寒中見舞いの果物と書かれていたところによるものが大きい。
「デカい紙ねえ…」
「どうかしました、トレーナーさん?」
しかし英寿はそれが気になるようで。キタサンもそんなトレーナーの表情に目ざとかった。
「ああいや、やけに雑な送り主だなと思ってな」
「あ、そう言われれば確かに!…なんでなんだろ」

そう、いろいろと腑に落ちない部分が多かった。事実であれば不誠実極まりないその配達員に英寿とキタサンは何やらきな臭さを感じていた。
「はーい、何かしら………‥あんた達、緊急事態よう!」
「「「「「「「「!」」」」」」」」
そうこうしているうちに、事態は急変。
サロンの電話が鳴り、チラミが受けると…緊急事態だと言う。
「あれが!」
運送業者に扮した『配達ジャマト』達が、荷物を届けようとトラックから荷下ろししている。チラミから受けた報告通り、ジャマトのその有り様はさながらシロクマ宅急便。
「ダイヤちゃんとシュヴァルちゃんは俺たちに代わってあの積荷のチェックお願い!」
「ジャマトは私と景和でなんとかするから!」
微笑ましくなったが、とはいえ倒すべき存在であることには変わりなく、見つけてそいつを一刻も早く倒さねばと景和、そして事を当然把握している祢音の声と体躯に力が籠る
「了解です!」
「ま、任されました…!」
二人の頼みを受けたダイヤはもちろん、シュヴァルもそそくさとトラックの荷台に飛び乗り目についた箱からバラし始めた。
『『『『SET (CREATION)』』』』
「「変身!」」
その間に景和と祢音はそれぞれのデザイアドライバーにレイズバックルをセット、変身。
『NINJYA』『DEPLOYED POWERED SYSTEM』
『GIGANT DUALLER』
『BEAT&MONSTER 』
『『『『『READY FIGHT』』』』』
今回、景和は英寿から前回のゲームの件を讃えられて得たパワードビルダーレイズバックルを、祢音は大智の物をそのまま譲り受ける形で得たモンスターバックルを反対側のスロットにセットし使っている。
そのため景和はタイクーンニンジャパワードビルダーフォーム、祢音はナーゴビートモンスターフォームとなってその場に並び立つこととなった。
「「はあっ(やあっ)!」」
そのまま目的は解らないがジャマトの撃破を試みる。
すぐさま分かったが配達ジャマト達の戦闘力自体は大したことがなさそうだった。
「スイカ?」
「! ダイヤちゃん、シュヴァルちゃん危ないッ!」
「「「「うわっ⁉︎」」」」


そして手荷物検査が終わったダイヤとシュヴァルがこちらに向かってきた直後、二人が荷台から降りた影響でダンボールから転がり出たスイカが…爆発。
「…うう、先程チェックした限りではどの箱も中にあったのは世に出回っている何かしらの果物ばかりだったのですが…すいません、トレーナーさん」
「僕達の目を軽く欺くほどに精巧に作られた爆弾だったなんて…くっ…!」
先程確認した時点では見た目、手触りや質感、重さともにどの箱の中身も生の果物でしかないと判断づけた直後のそれだったのでダイヤとシュヴァルは特に驚き、そして自らの不甲斐なさをすぐに悔やんでいた。
「私たち運営のところにこのようなものが」
「これって…ジャマトが使ってた言葉じゃ…?」
「独自に解析して身につけてたクラちゃんがいないのが悔やまれますね…」
その後一同がデザイア神殿に戻ると、ツムリとスイープからある説明を受ける。
運営にジャマト語で書かれた怪文書が送られてきたとのことだった。
しかしいつものメンバーで最も解読に長けたクラウンは生憎といない現状である。そう、あれから独学であの文書を元にジャマト語を身につけ、流暢に話せるようになっていた。
その結果ジャマトの親玉と手を結ぶことになるとはなんとも皮肉な話だが。
「そこは問題ないわ、ねえ使い魔?」
「はい。翻訳したものがこちらです」

とはいえだからといってとりわけ問題視するほどでもなく、運営により翻訳にかけられたものが用意されている。
「お前たちの世界に…時限爆弾を仕掛けたあ⁉︎」
「いきなり物騒な話だべさ…」

内容はまあ穏やかではなかった。
この地球のどこか、いやまあプレイヤーの所在地の近隣だろうが、とにかくこの世界のどこかに時限爆弾を仕掛けたというのだから。
「…待ってくださいスイープさん、ツムリさん。ということは…⁉︎」
「…さっきのが時限爆弾って、こと?」
そして場所は分からずとも形状はおよそ予想がついた、先程の果物型爆弾がそれだろうとダイヤにも景和にも、この場のプレイヤーとウマ娘の誰にも容易く予想がついた。
「正解よ」
「はい、タイムリミットは日没。もし、爆発してしまったら人質の命は助かりません。…永久に」
そう、あの爆弾が怪文書でいう時限爆弾。
ちなみに怪文書の翻訳、その全容は
『お前達の世界に時限爆弾を仕掛けたタイムリミットは日没 爆発したら人質の命は助からない 永久に』
と書かれている。
「脅迫状まで送りつけるなんて成長したなあ~!」
「カカジュジュ」

そこから少し時を遡り、昨日夕方。
怪文書の送り主であるジャマト、通称爆弾魔ジャマトがアルキメデルの庭園に留まり、脅迫状を書いている。
そんな手口を行うまでに成長したことをアルキメデルは褒めたたえる。人間の子供が やっていたとしても、褒められたものではないそれをだ。
「ん? 結局気を失ったか…まあいいさ」
そこへ道長がポーンジャマトに運ばれてくる。
ニラム達が去ったあと意識はあったようだが、また探索をしていて気を失ったところをポーンジャマトに見つかったのだった。
