中途半端戦闘SS

中途半端戦闘SS


あくまで自称ではあるが、カクの感性はそれなりに一般人寄りである。


政府に諜報員として育てられ超人として働いてきた事実と重ねて見れば首を傾げる者もいるかもしれないが、少なくともカク自身は自分の感性が大衆とそう離れていないと考えている。

それ故に。


「なんで上はわしにこの任務をやらせようとしとるんじゃあ!?」

「うるせェ」


サイファーポール"イージス"ゼロ。

世界政府ひいては世界貴族直属の諜報機関としての最上位に位置する組織であり、政府と国家間でのやり取りの仲介役として送り込まれる任務も少なからず存在する。

今回の命令はまさしくそれであった。島や国の権力者との会談・交渉を主目的とし、同時に保有武力を筆頭とした一帯の調査。そして万が一の際は彼の『本業』の刃を振るえ、と。


「監視調査だの交渉だのはいいんじゃ別に! 問題は場所! ウォーターセブン、それもガレーラ相手なんぞ最早嫌がらせじゃろ!?」


ばしんばしんと机を叩いて抗議する。命じられた場所は他ならぬウォーターセブン。以前カクと目の前にいるCP0総監、そしてもう二人で五年という歳月を潜入に費やし、そして裏切った場所。

「ハッ、今更気にしてんのか」

「当然じゃ!……お前さんのその図太さ、時々羨ましくなるわい」

思わずカクはため息をつく。あの一件以来、カクはウォーターセブンには近づかないようにしていた。此方も仕事であったので別段後悔だの執着だのがある訳ではないが、それはそれ。クビ宣告すらされたというのにどの面下げて行けと言うのか。


「それにわしじゃなくても……ステューシーとか」

「長期任務に出ていることを忘れたか」

「スパンダム……」

「奴も顔は覚えられているだろう。その上武力もない。それに今、始末書対応に追われてる」

「お前のせいじゃろそれ!? じゃあルッチが行けばよかろう!」

「総監が週単位で単独行動が出来るとでも?」

「ぐぬぬ……」

目の前の総監殿を睨みつけるが何処吹く風である。この幼馴染は正論しか吐かないから質が悪い。

面白がっていながらも年下の駄々が鬱陶しくなってきたのだろう、今までは形式上正面に向いていた体を椅子ごと横に回して宜しくない態度で顔を逸らす。

「カクとして会えとは言われてねェんだ、偽名でも使えばいい。顔、特に鼻を隠せ。口調と声を変えろ。特徴的だからこそ見えなければ認識されない」

「むう……分かっとるわい。バレたら話し合い所ではなくなるしの」

むくれながら渋々了承すれば、ルッチは口の端を吊り上げ悪役もかくやという風に笑った。体制側のしていい顔ではないと常々思う。

「いざとなれば逃げればいい、屋根上は独壇場だろう?『山風』。なァに、その時には上の采配の問題だと苦情でも入れるさ」

「それでまた始末書が増えるんじゃろうな」



───────


なんてことの無い日であった。

ガレーラから買い出しを任され、幾度も訪れた下町を水路に沿って歩く。ヤガラブルの気の抜けた鳴き声をBGMに過ごす昼下がりは仕事中であるとはいえ穏やかそのもの。

海賊を始めとした荒くれ者達が結構な頻度で訪れるとはいえガレーラの船大工には総じて敵わず、街の平和は保たれている。被った皮を考えれば表立って戦うこともなし、ウォーターセブンに来てからあの校則違反上等化け物揃い中学校の生徒会長も随分平和ボケしたものだと伸びをする。


「ヒョウ太~~!今日もお使いかぁ?精が出るなあ!」

「この前は手伝いありがとうな~!ほいこれおやつにでも持ってけ!」

「これ、ガレーラの皆に差し入れとくれよ!」

市場へと差し掛かればどやどやと声を掛けられる。ポケットの中に土産を詰め込まれヒョウ太のキャラクターが親しみやすいことは勿論、あのガレーラで働いているぶっちぎりの最年少ということも一役買っているのだろう。

さて仕事場に戻ろうとくる、と体を反転させて。

「────?」

見覚えのない白が視界に入った。


「ごめんおじさん、荷物置かせて!」


───────


走る、走る。視界を狭める仮面もばさばさとした装束も逃げることには適さないが、そこは慣れ。

走りながら背後を確認すれば、殺意は無いが明確な敵意を放つ追跡者の姿が見える。カクと同程度の体格をした黒い影、顔は自分と同じく仮面に覆い隠されており相手が誰なのかすら分からない。

(心当たりは……あり過ぎて分からんな)

くるくる巡る思考回路であらゆる組織の内情を思い浮かべるが特定は出来ず。ただでさえ恨みを買いやすい世界政府の汚れ役なのだ、いつ居場所がバレ襲撃されても不思議ではない。しかしだからと言ってこんなところまで……ウォーターセブンにまで来なくたっていいだろうと吐き捨てた。

路地に入り込み壁を蹴って屋根の上へと飛び移る。これら一連の動作には一切の音もなく、そして気配もなかったはず。

だが。

(……しっつこいのう!)

痕跡を消して捏造して別の道へ誘導して。それでも尚追ってくる存在にカクは思わず舌打ちする。相当の手練であることは間違いないあの相手は一体どこから差し向けられたのか、報告を上げねばなるまい。……帰れれば、の話であるが。

屋根上から路地裏まで。人目を避けた縦横無尽のチェイスに終わりが見えず、いっそ騒ぎになったとしても正面から潰すべきかと考えた時。

ふと、危険を察知した本能に従って反射的に横へと体を逸らしたその一瞬後に。

「──ッ!」

カカカカッ!!!と背後から目の前の壁に何かが撃ち込まれ、ひび割れを作ったのを思わず立ち止まり凝視すれば破壊の元はすぐに分かる。

(釘ッ!?)

銃かなにかであればまだ想像の範疇であったものを、釘である。錆びたそれは廃材から引き出されたものだろうか。

石の壁にすら埋まるのだ、簡単に致命傷を与えることの出来る速度で音もなく飛んでくる鋭利なそれはいっそ銃より悪質である。先程まで殺意はないと考えていたのをカクは脳内で即座に訂正した。

兎にも角にも、立ち止まってしまったからには応戦しかあるまい。振り向くと同時に足を横薙ぎに払えば、異常な脚力によって発生した斬撃が狭い路地の幅を埋めて飛ぶ。が、釘を飛ばした下手人はそれを跳躍によって回避する。この程度は小手調べの想定内、驚くことはない。

「何者ッ!!」

問いかけに答えはなく、代わりに何か──恐らく釘を投げるモーション。咄嵯に身を屈めて避ければ頭上を風切り音が通り過ぎる。しゃがみ込んだ姿勢のまま今度は此方からとばかりに跳び、懐へ潜り込んだ。

「『指銃』ッ!」

心臓の位置に人差し指を突き立てれば確かな手応え、だが刺し貫くことは出来ない。ラフな服にこそ穴は空いたものの触れた生身は鉄のように硬く、普通であれば人間のそれとは思えない、しかしカクにとっては慣れた感触。


(鉄塊じゃと!?)

サイファーポールであれば当然の防御手段。ならば、まさか。

カタカタと思考回路が回る。

可能性は二つ、相手が脱走もしくは逃亡した裏切り者であるか、それとも世界政府による足切り、……カクの始末か。

常に最悪の想定をするのはとっくの昔に身に付いた癖である。前者であればいいが、もし後者だったなら。

胸元に届いたカクの腕を掴もうとする手を紙絵で掻い潜って距離を取る。


「目的ぐらい教えてくれてもいいと思うんじゃがの」




おわり おわりじゃないが

終わらね~~~!!!戦闘描写とかわかんね~~~!!!単調~~!!!

諦め

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